表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
ハルモニアの暴露
69/409

シチューと野宿と優しさと

どこかからデミグラスソースの匂いがする。

(今日晩ご飯の献立は、ビーフシチューなのかな。)

モカは小さなパウチの封を開けた。

中身はビスケットタイプのコンバット・レーション。ウェストポーチに入れていつも携帯している非常食である。

辺りはもうすっかり暗い。エベルナの統括司令基地には夜が訪れていた。

B棟裏手のスレヴィの隠れ家で、廃タイヤに座るモカはコンバットレーションをかじった。

今夜はここで野宿するつもりだ。ここなら静かだし人目にも付かない。

体を休めるくらいなら何も不自由はしないだろう。


ナムが親友(?)のA・Jとグラウンドで騒いでいる頃、フェイと別れたモカはメイン司令塔に近いA棟裏手に向かった。

エメルヒの司令室に置いてきたのはキャスケットだけじゃない。こっそりテーブルの下に盗聴機を取付けておいたのだ。

強い電波は探知される恐れがあるので出力を最小限に抑えている。盗聴にはなるべく機体に近づく必要があった。モカがA棟裏手で盗聴を開始した時にはもう重要な話は終わっていたが、傭兵部隊がまた「仕事」を押しつけられる会話は聞けた。

エメルヒの思惑はすぐにわかった。「捕獲」に邪魔なリュイを追い払ったのだ。

今はまだ無事に逃げおおせている。けどいつまでも続かないだろう。

きっと明日朝一で命令される。たった1人での司令室への出頭を。

(でも、そんな事どうでもいい!局長・・・私の所為でまた、戦場へ・・・。)

モカは小さく吐息を付く。

手元に残ったかじりかけのレーションは、もう食べる気にはなれなかった。


リーベンゾルでリュイに救われてから、モカは今日まで彼と共に生きてきた。

幾度となく「仕事」へ向かうリュイを見送り、「もう会ないかもしれない」と怯える日々を送ってきた。

傭兵達は戦場へ赴き、自らの手を血で汚して命を削る。彼らがどんなに強かろうと、必ず生還するとは限らない。そんな保証など、どこにもないのだ。

しかも今回の「仕事」は自分が原因。自分の所為でリュイ達が危険な目に遭うのだと思うと、我が身の心配どころではない。

ましてや、食欲などもうちっとも・・・。


「こーら!またアンタが1人でふさぎ込んで!」


思いに浸っていたモカは、驚いて顔を上げた。

カルメンが立っていた。手に丸いパンとシチューの皿をのせたトレイを持っている。

「こういう時こそメシ喰いな!ってのは、リーチェ姐さんの台詞だけどね。

喰いたくない気持ちはわかるけど、そんな事でどーすんの!

アンタ、ただでさえ食が細いだろ?そんなんじゃ胸だって育たんでしょーが!」

「ええぇ!!?」

胸を押さえて飛び上がる。こんな時だというのに、心の底から狼狽えた。

慌てた顔が可笑しかったのか、カルメンは失笑してモカの隣に腰を下ろした。

「コレ、ビックリするほど不味いけどね、栄養はあるはずだ。少しでも食べな。」

「・・・ごめんなさい。いただきます。」

差し出されたトレイをおとなしく受取る。シチューはまだ仄かに湯気が立っていた。


小惑星植民型のコロニーは、環境調整システムで空気中の酸素や湿度が管理されている。

その為かB棟裏手のスレヴィの隠れ家は、安普請な寄宿舎よりも快適だ。

「ここ涼しいな。今日はアタシもここで寝るわ。」

「!?でも・・・。」

「遠慮、しない!」

「・・・。」

ピシャリ、と言われて口をつぐむと、別の人の声がした。

「そうよ、モカ。こういう時くらい甘えなさい。」

毛布を抱えたビオラが歩み寄ってきた。

「・・・仲間、でしょ?」

優しく微笑み、毛布を差し出す。ビオラの一番美しい表情だ。

「ありがとうございます・・・。」

感謝の気持ちで胸が一杯になる。モカは素直に毛布を受取り、小さくお礼を口にした。

見る者を魅了して止まないビオラの微笑。しかしカルメンには通じない。

カルメンは眉をつり上げ立ち上がった!

「アンタはチビ共見てろって言っただろ!なにしゃしゃり出て来てんだ!」

「ルーキー達はロディがちゃーんと見てますぅ!

あの子達もここへ来たがったのよ?駄々こねて大変だったんだから。」

「局長がいない時の指揮官はアタシだ!

空っぽの頭でも命令くらいわかるだろ?!ちったぁ従え、この出しゃばり!」

「うっさいわねぎゃぁぎゃぁと!

ミッション中でもあるまいし、なにが指揮官よ、エラそーに!

そっちこそこれ見よがしにお節介かましてんじゃないわよ!嫌らしい!!」

「なんだと!蜂蜜女!」

「なによ!野蛮女!」

いつものケンカが始まった。

(全然隠れ家ってカンジじゃなくなっちゃったな・・・。)

モカは苦笑し、シチューをスプーンですくって口に運んだ。

心配してくれる人たちの、普段通りの様子を眺めながら食べる「ビックリするほど不味い」シチューは、少しだけ美味しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ