独裁者の行方
苛烈を極めた『リーベンゾル大戦』後、地球連邦政府軍が決行した大規模な空爆。
『7日間の粛正』と呼ばれる宇宙艦隊による爆撃は、リーベンゾル帝国が領土と主張する小惑星の形が変るほど壮絶だった。
主要な都市を破壊し尽くした後、地球連邦政府軍は傭兵部隊ではなく正規の地上歩兵部隊を投入した。
目的はあくまで「人命救助と被災者の救済の任務」。
しかし彼らが真っ先に向かったのは、財政を管理する国庫と元・元首住居の宮殿跡地だった。
目的は見え透いていた。
実に浅ましかった。
「・・・だが、奴らは何も発見出来なかった。」
「えぇ、そうです。」
タークが暗い目をして頷いた。
「先の『大戦』で元・元首が他国から強奪した、莫大な数にのぼる金品・財宝・文化遺産は、何一つ発見出来なかったのです。
だからでしょうね。連邦政府軍が傷ついた民を見捨ててさっさと引き上げたのは。」
グラスにたゆたうブランデーの、澄んだ琥珀色が美しい。
それを眺めて皮肉に笑うタークを、エメルヒはじっと見守った。
この悲しげな表情は、本物だろうか、それとも・・・。
「国庫を埋め尽くし有り余っていた財宝はどこへ消えたのか?
それを明確に答えられるのは、実子であり現・元首である私のみでしょう。
それらは今、全て『後宮』に眠っているのです。
元・元首は『大戦』後すぐ、ありったけの金品財宝を『後宮』に持ち込み、そこで拉致監禁していた女性達と籠城したのです。」
「籠城?!」
エメルヒは驚き、目を剥いた。
『リーベンゾル・ゴルジェイ、領土内に所在、つかめず。その行方、不明。』
『大戦』後、リーベンゾルに潜入し諜報活動を遂行したある小隊が全滅と引き替えに入手したこの不穏な情報は、太陽系中を震撼させた。
独裁者の消息について様々な憶測が飛び交った。
暗殺・病死などの死亡説はもちろん、領土内地下潜伏説、火星・金星潜伏説、整形して別人なりすまし説、地球連邦非加盟国の隠匿説・・・。不謹慎なTV局や映画会社などがコレをネタに作品を創り、激しくバッシングされたほどである。
『7日間の粛正』後、リーベンゾルに赴いた連邦政府軍が徹底的に捜索しても独裁者の消息はつかめなかった。
その事が人々を不安にさせた。
いつかまた、現れるのではないか。また『大戦』を引き起こすのではないか。
漠然とした恐怖は、『大戦』後10年経った今でも人々の心に燻り続けているのである。
「行方不明?そうですね、一般的にはそのように言われています。
しかし事実は違う。あの男は自ら望んで身を隠したのです。」
「い、いったいなぜ?」
「・・・わかりかねます。」
誰もが知りたがるだろう問いかけに、タークはさらに顔を曇らせた。
「『大戦』時、我が国の軍勢は小惑星エリアを超え火星周域にまで達していた。
当時の戦況は明らかに我が国が優勢だったはずです。
なのに彼は突然、権力も義務も、国も民も見捨てておぞましい欲望に走った。
とても理解できるものではありません・・・。」
確かに理解不能だ。
人類に未曾有の被害をもたらした『大戦』を起こしておきながら、実の息子にも理由を教えずハーレムに引き籠もるなど、とても容認できる話ではない。
「それじゃ、ヤツは今・・・。
リーベンゾル・ゴルジェイは、今も『後宮』で女ぁ囲って暮してやがるんで?」
しかも、ありったけの財宝を全部持ち逃げしてである。
あまりの話にさすがのエメルヒも唖然となった。
しかし呆けるエメルヒの顔を見返すタークの目は鋭い。
「いえ、生きてはいないでしょう。」
断言する言葉の語尾は、厳しかった。
仮にも実父である男の生存を強く否定したタークは、強い口調のまま話を続ける。
「『後宮』があった辺りは空爆が特に激しかった区域です。
直近の街にはKHミサイルまで投入されました。
近年発見され兵器として開発されたKH線が人体を脅かす影響は凄まじい。
生存など不可能です。考えるだけ無駄でしょう。」
「しかし、その死を確認されたわけではない?」
「残念ながら。連邦政府軍が使用したKHミサイルはその地域一帯を汚染しました。
特に『後宮』周辺は今でも線量が高い。空爆から6年たった今でも誰も足を踏み入れられないのです。
・・・しかしその死を確認しないわけにはいかない事態が、今我が国では起っている。
国内には『大戦』で疲弊した民を混乱させる武装組織が数多く存在するのです。
驚く事に彼らはまだ元・元首が生きていると信じている。汚染された『後宮』周辺を囲うように支配域を築き、我々が介入するのを頑なに拒むのです。
まるで『後宮』を神が祭られている神殿であるかのように。困ったものです。」
「リーベンゾルにゃ、今でもそんな奴らがいるってぇんですか・・・?」
エメルヒの顔にも苦悶の色が浮かぶ。
恐怖が蘇ってきた。かつて傭兵として身を投じた、あの悪夢でしかない『大戦』の恐怖が・・・。
エメルヒはブルッと身を震わせた。
「い、いやそこまではわかりました。
しかしですよ?それが今回のご訪問となんの関係がおありで?」
「我々は何とか『後宮』内部に侵入し、恒久平和と人々の心の安寧のためにも元・元首の死を確実な証拠とともに全太陽系に示さねばならない。」
「ですから、それが何で・・・?」
「 焼き印 です。」
きっぱりと言うタークの様子が不意に変った。
物腰の柔らかい紳士的な雰囲気が消え、静かに覇気をまとったのだ。
「『後宮』の性奴隷には、その証として体のどこかに 焼き印 が施されているのです。
そしてそれが『後宮』の最奥にあったという、拷問部屋の認証パスなのですよ。
元・元首の亡骸もあまたの財宝もそこにある。
認証パスでしか決して開かない、強固な防御システムで守られた扉の向こうにあるのです。」
タークは異様に光る目でエメルヒを見据え、静かに、しかし容赦無く詰め寄った。
「ミスタ・エメルヒ。我々も無駄に歳月を過ごしてきたわけじゃない。
あの忌まわしい空爆の中、無名の傭兵に助けられた少女がいる事実は掴んでいた。
ラジオで事を明かした娘の人間性はともかく、私自身の勘がその暴露は真実だと告げている!
いるのでしょう?間違いなくここに!!
当時10歳ほどだった少女・・・おそらく、私の『妹』が!!!」
もの凄い威圧感に全身が総毛立つ。
ギラギラした目に正面から絡め取られ身動きが取れない。
この男には勝てない!自分の本能がそう叫んで喧しく警鐘を鳴らす!
(返答を間違えれば殺される。畜生、リュイの野郎さえいれば・・・!!!)
今更ながら、エメルヒは自分の浅はかさを呪った。




