ハルモニアの暴露~動き出す帝国の魔手~
一方、ここはB棟脇の茂みの中。
あからさまに不審な男が1人、潜んでいた。
(こんなこったろうと思った。何やってんだかあの姐さん達は・・・。)
ナムは暗視スコープから目を離した。
(護衛するつもりなんだろーけど、あんなんで頼りになるかっつの!
今日は俺もここで見張ろう。禿ネズミがどんな汚い手使ってくるかもわかんねぇし・・・。)
近くで護衛したいのが本音だが、シャワー室で共闘して以来、モカにはすっかり避けられてるからそれはできない。それが心をひどく沈ませた。
(・・・まぁいいや。野宿だ野宿!)
寄宿舎に残したルーキー達はロディが面倒見てるはず。喧しい子供がいない分、野宿の方が快適に眠れるような気がした。
「あ、モカさんが笑ってる-!」
「よかった、ご飯食べてるわ!」
「すっげぇ不味いシチューだったけど、ちゃんと喰ってるー!」
ナムは咄嗟に両手で口を押さえ、飛び出しそうになった悲鳴を飲み込んだ。
いつの間にかルーキー達が自分の隣で各自の暗視スコープでモカの様子を眺めていた。
「だー!!お前ら、いつの間に!!!」
「さっき来た。」
「ナムさん、気付かなかった。」
「それ、諜報員としてヤバいんじゃない?」
(・・・ぐっ!)
痛い所を突かれた。
正直、モカしか見てなかった。
取りあえず一番手前のコンポンの頭をヘッドロックしておいた。
ルーキー達の後ろには、暗視スコープを覗いているスレヴィ・マルギー・ロディがいた。
「あー、あの子の事が心配なワケね。なるほど。」
「ありゃ昼間のネェちゃんやな。なんや、ワケありかいな。」
「いろいろ事情はあるんッスけどね。
ナムさんは円周率いい飛ばすくらいのワケがあるみたいッスよ。」
「なんでお前らまで居るんだよ!!?」
小声で喚くナムに、ロディがヘッドロックにもがくコンポンを指して肩をすくめた。
「こいつら、モカさんの様子見に行くっつって気かないんッスもん。俺も心配だったし。」
「ヒマだったからアンタらが泊まってる宿舎に遊びに行ったらさ、ごんぶと眉毛君達が出かけようとしてたから、、付いてきちゃった♪」
「A・Jも来ぃへんかっつって誘ったんやけどな、ものごっつ怒鳴られて拒否られたで。」
野次馬根性丸出しの変質者とオーサカ民が、茂みの影で陽気に笑う。
ナムは頭を抱えて項垂れた。
申し訳程度に植えられた茂みの中に、7人もいて騒いだらバレないはずはない。
ガサガサ暴れる植え込みに、カルメンとビオラのケンカが止んだ。
2人は呆うろんな目で茂みを眺め、モカは再び苦笑した。
その時だった。
ちゃっちゃちゃっちゃーん♪
ぱらぱらぱららら♪
てれっててーん!!!♪♪♪
いきなりB棟屋上に取付けられたでっかいスピーカーが、大音量で脳天気な音楽を奏で始めた!
「ぎゃー!!何なにナニ!??」
シンディが悲鳴を上げて飛び上がる。
他のルーキー達も、ロディもナムも、カルメン達も同様に度肝を抜いた。
慌てふためくナム達とは対照的に、統括基地駐在部隊にいるスレヴィとマルギーは冷静だ。
むしろ顔をしかめてうんざりしていた。
「そっかキミ達、まだ知らないんだ。コレさ、あんまり気にしない方がいいよ。」
「例の『アブナイ国のお姫様』がたま~にゲスト出演するスペース・ラジオ番組やねん。
お姫様がな、ローカル局過ぎて聞く人おらへん、ちゅうてゴネよるから、禿ネズミがご機嫌取りにこうやってわざわざ基地中に放送しやがるんや。
ラジオ放送終了までの30分、苦行もええとこやで、まったく!」
「はぁ?何それ!?」
ラジオ・パーソナリティのMCトークが聞こえてきた。
『ぼんじょーるのー(それ、イタリア語で「おはよう」とか「こんにちは」)!
太陽系1,000億のファンのみんな(現在太陽系総人口は公式発表で654億だ)!
今週もやって来ましたハートを熱くするこの番組!
「アイドル全員集合!みんなでワイワイオールナイト!!」(30分番組って聞いてるけど?)
今宵のゲストはすっごいぞ~!なんと!!!
先日火星で華麗にデビューした新星、カタストロフィP!
金星エリアのスーパーアイドル、パリダ・ゴンチャレスちゃん!
ついでにハルモニア・ピアーズちゃんだ(ついでかよ!!)!
さぁみんな、熱く語ろうぜ!
そーろんぐ(何でここで英語?しかも「さよなら」。もう終わるのか?)!!!』
放送開始10秒で番組の質がうかがえた。
IQ値が心配されるパーソナリティのMCトークの後は、ただひたすら女の子達がキャピキャピお話しているだけ。スレヴィが「苦行」と言った意味がよくわかる。
「バカじゃないの?!あり得ないほど、くだらないわ!」
カルメン達が容赦無くこの番組を罵倒する。
ナムも耳を押さえて傍らのロディにつぶやいた。
「なんちゅー意味のねぇラジオ番組だ!
もしここに局長達がいたら、コレ流す放送局を殲滅しに行きかねねぇ!」
「そッスね!コレ、流す意味あるんッスかね?!」
ロディもごんぶと眉毛をしかめ、喧しい少女達の声に苦情を漏らす。
「だいたい、どれがハルモニア・ピアーズの声なんっすか?
俺、さっぱりわかんねぇっすよ!」
この疑問は、直後にすぐ解決した。
それも太陽系中の人々を大混乱に陥れる、人類史上希に見るほど 最悪の形 で。
『はーい、みんな、ちゅーもーく!
今からモニィちゃんがメッチャすごい事、話しちゃいまーす♡
実はアタシぃ。
今話題の『後宮』の生き残りがどこに居るか、知ってるんだよねー。
『後宮』って、わっかるー?ほらぁ、あのリーベンゾルのぉ♡
その人ねー、エベルナってトコの傭兵部隊にいるの!ジャジャーン!!♪
しかもその人ってぇ、あのゴルジェイのオトシダネなんだってー。
オトシダネって、隠し子の事でしょぉ?それって、すっごい事だよねー♪
あ、そーだ、『後宮』ってハーレムの事なんでしょぉ?
その人って、そこで実の父親と・・・なんだって!
きゃー、ヒサン!すっごいカワイソーだよねー!!!』
統括司令基地全体の空気が、一瞬で凍った。
ラジオ放送はその後突然中断した。
地球連邦政府軍公安局の検閲が入ったと思われる。
願い焦がれた放送の終了は早々に叶ったが、訪れた静けさは、死の静寂だった。
言葉を失い立ち尽くすナム達の耳に、何か軽い金属が落ちる音が聞こえた。
モカの手から滑り落ちたスプーンが、コンクリートの地面で跳ねる。
その音は、ひどく大きく聞こえた。
この「国」では、毒性の強い酸性の雨が降る。
最新鋭の環境調整システムを用いても、化学兵器の汚染はなかなか改善されない。汚れ果てた環境の浄化が成し遂げられるのは、いったいいつの日になるだろう?
広い室内で明かりも付けずに窓辺に立ち、降りしきる雨を眺める男が悲しげに吐息を付いた。
重い扉をノックして中年の女が入ってきた。
柔和に微笑む中年女は男の傍らに歩み寄り、簡潔に報告した。
「シャトルのご用意が整いました。」
「機種は?」
「一番早いものを用意いたしました。すぐ発たれますか?」
「ありがとう。今すぐ発つよ。」
男は振り返り、白い歯を見せて笑う。
「さぁ、行こう。
救済すべき『後宮』の生存者、私の『妹』を迎えに・・・!」
中年女もニッコリと笑う。
そして大きく扉を開いて送り出し、廊下を遠ざかる「主」の背中に上品に一礼した。
雨足がまた強くなった。
遠くで雷光がイビツに天を裂き、雷鳴が轟いた。




