第9話
あの事件から三日が経過した。
犯人である秋山先生は、いまだに逮捕されていない。そのため、全国の学校が休校となっていた。
秋山先生の動機や目的も分かっていない現状では、休校という対応も仕方のないことだろう。
スマホでニュースを確認する限り、犯人が特殊な能力を使用していたことや、生き残りがいることについては伏せられていた。
ただ、そのせいで事件の規模の大きさだけが伝わり、日本中の人々に恐怖を与えていることだろう。
「神崎くん、準備できた?」
「はい、大丈夫です。今日はよろしくお願いします」
今日は星光学園へ移動する日だ。
星光学園までは車で移動するらしく、葉山さんが運転してくれることになっていた。
「よし、じゃあ行こうか」
「はい」
葉山さんの後に続いて、俺は警察署の部屋を出た。
向かった先は、警察署の地下駐車場だった。
葉山さんは、パトカーの横に停めてある普通の車のロックを解除し、ドアを開けた。
「パトカーじゃないんですね」
「良くも悪くも目立つからね。もしかして乗ってみたかった?」
「いえ、俺も目立つと思っていたので、パトカーじゃなくて安心しました」
そう答え、俺は助手席のドアを開けて乗り込んだ。
葉山さんは後部座席に荷物を置いてから運転席に座り、慣れた手つきでエンジンをかけた。
そして、ゆっくりと車を発進させた。
こうして、星光学園までのドライブが始まった。
「どう? あれから少しは落ち着いたかな」
「そうですね。少しは回復したと思います」
事件の後は食欲もなく、警察署の一室でベッドに座り、ずっと下を向いているだけだった。
今では食欲もだいぶ戻り、警察署の中を少し歩いてみようと思えるほどには回復していた。
「星光学園の先生も君のことを心配していたよ」
「星光学園の先生が?」
「ああ。事件の状況を伝えたら、君が自分のことをものすごく責めているんじゃないかって」
俺のせいでみんなが死に、俺だけが生き残った。
自分を責めないわけがない。
今でも、何度も考えてしまう。
なぜ自分はあんな判断をしてしまったのか。
なぜ自分はもっと秋山先生を足止めできなかったのか。
なぜ秋山先生は自分を殺してくれなかったのか。
葉山さんも警察署の人たちも、「君のせいじゃない」と言ってくれた。
だが、俺には気休めにもならなかった。
誰が何と言おうと、自分のせいではないなんて思えないのだ。
「星光学園に行くのは不安かい?」
「正直、不安です。やっぱり、能力者に対する第一印象がよくないので」
星光学園では、特殊な能力を持つ人間を「能力者」と呼んでいるそうだ。
そして、俺が知っている能力者は、秋山先生だけだった。
あんな殺人鬼ばかりだとは思っていない。
だが、人知を超えた力を持つ人間には、欲深い異常者も少なからずいるのではないかと思ってしまう。
力を持つ者は、その力に酔わずにはいられない。
それは普通の人間も同じなのだから。
「それは確かに否定できない。でも、これから君を案内してくれる黒川さんは、とても優しい人だよ」
「黒川さん?」
「そう。黒川さんは星光学園の先生で、君の新しい担任になる人だそうだ」
「もうそこまで決まっているんですね」
「そうみたいだよ。学園の都合上、急な転入生の対応には慣れているみたいだね」
葉山さんの説明にもあったが、能力者はある日突然、自分の能力に目覚める。
そして、一度能力に目覚めた以上、星光学園が受け入れを拒否することはない。
頻度は分からないが、急な転入手続きが日常的に行われているのかもしれない。
「もうすぐ星光学園に着くよ」
警察署を出発してから、およそ一時間弱。
あたりは木々に囲まれていて、こんなところに学園があるのかと疑いたくなるような場所だった。
能力者が通う学園という事情を考えれば、妥当な場所なのかもしれない。
「ほら、正門が見えてきたよ」
前方を見ると、大きなトンネルが見えてきた。
このトンネルが星光学園の正門なのだろうか。
トンネルの手前で葉山さんが車を減速させていることから、おそらくそうなのだろう。
しばらくトンネルを眺めていると、入口の脇に長い黒髪の女性が立っていることに気がついた。




