表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/33

第二十七話 闇の眷属、ニャルラトホテプ

 執筆スピードがだいぶ遅くなっています。粗筋もプロットもゴールも全く決めず、1話ごとに気ままに書いていることによる弱点。加えて少し、環境の変化や、私の心理的変化が生じています。「これは本当に私の書きたいものなのか」と……。ただ、読んでくださる方がいる限りは続きを書くのみ。妥協はしない。

「寒い……」Rが肩をすくめた。


 雨は細かい小糠雨こぬかあめであったが、Rの白い半透明なコートは、次第に湿気を帯び始めていた。それを空気が蒸発させることによる気化熱で、Rの体温が急速に奪われたのだ。

 猛スピードで飛翔していたMは少しスピードを緩め、自分とRの周囲に、うっすらと輝くオーラの膜を張った。これで少しは温かくなるだろう。振り返ると、アマテラスとアンノもMに習い、オーラを身にまとう所だった。


「着きましたね、北の港町」 アンノが濡れた金髪をかきあげながら言った。アンノの肩にしがみつく、ヘルペットも小刻みに震えていた。


「ああ……。さて、ここからどうしたものか……。確かクトゥルフは、深い深い海の底の、水没した都市で眠っているんだったか……。その辺の海底でも探してみるか」


「でもMさん」RがMを見つめた。


「ん?」


「クトゥルフが眠る『ルルイエ』は、南緯47度9分 西経126度43分の海底にあるんだよ?」


「そうなのか!!」


 南緯47度9分 西経126度43分。それは南極のすぐ近くで、南アメリカの南端であるアルゼンチンの西である。


「うん、でもそれは、地球での話だね。ここはポニーテール惑星だから、別の位置にあっても、おかしくないね」


「ああ……、ならば、スキャンしてみるか」


「そうだね」


 M、R、そして女神が右目をきらめかせた。一帯を3本の赤いレーザーがスキャンした。その能力を持たないアンノは、不安な面持ちで3人の様子を観察した。Rがアンノの視線に気づき、アンノに向かって言った。


「クトゥルフっぽい、巨大な怪物の影は、この辺にはいなかったよ。その代わり……」


「その代わり?」アンノが眉をひそめた。


「もう一人の神が出現……、ふっ」アマテラスが言った。


 少し明るみ始めた霧雨の空を、青いオーラに包まれた黒いものが近づいてくるのをアンノは見た。それはシルクハットをかぶり、黒いタキシードを着て、白い手袋をはめた長身の男だった。その顔は褐色をおびており、気取った口髭が左右になびいている。このタキシードの男は、クトゥルーの本体なのか別物なのか……。誰もが息を飲み、黙り込む中タキシードの男が喋りはじめた。


「みなさん。ようこそいらっしゃいました。さきほどから何度か、私をスキャンされていましたね? 私と仲間になりたいのですか? それとも私の奴隷になりたいのですか? クックック……」


(Mさん、もしかして、この人とも仲間になれるかも?)


(わからんが……、ちょっとそういう雰囲気ではなさそうだ)


 男は右手を上げた。その手には数枚のカードがあり、白み始めた空の輝きを受けてきらりと光った。Mは右目に意識を集中した。そうすることで、彼の目は高性能な小型の単眼鏡テレスコープと化すのだ。カードにはおぞましい怪物の絵が描かれており、見たこともない文字が書かれている。Mにはその文字を読むことが出来なかったが、それを見た瞬間、不気味な声がMの心に次のような名前を告げた。




 クトゥルフ……、ダゴン……、ハスター……、アザトース……。



(クトゥルフ!!)Mがパーティーチャットでそう叫んだ。アマテラスとRもすでにカードのスキャンを終えており、Rが不安げに応える。


(クトゥルフもそうだけど、アザトースというのもやばいね。宇宙の中心にいるはずの、魔王だね)


(そんな魔王をカード化しているこの男は……)アンノが若干の苛立ちを込めてつぶやく。


 このパーティーの中で、恐らく唯一、旧宇宙の記憶を持たないアンノの不安は、他の者の比ではないだろう。いや、逆に、クトゥルフやアザトースの知識を持たないだけに、発狂するほどの恐怖を感じずにいられるということかもしれない。


 M、R、アマテラス、そしてアンノの表情を観察していたタキシードの男は、にやりと笑い、自分の素性をあっさりと明かした。


わたくしはニャルラトホテプ。闇の支配者の息子にして、今はその支配者を統べる者。あなた方が感じ取ったのは、このカードの放つ気配なのでしょう?」


 ニャルラトホテプと名乗った褐色の男は、左手を右手にさしのべ、クトゥルフのカードを引き抜き、それを頭上に掲げた。その瞬間、強烈な衝撃が周囲にまき散らされ、空気がびりびりと震えた。Rがたまらず顔をそむけ、Mの胸にしがみついた。女神になってから大抵のことに動じなくなっていたRが、である。それはかつての地球で行われていたTRPGで、「SANサン値をガリガリと削る」、と表現されていた、宇宙の根源的恐怖が放つ圧倒的な破壊力を持つ攻撃である。SAN値は加速度的に削られ、ゼロになるとその人は発狂し、恐怖に支配されることになる。神属性を持つM、Rとアマテラスはなんとかその攻撃に耐えていたが、勇者アンノは耐えられなかったようで、頭をかきむしりながら絶叫し、身体を丸めて落下し始めた。Mとアマテラスがそれに気づき、アマテラスが動いた。彼女は瞬時にアンノの落下する先に移動しアンノを両手で受け止めた。神の持つ強いオーラがアンノへの攻撃を和らげ、すぐに彼の狂気はやわらいだ。


「すみません……」


「ふっ。いいのよ。あなたでなければ最初の一瞬で発狂していはず」


ニャルラトホテプがカードを持つ左手をゆっくりと降ろした。周囲の空気を震わせていた、邪悪で黒い精神攻撃が止まった。Rが眉をひそめながら、Mの胸から顔を離して男を睨んだ。旧世界を滅ぼし、この宇宙を作ってから初めてRが見せた、強い怒りの表情であった。それを見て、ニャルラトホテプの邪悪な笑みが消え、その顔は仮面のように無表情となった。今度はMとRの周囲で、空気が邪悪に震え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ