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ミッションコード:0Z《ゼロゼット》  作者: くろえ
ゴルジェイという男
411/414

せめて貴方を終焉の場所へ

「リグナム!!!」


カルメン・ビオラが同時に叫び 飛び起きた。

武器を構えるのも同時だった。カルメンは短銃、ビオラは電磁鞭。それぞれ胸元に手を突っ込むと 常に携帯している武器を掴み出し 狙撃者を標的に身構える。

そんな二人より 敵将の男ははるかに早い。ショルダーフォルスターから銃を抜き 狙撃者目掛けてトリガーを引いた!


 ダァン!!!


狙いは実に的確だったが 狙撃者が僅かに素早かった。

さすが 地球連邦政府軍 特殊公安局部隊の一員。縮れ毛の男は身を翻し、エントランスホールを一気に駆け抜け 屋敷の外へと逃走した。

どうやら敵将達の「ラクドゥール少将救出作戦」は特殊公安局側に露見していたようである。縮れ毛の男はおそらく「密偵」、世間に生存がバレてしまった少将と 裏切り者の敵将を抹殺するための刺客だったという事だろう。


(少将の身柄がオコーネル王宮にあったんじゃ、お得意の暗殺も難しい。

だから 脱走兵どもを泳がせて めでたく再会果たしたところで一網打尽にしようとしたってか。

エゲツねぇ~。これだから特殊公安局の鬼畜共は・・・。

って、痛ぇ痛ぇマジ痛ぇ! コレヤバいかも俺死んだ??!)


ナムはマットの上に蹲り激痛に耐えた。

左の脇腹が猛烈に痛い。電磁弾に焼かれたシャツの焦げ臭い匂いが鼻を突く。

しかも それに混じって漂ってくる別の匂いが悍ましい。自分が焼かれる匂いなど 嗅ぐものではない、徐々に視界が霞んでいく中 吐き気を覚えて激しくえずく!

「ナムさん! ちょ、マジッスか?! しっかりしてください、ナムさん、ナムさーーーん!!!」

狂ったように呼び掛けてくるロディの声を聞きながら、ナムはゆっくり両目を閉じた。



 キュイン!



銀線が空を切る音に 失いかけていた意識が覚醒、痛みも吐き気も吹っ飛んだ。

身体を支えるロディの手を振り切り跳ね起き 必死で辺りを見回し探す。

ワイヤーソードの音だった。通常接近戦で使用するその武器を「飛ばす」戦い方をするのは ナムが知る限り一人しかいない。

( 来てるのか?! ここに!?)

だとすれば 危険極まりない。脱走兵とはいえど 敵は特殊公安局部隊、しかも今 逃走していった縮れ毛の男は 「例の娘」の存在にかなり関心を持っていた!

言え萎える身体に喝を入れ、ナムはもがくようにして立ち上がった!

その時!


 ダン! ダンダンダン!!!


屋敷の外から聞こえた銃声に心臓が一気に凍りついた。

「 モ カ ーーー!!!」

ナムは玄関口の外に広がる闇を見据えて絶叫した!

しかし。


「 悪りぃな坊主。俺ぁテメェのカノジョじゃねぇ。」


返事はなぜかオッサンの声。

強張った体から力が抜けた。ナムはマットの上にへたり込んだ。




「 テオさんっ!♪!」

「きゃー、素敵っ♡♪」

カルメン・ビオラが奇声を上げる。新人(ルーキー)達も喜んで安堵の顔を見合わせる。

右手に打突武器(トンファ)、左手に「獲物」をぶら下げ のっそり現れたのは、いささか不満げな テオヴァルト 。

彼は「獲物」を床に放り捨て、一つ大げさに吐息をついた。

「特殊公安局の鬼畜共が来てるっつうから期待してたんだがな。何だこの手ごたえの無ぇ野郎は!」

「テオさん、宇宙空港行かなかったんッスか?」

「留守番言いつけられたんだ、お陰で暴れそこなった。

ったく 酷ぇな副長! カジノで俺が一人勝ちしたからって、八つ当たりにもほどがあるぜ!」

ギャンブルで負けた腹いせに 宇宙空港の修羅場に参加させてもらえなかったらしい。

ロディが力なく苦笑した。

「まぁ お陰でここに来られたんだがな。

で? アンタはちったぁマシに相手してくれンのかい?」

テオヴァルトが放り捨てた「獲物」を踏み越え 敵将の男と対峙した。

「獲物」はたった今ナム達を襲い 逃走していった縮れ毛の男。右の足首辺りに一筋 鮮血吹き出す切り傷がある。しかも派手に殴られたらしく 鼻血まみれの歪んだ顔で白目を剥いて気絶している。

それを冷ややかな目で見つめ 敵将の男が口を開く。

「戦闘の意思は ない。我々は大恩ある上官を救出しに来ただけだ。」

「大恩? ラクドゥールって奴ぁ とんでもねぇ外道だって聞いてるぜ?」

「テオさん、ラクドゥール少将がここに居るって知ってるのか?!」

カルメンが驚き声を口をはさんだ。

「私達も 今 知ったばかりなのに。」

「ここに来る前 化けイタチ から聞いてな。

俺も正直驚いた。その辺の詳しい話は後でするとして・・・やっぱ修羅場にゃならねぇか。

こんな事ならカジノでボロ勝ちするんじゃなかったぜ!」


 ピピッ!


通信機が鋭く鳴った。

ロディの腕時計型通信機の受信音だった。回線を開くなり聞こえてきたのは アイザックの呑気な声。緊張感がまるでない いつものとぼけた口調だった。


『 酷いな テオっち~。化けイタチはないでしょ化けイタチは。

俺 部隊の参謀官よ? アンタの上官でしょーが、もーちょい敬意払ってちょ~。』


テオヴァルトが顔をしかめる。

「聞いてやがったか。おい、盗聴器仕込まれてんのどいつだ?」

『今日の「間抜け」は コ~ンちゃん♪ ボサボサ頭は盗聴器付けやすいから気をつけようね~。』

「 ぎゃー!!!」

この部隊では 盗聴器・発信機の類は取り付けられた方がお馬鹿で間抜け。

コンポンが驚き悲鳴を上げて、 伸び放題の髪に手を入れ 盗聴器を引っ掻き回して探して始めた。

『ま、それはそれとして・・・。

ロディちゃ~ん。ホログラフィ画面立ち上げてちょ。映像送るからさぁ~。』

「う、うぃッス!」

ロディが腕時計を宙に向けた。

一筋光が迸り 宙に四角い画面が浮かぶ。映し出された映像に全員一斉に目を見張った。


「・・・社長!?」


誰よりも先にルドガーが叫ぶ。

光の画面に現れたのは アイザックではなく、ジョボレット社長・アントニオだった!

『ルドガー!無事で何よりだ。』

心底安心したように アントニオは破顔した。

しかしすぐに顔を引き締め、自分の私邸に不法侵入した輩達を真っ直ぐ見据える。

その双眸から読み取れる感情に 再び全員驚かされた。

深い悲しみ と 憤り。

廃人少将を無言で見つめる 敵将の男と同じ目だった。


『君は・・・ディパク曹長だね?

地球連邦政府軍第3992歩兵部隊 第183小隊 隊長だった・・・。』


カルメン達が弾かれたように 敵将の男へと目を向ける。

彼は否定しなかった。

その代わり、眉を顰めて画面を見つめ 低い声で問いただす。

「なぜ知っている?」

『君とは会った事がある。』

アントニオ社長が微かに笑う。

『アーバイン共和国戦線でも 我々ジョボレットは救援物資の輸送を担っていた。

私は 危険な業務に携わる配達員を激励するため 度々アーバイン共和国を訪れた。君の小隊は配達員達をよく護衛してくれていたので覚えている。

ラクドゥール少将とも懇意にしていたのだよ。

彼から君達の話はよく聞かされていた。「最も信頼できる男が率いる素晴らしい小隊だ」 とね。』

「・・・そうか。」

ディパク曹長が首を巡らせ 明後日の方へと目を向ける。

その目じりは僅かに光って見えた。


『彼は素晴らしい人物だった。』


画面の中のアントニオ社長は 暗い面持ちで話を続ける。

『「大戦」後、彼の身柄は軍によってオコーネル国に引き渡された 。あの国は決して良い国とは言い難いが、せめて戦争で受けた心身の傷を 故郷でゆっくり癒して欲しい。私は心からそう思っていたのだ。

それがまさか 薬物に走って身を持ち崩していたとは!

さらに驚いた事に そんな彼をオコーネル王家は 半ば放置していたと聞く。

裏ルートで入手した違法薬物を 欲しがるだけ与えていたそうだよ。まったくもって酷い話だ・・・。』

「待った! なんでアンタそんな詳しい事情知ってるんだ?!」

「ラクドゥール少将はついこの間まで 生存すら知られていなかったのよ?!

なのにオコーネルで彼が置かれていた状況まで知ってるなんて!」

口をはさむカルメン・ビオラに、アントニオ社長が小さく頷く。


『あんな国でも 良識ある人間 はいるのです。

名を言うのは控えさせてもらうが、その人物のお陰で私は彼の現状を知った。そして信頼できる部下をオコーネルに送り込み 劣悪な環境に置かれる彼を秘密裏に救出できたのです。

ルドガーから聞いていると思いますが、今 皆さんがいる屋敷は 特別な商談・会合をするため用意したもので気密性が極めて高い。彼を保護するにはうってつけの場所でしたが、まさか特殊公安局部隊に露呈していたとは!

申し訳ありません。こんな事に皆さんを巻き込むつもりはなかったのですが・・・。』


アントニオ社長が背筋を伸ばし、深く深く頭を下げた。

そして 厳しい面持ちの顔を上げると 再びディパク曹長を真っすぐ見据え 意外な事を申し出た。


『宇宙船を用意しよう。太陽系中どこへでも行けるハイパーワープ可能の船だ。

彼を救ってもらいたい。

ここで起きた事は口外しない。軍の方も何とかしよう。脱走兵である君達に糾弾の手が及ばないよう 私が対処して見せる!

ラクドゥール少将がいたからこそ、我々ジョボレットはアーバイン共和国戦線で活動ができたのだ。

戦場を掛ける多くの配達員が 彼の采配で命を救われた。我々は恩を必ず返す。どうか彼を安全な場所へ・・・。

せめて人間らしく生涯を終えられる所へ、連れて行ってやって欲しい・・・!!!』


「・・・。」

ディパク曹長が小さく頷く。

特殊公安局部隊に居場所が露呈していた以上、難攻不落のジョボレット社長宅でも もはや安全な場所ではない。

オコーネル王家も もう助けようとはしないだろう。リーベンゾル・タークの発言で 世間に生存が知られたラクドゥール少将を護るものは何もない。

放っておいてもその内薬物依存で衰弱死する運命の男である。それでも刺客は現れるに違いない。確実に息の根を止めて イピゲネイアの真相を葬り去ってしまうために。


だからこそ、せめて人間らしく生涯を終えられる場所へ・・・!!!


静まり返った屋敷のエントランス・ホールに 啜り泣きの声が悲しく響く。

若い兵士が やつれ果てた恩人を抱きしめ、小さく肩を震わせていた。

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