最果てからの来訪者
(お、落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け・・・。)
エメルヒはひたすら自分に言い聞かせた。
それでも心臓がバクバクうるさいほど暴れ狂い、冷や汗が止まらない。
「い、いやぁ、こいつぁ・・・。
ゴメンなすってよ、私ぁ育ちが悪くてね。失礼があるかも知れませんが、ご容赦くださいよ?」
改めて、震える手で握手をかわす。タークは悪戯っぽく微笑んだ。
「それは私もですよミスター。太陽系最果てから来た田舎者にお気遣い不要です。」
エメルヒは舌を巻いた。
(なるほど、マスコミが騒ぐとおり人好きする男だな。
さっきからうるさいエマージェンシーコールはこいつの仕業だろう。まさか1人で乗り込んできたんじゃあるめぇ。兵隊を散らして基地を制圧しやがったんだ!
畜生!こんなことなら、リュイの野郎を追っ払うんじゃなかったぜ!)
頭の中で忙しく考えながらも、平静を装い笑顔を作る。
相手の意図が見えない以上、感情を損ねてはマズイ。
「で、どうやってここまでこられました?
確かもう連邦政府がこの宙域を封鎖してるはずだし、エベルナは小惑星植民コロニーだ、コロニー入口の宇宙港『ゲート』を通らにゃ出入り出来ないはずなんですがねぇ?」
「二つの回答ができます。」
タークは快く質問に答えた。
「一つは『我が国は連邦政府加盟国ではない』ということです。
連中が何を言おうとその命令に従う義務はない。ただ彼らはいささか好戦的ですからね、用心はしてきましたよ。
我が国の優秀な技術者が製造した最新のステルス機で馳せ参じました。連中のレーダーでは捕らえられない太陽系未発表の機種です。
・・・もっとも、連中がこのシャトルをみたら『戦争準備の為の開発』とくるんでしょうけどね。何度も言っているが我々に戦争の意志はない。迷惑な話です。」
「二つ目は?」
「エベルナの入区管理局に事情を話してご協力いただきました。ちゃんと『ゲート』を通って来ましたよ。ご安心ください。」
一つ目の回答とうって変った簡素な答えだ。しかしコレはあり得ない。
連邦政府軍の規制が入った以上、地球連邦加盟国であるエベルナ入区管理局は宇宙港『ゲート』を閉鎖するはず。「ご協力」などできるわけがない。
(おいおい、入区管理局の連中、生きてんだろうな???)
不審が顔に出たようだ。タークが同じ言葉を繰り返す。
「ご協力いただいたのですよ。ミスタ・エメルヒ。」
微笑は崩していないが、目が笑っていない。
(余計な詮索はするな、か。なるほど。)
背筋に冷たいモノが走り、エメルヒは小さく身震いした。
「一杯いかがです?」
キャビネットへ足を運び一番高価なブランデーを引っ張り出した。
気分を落ち着かせるためにも飲んどいた方が良さそうだ。滅多に来ない上客用に揃えた高級酒だが、こうなったら仕方がない。
しかし、タークは丁重に断った。
「いえ、結構です。すぐにお暇します、お気遣いなく。
ご理解いただけると思いますが、このような訪問になってしまい非常に恐縮しています。
ご無礼へのお詫びは後日、必ずさせていただきましょう。・・・さて、ミスタ-。」
タークの顔から笑みが消えた。
「私の『妹』に、会わせていただけますか?」
(そら来やがった!さぁてどう切り抜けるか・・・。)
エメルヒはゴクリ、と生唾を飲み込んだ。
「これは遠くからご足労いただきまして恐縮ですな。
生憎ですが寝耳に水、とはこの事でしてね、こちらも今確認中なんですわ。」
「事実確認中、ですか?困りましたね、地球連邦政府と同じ事をおっしゃる。」
深く追求されたらマズイ。エメルヒは話題をそらす作戦に出た。
「いや、相済みませんなぁ。・・・それにしても、ですよ?
何でまた、こちらへ出向いておいでに?
貴方は今、連邦政府加盟国ではテロリストとして認識されつつある。連邦政府軍に見つかったら妹さんに会うどころじゃない、ご自身が危ないでしょ?
それに『後宮』の被害者だと名乗りやがる連中は、太陽系中たくさんいますよ?
そいつらに振り回されちゃあ、あちこちで交通渋滞起こしてくれやがるマスコミ連中じゃあるまいし、なんでローカルラジオで小娘が言った戯れ言を信じるんです?
あの娘は頭のネジが何本かぶっ飛んでる。そんなヤツの言う事真に受けるのは、ちょいとどうですかねぇ?」
「・・・お答えしなくてはなりませんか?」
「是非お聞きしたいですな。
私はここの主でね、仮に妹さんがここにいるとしても、命を預けてくれる部下達を納得いく理由も分らねぇままお引き渡しはできんのですわ。」
相手の物腰が柔らかいのでつい強気に出てしまった。
(我ながら適当なことを言うもんだ、俺ぁ絶対口から先に生まれたにちげぇねぇや。)
平静を装いながらも、内心冷や汗ものだった。
「そうですね・・・。」
タークが少し考えるぞぶりを見せた。
「おっしゃるとおり、私も地球連邦加盟国圏の宙域では非常に難しい立場だ。
だから迅速に事が運ぶよう今回のような強行手段を取らせていただいたのですが・・・。
わかりました、お話しましょう。
あぁ、やはり一杯いただけますか?少し長い話になる。・・・ここに座っても?」
「え?えぇ、どうぞ!是非!!」
心拍数が一気に跳ね上がった。
慌ててソファを進め、まだ封さえ切っていなかったブランデーを開け、クリスタルガラスのグラスに注ぐ。
(いい流れだ。なにをくっちゃべるかは知らねぇが、こいつぁ面白くなってきた。
さてさて、吉と出るか、凶と出るか・・・?)
ブランデーの香気がほどよく興奮をあおり、エメルヒはほくそ笑んだ。
エメルヒはかつて、戦場で狡猾さを恐れられた名うての傭兵だった。
しかし本人も嘆くように、やはり歳を取ったのかも知れない。
モカがテーブル下に取付けたロディ作成の盗聴機に、未だに気付かないのだから。




