第二十四話 ヘルペットと神属性
ボクは悪いヘルペットじゃないよ。
「今の戦いで、勇者アンノはレベル3にあがった。アンノは『スカウト』のスキルを覚えた。スカウトを使うと、倒したモンスターを仲間にすることができるぞ」
突然発されたその聞きなれない声、一同の視線がその声のした方向に集中する。視線の先には勇者アンノがいた。アンノの肩には、白くて小さい、もふもふとした猫に似た生き物が、ちょこんと乗っかっている。
「アンノ君、その動物は何?」Rが尋ねた。
「これは……、草原の町で戦闘チュートリアルをこなした時にもらった報酬、ヘルペットっていうみたいですよ」
「へー、ヘル・ペット。地獄のペットだね」
「いえ……、ヘルパー・ペットの略で、『お助けペット』、ということらしいですよ」アンノは苦笑した。
「ヘルペットのミュウです、よろしく!」アンノの肩の上の生き物が、きゅろんと一回転し、小首をかしげて微笑んだ。だがそのガラス玉のような無機質な目からは、感情というものがちっとも読み取れない。
(Mさん? このペットのかわいさ、ちょっとあざといね。最近はやりの、主人公たちを破滅に導くペットかもしれないね)
(ど、どうだろうな……)Mも苦笑した。考えすぎでは、とも思うが、これまでこのようなRのブラックな直観というのが、結構な確率で、的を射ていたことも事実だ。ヘルペットが真顔で、Rの方を見た。
「Rさん。あなた、このアンノ君を、カプセルに入れて飲み込んだままでしたよね。未知の中ボスを相手に、戦力をみすみす減らしたままにしておくなんて、参謀として迂闊すぎますよ?」ヘルペットは言った。
「あ、そうだった!! でも参謀って……、参謀はMさんじゃないかな?」
「え? いや、俺とRはこの世界の観察者であり参謀はアンノだと思ってたよ」巨大な鬼の姿となったMが、両手を振ってあわてて否定した。
ヘルペットは、ふう、とため息をついて言った。
「まあ、いいでしょう。僕はアンノ君を護るために、可能なことなら躊躇せずに実行します。無駄ゴマとなりそうだったアンノ君を強制的に実体化させ、戦闘に参加させたのもそのため。おかげでアンノ君も、さきほどの戦闘でレベルアップをすることが出来ました。これからも僕はそのような介入を積極的にさせていただくと思いますから、よろしくお願いしますね?」
「う、うん……、アンノ君を助けてくれるのなら、大歓迎だよ。これからもアンノ君をよろしくね」
(いや……、さっきアンノは戦闘の役には立ってなかった。あのような場合にも強制的に経験値を奪われるのだとしたら、ちょっと俺は納得いかないな) MがRにしか聴こえない念話で伝えた。
(Mさん、そんなこと言うもんじゃないよ。レベルが低い仲間の成長は、パーティー全員の安全につながるんだよ)RがMを諌めた。
(今は仲間だが、そのうちRはアンノを、敵役にするつもりなんだろう?)
(まあね……w)
まったく……、とMは呆れたが、心の底ではまんざらでもなかった。滅びと再生をこの世の最大の「美」と考えるMは、滅びに強く心惹かれているRへの共感を覚えないでもなかったのだ。そうだ……、Rが滅びを望む女神ならば、俺は再生を望む精霊となればそれでいい。Mは腕組みをしながら、Rの横顔を眺めた。その時、ヘルペットが言った。
「Rさん、Mさん、それにまりもさんも……、草原の町で戦闘チュートリアルをこなせば、それぞれのヘルペットをゲットすることが出来ますけど、やってみたらどうでしょう。僕はやってみたらいいと思うよ?」
「ふうん……。興味あるけど、私はあとでいいかも」Rが言う。
「そうだな、俺も今はクトゥルフの神に集中したい」Mが賛同した。
「じゃあ、私も」まりもが二人の意見に乗っかった。
「そうですか……、わかりました。じゃああとひとつだけ、アドバイスです。Mさん、あなたは前世までの数々の行いが、カルマポイントとして溜まっています。そのカルマポイントを使えば、一気に『神属性』をゲットすることも可能ですが、どうなさいますか?」
「『神属性』、だと?」
「ええ。ひょっとしたらご存じかもしれませんが、1つの世界には7人の神属性を持つキャラが、同時に存在可能です。そして、神属性を持たないキャラが、神属性を持つキャラを打ち破ると、打ち破った者が新たな神となります」
「民からの信仰がなくなることで、自ら滅んで別の神に転生する、という現象もあったと思っているが……」
Mは以前の宇宙で見せられた、「アマテラスの滅び」のイメージ、神が五衰した末に、内部から崩壊し別の神に生まれ変わるビジョンを心に浮かべながらそう尋ねた。
「いいえ、それは勘違いですよ。民からの信仰は、神のパワーの源ではありますけど、そのパワーがなくなったとしても、神は滅びません。ただ、さまざまな能力や免疫力がなくなり、他のキャラに討伐されやすくなるだけです」
「そうだったのか……」
「あれ? でもヘルペット君は、なんでそのことを知ってるの?」Rが言った。
「僕にはアンノ君がつけてくれた、ミュウという名前があるんだけど、まあいいでしょう。僕たちヘルペットには、この世界のすべての意味が、知らされているのです。すべての意味を知っているということは、すべての現象、すべての法則も、知っているということなのです。今言えるのは、それだけです」
(Mさん、どういうことなの?)
(さっぱりわからんが……、今は先を急ぎたい。Rの意見を聞きたいんだが、Rは俺が神属性を得ることには賛成するかな?)
(うん、神様が7柱までしか存在できないなら、仲間で埋めちゃっておけばいいよね。そうしないと、またおかしな神様が出現しかねないね)
(そうだな……)
Mは「神属性」を得ることにした。ミュウにそれを告げると、ミュウはくるっと回転し、天を仰いで朗々と呪文のような詩を唱えた。その詩を聞いたMは再びぎょっとした。それはMの記憶に知らず知らずのうちに存在していた、この言葉だったのだ。
シチショウホウコク シチショウテンセイ
アラヤサウナリ マクマノメイドウ




