第二十五話 Mは異世界で神となった
ちょっと今回は荒っぽい執筆。読みづらかったらすみません。
ヘルペットが呪文を唱えると、Mは全身に、奇妙な力の漲りを感じた。両手を見ると、手の平から赤黒い煙のようなものがもうもうと立っている。
「この色は……、地獄門か?」Mはいぶかしんで言った。
「地獄門……、さっきもそんなことをおっしゃってましたね」アンノが言う。
「ああ……」
さっきの呪文といい、この地獄門といい、女神の入れ替わりといい……。俺達は根本的な所で、この宇宙の「法則」を勘違いしているのかもしれない。その鍵を握るのが、このヘルペット、ということなのか……。
「Mは属性、『神』を手に入れた。Mの変身スキル、『酒呑童子』のレベルが10上がった。Mは新たな変身スキル、『スサノオ』を手に入れた。Mは神スキル、『ラプラスの魔』を手に入れた」 ヘルペットが冷淡に言った。
「スサノオ……、ラプラスの魔……」Mもまた感情のない口調でおうむ返しをした。スサノオとは、女神アマテラスの弟であり、ヤマタノオロチを退治したと言われる荒ぶる神である。そしてラプラスの魔とは、この世のすべての物質およびその運動を把握しており、そのため過去から未来までのすべての事象を知ることが出来るという、物理学で定義された架空の存在である。それらのスキルの、意味する所とは……。
「ねえ、私も何かスキルはもらえないの?」 まりもがヘルペットに言った。
「はい……、まりもさんは、Mさんみたいにカルマポイントは持ってないので、この世界で地道に戦闘をしたり、クエストをこなしたりして、経験値を稼がないといけないですね」
「そう……」
これらのやり取りを見ていたRは、ちらっとMの顔を見た。その顔は荒ぶる鬼の形相であるため、感情は読み取り辛いが、Rはそこに疑問や戸惑いのようなものを見た気がした。
(Mさん……、この世界もいろいろ難しくて、複雑そうだね……)
(うん? ああ……。でも前の世界よりは、マシかもしれないな。あの世界ではアマテラスにいいように遊ばれていただけだからな)
(アマテラス……、スサノオのお姉さん、だね)RはMから視線を外して言った。
(ああ……)MはRの口調が少し変化したことに気づいて、Rの顔を見た。
(どうした?)Mが心配そうに言った。Rは再びMの顔をみて、にこりと笑って言った。
(ううん、なんでもない)輝くようなRの笑顔に、Mは照れて視線をそらした。
(じゃあ神にもなったことだし、さっそく北の港町に乗り込もうか)
(そうだね……、でも気をつけてねMさん。相手はあのクトゥルフ神だからね)
クトゥルフとは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトという作家が描いた、宇宙的な恐怖の根源、太古の地球の支配者である。それは海底都市「ルルイエ」に潜み、数百メートルの巨体を持つと言われる。それは皮膚には鱗を持ち、背中には竜のような翼を持つと言われる。また人間は、このクトゥルフの姿を見ると、発狂すると言われている、と、そんな設定の邪神であった。
(ああ……。ホントにクトゥルフそのものだとしたら、やっかいなことになりそうだ)
(でも、勝算はあるんだよね)
(うん……)
(吾妻鏡で、異次元に閉じ込めちゃうの?)
(そうだ、よくわかったな)
(でもねMさん……)
(うん?)
(クトゥルフは、三次元には収まらない異次元の神だから、吾妻鏡が効かないかもよ?)
(は!!)Mの顔が初めて、恐怖に凍りついた。そんなMとRの心の中での会話を知ってか知らずか、ヘルペットがかわいく微笑みながら、ふたりの様子を興味深そうに眺めていた。まだ夜明けまでには時間があるが、クトゥルフに奇襲をかけるとすれば、急がねばならない。なぜなら魚類の朝は早いからだ。きらめく星を背景に、今日のエンディング曲が流れはじめる。しっとりとしたバラード、透明感のある女性のボーカルが、凛として微笑むRの顔を、ひときわ輝かせた。




