司令部A棟の修羅場
銃撃戦が始まった。
カレーの匂いと黄土色の煙幕で満たされたA棟ロビーに、銃撃の嵐が吹き荒れる!
ビオラは手近にいたフェイとコンポンに飛びついた。
2人を抱えてロビー中央の管理人業務カウンター裏に転がり込む。後に続いて飛び込んできたスレヴィ・マルギーも頭を抱え、必死の形相で床に伏せた。
「だーーー!修羅場や戦争や!!そやから逃げよゆうたやんか!!!」
「でもさっきまではちょっと楽しかったよね。」
「何やねんマルギー、そのお気楽な発言は!あり得へんやろヤバすぎや!!!」
ぶちキレ喚くスレヴィを横目に、ビオラは唇を噛みしめた。確かにこれはヤバすぎる!
(相手はプロ戦闘員、数も半端じゃないわ!なのに味方はまだ多くが拘束されたままで戦えない。
武器の量も質も段違い、戦力差がありすぎる!
イヤになるわね、絶望的よ!!!)
心の中で舌打ちしつつ、覆い被さるようにして守っている子供2人を抱きしめる。
その時、ハッと気が付いた。・・・1人、足らない!?
(・・・シンディ!?)
心臓が鋭く悲鳴を上げた。血が凍る思いに息が詰まり、目の前が暗くなる。
しかしその時、誰かが体を丸めるようにしてカウンター裏に飛び込んできた。
A・Jだ。シンディを胸に抱きかかえている。
「シンディ!よかった、ありがとうキミ!」
「・・・。」
ビオラの謝礼は無視された。A・Jは無言でシンディ放し、腰のベルトに手を回す。
敵から奪った2丁の銃を素早く抜くと、カウンター越しに乱射し始めた。
ややトリガーハッピー気味だが、心強い。
A・Jの勇姿にビオラは安堵の吐息を付いた。
フェイとコンポンにこのまま伏せてるよう指示を出し、放心しているシンディを優しく抱き寄せいたわってやる。特に怪我は無いようだ。
「シンディ、大丈夫?」
「・・・。」
反応がない。ビオラの声などまったく聞こえてないようだ。
「シンディ?」
心配になって顔をのぞき込んでみる。
勝気で強気なシンディの険の強い顔立ちが、まるで別人のようになっていた。
ぼんやりしていて、目がうつろ。
しかもまだ産毛が目立つ両頬には、ほんのり朱が差している・・・。
「あ、これフラグが立った。」
「アレだよな、危ないところを助けてもらって ズッキューン ♡ ってヤツ?」
「・・・え?」
姉貴分の声は聞こえなくても、日頃悪態付き合う仲間のコソコソ声は聞こえたようだ。
呆けていたシンディが微かに反応した。
「ズッキューン♡」の意味が少しずつ、マヒした頭に浸透する。彼女は突然正気付き、血相変えて喚きだした。
「はあぁ?!何それ、どーゆー意味よ!?
ア、アタシは何もそんな・・・何言ってんのよ、こんな時にーっっっ!!?」
ツインテールを振り乱し泣きそうな顔で取り乱す、ウブで可愛いツンデレ娘。
正直大好物だった。いじり回して遊んでやりたいところだが、今はホントにそれどころじゃない!
「黙って伏せて!!!」
ビオラはシンディの頭を押さえ、電磁ムチを閃かせた!
カウンター目がけて飛んできた手榴弾が、ムチ先に撃たれ反転する。
手榴弾は近くの窓へ飛び、ガラスを突き破って屋外へ出た。
きっかり5秒後、爆発音と同時に上がった火柱にゾッとした。ナパーム弾だ。あんな物まで使ってくるなんて!?
「冗談じゃないわ!あいつらホントに戦争する気じゃないでしょうね!?
・・・ちょっと、カルメン!!!」
ビオラは声を張り上げ相方(?)を呼んだ。
「ナパーム弾が飛んできたわ、あんなの喰らったら全員あの世行きよ!」
銃、持ってんでしょ?!ちゃんと防ぎなさいよ、使えないわね野蛮女!!!」
敵方の猛攻に2丁拳銃で応戦するカルメンは、切羽詰まったビオラの声に舌打ちした。
「お黙り蜂蜜女!死にたくなかったら手榴弾の1つや2つ、自分でなんとかしてみせろ!
ぎゃぁぎゃぁうるさいんだよ!役に立たないヤツはすっこんでな!!!」
ヒステリックに怒鳴り返す間にも、事態はどんどん悪化する。
休憩用ベンチを横倒しにした即席バリケードが絶え間なく打ち込まれる銃弾に悲鳴を上げる。
敵から奪った銃の残弾はあとわずかだし、替えの弾倉など手元にない。
それでも自分1人ならなんかなるが、隣には耳を押さえて縮こまるロディがいる。
迎撃も退却もできない、かなり厳しい状況だ!
「ヤバイッス!これ、多勢に無勢ッスよ!」
怯えるロディが泣き言吐いた。
「諦めるな、アホ!寝言はアレ見てからほざけ!」
カルメンはついに弾切れになった銃を投げ捨て、その手で舎弟の襟首ふん捕まえた。
無理矢理立たせてバリケードの端から敵の様子を覗かせる。
「ちょ、何するんッスか危ないッスよ!・・・って、ええぇ?!」
ロディが目を剥き悲鳴を上げた。
バリケード向こうには、恐ろしい光景が広がっていた。
銃弾の嵐の中を、女戦士が疾走する。
彼女は敵の攻撃を巧みにかわし、あっという間に間合いを詰める。
鬼気迫る形相で敵陣中に突入し、驚異的な強さを見せつけた!
拳一振りで防弾チョッキのボディが凹み、蹴り一発で機関銃がねじ折れる。瞬く間に同胞が倒されていく恐怖に武装兵達は浮き足立つ。
「鉄巨人」と恐れられるシャーロットの猛攻は、たった1人で敵方戦力を半数にまで削ぎ落すほど壮絶だった。
若い武装兵の腕を掴み、拳を振り上げたシャーロットは、突然そいつを突き飛ばした。
腰に吊したアサシン・ナイフを素早く抜くと、自分を狙った凶刃を振り向き様に受け止める。
ガキィン!
火花を散らして激しくぶつかる刃の音が、銃撃戦に終止符を打った。
力で押し返えされた襲撃者は身を翻し、即座に体勢を整える。
そして、真正面から向き合う形でシャーロットと対峙した。
「サムソン・・・。」
「その名を呼ぶな!」
シャーロットのつぶやきに、隻眼の男が語気を荒げた。
「何故知っている!?」
「戦場だ。」
「・・・そうか。だが俺はお前など知らん!」
「お前が覚えてないのも無理はない。」
怒気も露わな隻眼の男に対し、シャーロットは冷静だった。
油断なく相手を見据えながらも、落ち着いた口調で言葉をつなぐ。
「私は無戸籍の傭兵だ。
あの時、お前は 地球連邦政府軍、正規の軍人 だった・・・。」
「サムソン」と呼ばれた男の顔つきが変った。
隻眼に殺気が満ちていく。男は無言でナイフを構えた。
シャーロットも身構えた。眼前にかざす白刃が鋭く光り、相手の男を威嚇する。
2人の気迫に飲み込まれ、誰1人として身動きできない。カルメン達も武装兵達も、固唾を飲んで戦士達を見守った。
ほんの数秒でも長く感じる、危険な静寂。
その緊迫した空気は突如、思いがけない形で破られた!!!
「あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁあ"あ"ぁぁぁーーーーー!!!」
野獣の咆哮が轟いた!
聞こえてきたのは上からだ。全員、弾かれたように振り仰ぐ。
そして、見た。
司令部A棟の天井に、無数の亀裂が入るのを!!?
「全員撤収!怪我人は見捨てるな!急げ!!」
サムソンが叫ぶ。
それが行動の引き金になった。シャーロットも踵を返し、中央カウンターへ突進する。
「カルメンさん、伏せて!!」
ロディがウエストポーチから手榴弾のような物を5,6個取り出した。
まとめて一気に安全ピンを引き抜くと、辺り一面まき散らす。
手榴弾が炸裂するのと、シャーロットが床を蹴ってカウンター裏に飛び込んだのは、ほぼ同時のタイミングだった。
轟音が鳴り響く。
天井が崩れ落ち、A棟建屋は倒壊した。
いったい、何が起ったのか?
それを確認できたのは、辛うじて建屋外に脱出できたサムソンと数名の部下達だけだった。
砂塵が煙るA棟残骸の上に、「バケモノ」が居る。
額から血を滴らせ、ギラギラ光る異様な目で、必死で何かを捜している・・・。
「こんな時に・・・。バケモノめ!」
負傷した若い部下に肩を貸してやりながら、サムソンは忌々しげに舌打ちした。
武装兵達が呆然と見守る中、「バケモノ」はひたすら捜し続けている。
モカ を。
「後宮」の鍵たる焼き印を穿たれた、彼の異腹の「妹」を!
「があああぁぁああぁぁあぁーーーーーっっっ!!!」
強化ガラスの残骸が降り注ぐ中、リーベンゾル・タークは天を仰ぎ、絶叫した。




