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「それでエリオット。次はあなたの事を聞きたいのだけれど」
「なんなりと。お姫様?」
湯浴みを終えてさっぱりとしたエリオットは、日向でまどろむ猫のように目を細めて笑った。
私を見つめる幸せそうな眼差しに頬が熱くなるのを感じつつ、私は口を開いた。
「あなたが現ルメリカ国王の王弟殿下である事……それはわかったわ。けれど何故王弟殿下が商人をしていて、しかもこんなところでほっつき歩いているのかがさっぱりわからないのだけれど。私が不勉強なのかしら、ルメリカでは当たり前のことなの?」
少なくともアルトリアではあり得ない。
アルトリアの王族や王位継承権を持つ方々は、王位に就かなかった場合でも何かしらの役職を拝命して国家に尽力することが義務付けられている。
まして国王の弟ともなれば、宮廷内の主要なポストを与えられるだろう。
少なくとも商人として諸国を漫遊するなんて考えられないことだ。
さらに見ず知らずの女と祭りを出歩き、本人自ら急使のようなことをするなんて。
しかも罪人の娘と勝手に結婚を決めて……
そう、私は罪人の娘なのだ。そして私自身も公になってはいないとはいえ罪を犯した。
エリオットの求婚を受け入れるわけにはいかない。
そう考えた時、心にズキリと痛みが走ったが、私は抵抗する自分の気持ちを無理やりねじ伏せた。
「レミーエは不勉強などではないよ。こんなにフラフラしてるのはルメリカの王族でも俺くらいのもんだ!」
エリオットは胸を反らして言い放った。
白い歯が無駄にキラリと光る。
何故、胸を張る。
なんかイラッとした。
気のせいかしら、頭が痛くなってきたわ……
「そう。まあ、それはそれとして……」
「そうか、聞くも涙、語るも涙の壮大な俺の人生苦労話をきいてくれるか!まず俺が産まれたのは……」
「そこから!?」
もの凄く長い話になりそうだ。
正直聞きたくない私はエリオットの話を遮ろうとするが、彼の耳の調子は大丈夫だろうか。
私の声が全く届かないのだが。
「そして兄貴が王位に就いたのを見届けた俺は、戴冠式の夜に王宮を飛び出したんだ。そこで俺は叫んだ。これで自由だーー!と……そして俺は盗んだ馬で走り出した。行く先も告げぬまま……」
「そこで俺は七つの海を乗り越え、空に浮かぶ島を発見したりしなかったりして……」
もの凄く長かったし、まだ話は続いているようだが、やっとエリオットが王宮を出奔した理由がわかった。
話はまだ続いているようだが、簡単に言うとエリオットは昔から王族である事に飽き飽きしていたらしい。
若かったエリオットは王族としての義務を放棄して市井に飛び込み、大変な苦労をしてルメリカ一の商人となった。
そして王族の身分を隠して自らの実力でルメリカ宮廷の御用達を獲得し、兄上である国王陛下と面会し、王族の義務を放棄した事を謝罪した。
ルメリカ国王はエリオットを許したが、彼が一度捨てた王族の身分と王位継承権は戻さなかった。
それはエリオットの望みでもあったという。
王族でなくなった後も、昔の名残でエリオットを殿下と呼ぶ者はいるが、それはあくまで親しみを込めた愛称のようなものであると……
「だから、レミーエはなにも気にせず俺の嫁になってくれ!罪人の娘だとか、そんなの関係ないからな!」
「えっ……」
旅芸人や講談師のように饒舌に語っていたエリオットの声が突然真剣になり、虚をつかれた私はポカンと口を開けた。




