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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
ゴルジェイという男
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烈女の怒りを買う禁句


若い兵士が泣きじゃくる。骨と皮ばかりの少将の胸に 顔を突っ伏し子供のように。

そんな部下を敵将の男=ディパク曹長は無言でじっと眺めていた。

誰も言葉を掛けられない。

痛ましく悲しい光景だった。


( いや、そんな事より 俺、忘れられてねぇ? )


一方、エントランスホール中央のマットの上。

ナムは一人脇腹を押さえ、激痛に悶え苦しんでいた。


( 酷ぇな、撃たれたんだぜ? しかも電磁銃で!

死んじまったらどーしてくれンだ、まだモカとまともにデートもしてねぇってのに!

・・・そうだ、モカ!

モカはどうした!? 本当にここに来てンのか?!)


痛む銃創を庇いつつ 身体を起こして辺りを見回す。

開きっ放しの玄関の外がボンヤリ明るくなり始めている。夜が明けようとしているのだ。

お陰でそれにいち早く気付けた。

玄関口の両脇に潜む新手の襲撃者達がいる。逆光なのでよく見えないが 銃を構えているのがわかる!


「玄関の外!2人!!!」


ナムは大きく声を張り上げ、すぐ傍で涙ぐんでいたロディに覆い被さった!

ビオラがルドガーと新人(ルーキー)達を突き倒すようにして床に伏せさせ、カルメンが素早く玄関口に銃を向けて身構える。

テオヴァルトはもっと早かった。

彼はナムが叫ぶ前から打突武器(トンファ)を構え、もう走り出していた!

しかし。


 キュイン!


さらに素早い者がいた!玄関口の敵2人が 突然裂けた利き手の傷を押さえて叫び大きくよろめく。

そこへ打突武器(トンファ)の技が華麗に炸裂した!1人は顔面 1人はみぞおち。敵はそれぞれ血を吹きながら、その場に頽れ気絶した。

「あれは、屋敷の外を捜索していたはずの・・・!」

少将を抱き締め護る若い兵士が愕然と呟く。

そういえば、屋敷に侵入して来た時 カメラ搭載蜂型ロボ(スパイ・ビー)のカメラ・アイで確認した彼らの人数は5人だった。縮れ毛の男だけでなく 残り二人も「密偵」ならば、残念ながらこの歩兵班は 大半が裏切者(ラット)だったようだ。

「ま、しょうがねぇだろうな。

何のかんの言っても『大戦』から十年経ってんだ。恩だの義理だのの綺麗事なんざ 時効にしちまう奴もいるさ。・・・それはさておき。」

トンファーで自分の肩を叩きながら、テオヴァルトが苦笑した。

そして 玄関口の外へ目をやり 声を掛ける。


「やれやれ、さっきといい 今といい。

大人しく隠れてろって言っただろ? どーしてもって言うから連れて来たが、お前になんか有ったら 俺ぁ 大将(局長)にぶっ殺されるんだぞ!」


「す、すみません、つい・・・。」


耳に飛び込んできた懐かしい声に、ナムはガバッと飛び起きた。

正確には昨日 通信機越しに聞いているので そんなにご無沙汰なんかじゃない。それでも声は胸に染み入り 安堵で涙が出そうになった。

森に漂う朝靄の中、 ワイヤーソードを握りしめた モカ が佇んでいる。

テオヴァルトに叱られ縮こまる彼女は、少しやつれたようにも見えるが普段通りで元気そうだった。


( モ カ ・・・!!!)


心の声が届いたのか、モカがこっちを見てくれた。

ナムを見つけた瞬間の 嬉しそうな微笑みが愛しい。しかしその笑顔はすぐ消えた。

代わりに大きく目を見張り 泣き出しそうな顔になる。


「 ナム君、怪我してるの!?」


怪我の痛みもミッションも 何もかもどうでもよくなった。ナムは思わす立ち上がり、モカの元へと走り出す。

思いっきり抱きしめたい。強く強く そう思った。

ただ、残念な事に大抵の場合 そんな願いは 叶 わ な い。

恋人を抱きつこうとした瞬間、ナムは真横から突進してきた 何か に弾き飛ばされた!



「 モ" カ" さ" あ"ぁぁぁぁぁぁぁぁんっっっ!!!」



耳を劈く大絶叫が エントランスホールに轟いた!

シンディ である。彼女はナムをぶっ飛ばした後、その凄まじい勢いでモカに飛びつきしがみついた。

この義妹、身体はまだ小さいが侮れないほど馬力(パワー)がある。

しかも どうやら我を忘れて錯乱状態。そんな義妹の体当たり(ボディアタック)は、もんどり打って床を 転がるナムを大理石の壁に激突させた!


 ド カーーーン ッ ッ ッ!!!


・・・正直「死んだ」と思った。

無惨に倒れるナムの耳を、シンディの金切り声が痛めつける。


「う”わ”ぁーん モカさん! う”え”ぇ”ぇぇーーーんっっっ!!!」

「シ、シンディ?! あの、ナム君が・・・。」

「モカさんモカさん、びえ”ぇ”ぇ”ぇ”ーーーーーっっっ!!!」

「・・・。(頭をヨシヨシしてあげている。)」


「 ま、まぁシンディの奴、シュウバイツのミッションでいろいろあって落ち込んでたッスから・・・。」

姉だと慕うモカに会えて 抱え込んでいたいろんな思いが爆発した、といった所か。慌てて介抱に駆け付けてきたロディがオズオズ苦笑する。

ビオラもノコノコやってきた。

彼女はナムの脇腹、電磁銃で撃たれた傷を調べて つまらなそうに吐息をついた。


「なぁんだ、アンタ大袈裟ね!

この傷 全然大した事ないわ、光弾が掠っただけじゃない!

軽傷よ 軽・傷 !唾つけときゃ治るわよ、人騒がせね まったく!」


情け容赦なし。

サッサと離れて行ってしまったビオラを呪う気力すら湧かない。ナムはやるせない思いで呟いた。


「・・・俺って、めっちゃ カワイソぉ・・・。」

「 はい。不憫ッス。」

「・・・。」


舎弟の一言が心に刺さる。 満身創痍の身体の痛みより 痛い上に情けない。

( もう気絶しちゃおっかなー・・・。)

ナムは意識を手放そうとした。

 そ の 時 !


『 何て事だ・・・! 貴女が そう なのですね・・・!!!』


突然聞こえた嬉々とした声に、ナムはもちろん全員が 弾かれた様に振り仰ぐ。

ロディの腕時計型通信機は まだ律義に映像を映し続けていた。宙に浮かぶホログラフィ画面には 満面の笑みのアントニオ社長。その鬼気迫る笑顔には 驚くと同時に圧倒された。

『 光栄だ!お目に掛かれて本っ当に光栄だ!』

アントニオ社長の頬を涙が伝う。

割れんばかりに見開いた両目で モカを凝視し笑う彼は、招くように手を差し伸べた。


『あぁ、本当に貴女なのですね?!

信じられない、夢のようだ! 貴女は・・・貴女は なんて・・・!』


興奮したアントニオ社長の顔がグッと画面に近づく。

そして 気圧され後退りするモカに、感極まって喘ぎながら あの 一言 を口にした!



「 なんて 御 父 上 に 似 て い ら っ し ゃ る んだ!!!」



 ヒュッ!!!


モカの喉が引き攣ったように鳴った!

呼吸ができなくなったのだ。よろめく彼女の細い体を シンディが慌てて抱きとめる。

「モカさん!? 大丈夫?! しっかりして、モカさん!」

シンディの声は届いていない。

Tシャツの胸を強く握りしめ、モカはガタガタ震え出した。

『その目! 特に 目 がそっくりだ!』

アントニオ社長の賛美は止まらない。

独りよがりの歪んだ賞賛は 興奮と共に激しさを増し、立っているのもやっとのモカを激しく責め立て追い詰める!


『優しくも強く猛々しい! その目を見て一目でわかりましたよ、貴女は間違いなく あの人 のご息女だ!

素晴らしい! 今日はなんていい日なんだろう!

まさか本当に、 レディ・リーベンゾル に お目に掛かれる日が来るとは!!!』


これ以上何も聞きたくない。

言いようのない怒りを覚え、ナムは飛び起き激しく吼えた!

「喧しい! ふざけた寝言抜かしてんじゃねぇ、はっ倒すぞクソオヤジ!!!

ロディ! 画面落とせ、今すぐだ!」

「う、うぃッス!」

ロディが慌てて 腕時計型通信機へと目を落とす。

しかし その時、画面の中で 非常事態が起こっていた!



『 黙りなさい! 今すぐに!!!』



激烈な怒号が耳を突く。

ロディが 「ひぇっ?!」と叫んでしがみついてきた。怯える舎弟に縋りつかれたナムもビクッと身を震わせる。

「ひぃぃ?! 社長ぉーーーっ!?」

画面を見上げるルドガーが 血相変えて悲鳴を上げた。カルメン・ビオラや新人(ルーキー)達はもちろん、特殊公安局の脱走兵達やテオヴァルトまで 凍り付く。

ホログラフィ画面のアントニオ社長が ナイフ を突きつけられているのだ。

しかも刃渡り大きいアサシン・ナイフ。それを喉元に当てがわれたアントニオ社長が 顔を引き攣らせて息を呑む。

青ざめ震える彼を見据え、怒気を放つのは鋼鉄の処女(アイアン・メイデン)

鬼の形相の サマンサ が、アントニオ社長の髪を鷲掴み 乱暴に押さえつけていた。


『き・・・君は チェルヴァーリアの別荘を襲った女性だね? 若い背の高い男と一緒に。』

『私は 黙れ と言ったのよ! 』


聞く耳など持っていない。

サマンサは激しく怒鳴りつけ、アントニオ社長を黙らせる。

ホログラフィ画面越しに見る凶行に、瞬き一つできないまま ナム達はナム達は無言で立ち尽くした。

『今度戯言ほざいた時は 命は無いと思いなさい。』

ドスを効かせたサマンサの声が エントランスホールに響き渡る。


『まともに死ねると思わない事ね、五寸刻みに切り刻んで キメラ獣の餌食にしてやるわ!

・・・リ グ ナ ム !!!』


「ひぇいっ?!」

突然呼ばれて変な声が出た。ナムはロディとヒシと抱き合い、フォログラフィ画面を見上げて慄く。


『この馬鹿連れてそっちへ行くわ!

必要な情報聞き出したら とっとと火星に引き上げるわよ、その準備して待ってなさい!

い い わ ね っ!?!』

「はいっ!

あざっす! 承知しましたぁーっっっ!!!」


返事するなり画面が消えた。

殺伐とした静けさが ナム達の恐怖と不安を煽る。

果たして、アントニオ社長は五体満足で屋敷に帰ってくるのだろうか?

サマンサの怒りが尋常ではない。まさか本当に殺しはしないだろうが、腕一本くらいぶった斬ってもおかしくないほど荒れている。


『まぁね〜。サムちゃんはモカっちに過保護だからね〜。』


ホログラフィ画面は落とされ消えたが、通信はまだつながっていたようだ。

ロディの腕時計型通信機から アイザックのとぼけた声がした。

『 取り合えず、テオっち~。

特殊公安局部隊の脱走兵さん達、宇宙空港までお連れしてちょ~。

もちろん、少将さんもご一緒にね〜。お気の毒な少将さんのためにも、早く宇宙船整備して安全な場所ってトコに行かなくっちゃ〜。

そんじゃナムっち、グッドラック!

モカっちのためにもMC(ミッションコード)5E(ファイブイー)、さっさとコンプリートさせちゃいな〜。』


今度こそ通信は切れた。

(わかってンよ当然だ!)

あの禁句に怒りを覚えたのはサマンサだけじゃない、ナムも同じ思いである。

「・・・私、大丈、夫、よ?」

青ざめ、虚な目をして呟くモカの姿が痛ましい。


「コーヒー、淹れま、しょう、ね?

局長に、内、緒で、ミルクと、砂糖、いっぱい入れ、て・・・。」


しかも、何を言っているのかわかってない。

(・・・畜生!)

ナムは唇を噛み締め、強く拳を握りしめた。

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