第6話
「……ざき、神崎!」
「……ん?」
聞き慣れた声に呼ばれて、目が覚める。
ゆっくりと顔を上げると、そこにはいつもの教室の風景が広がっていた。
声のしたほうに振り向くと、金村が「おはよう」と言いながら笑っている。
「な、何で……。金村、生きて……」
「何言ってるの? まだ寝ぼけてる?」
教室の時計を確認すると、時刻は8時35分。
朝のホームルームが始まる時間だ。
「はーい、おはよう。号令」
教室の扉が勢いよく開くと、秋山先生が入ってきた。
「起立、礼」
「おはようございます」
「着席」
みんながいつも通り座る中、俺は座ることができなかった。
目の前に平然と立っている秋山先生が、今にも襲ってくるのではないかという疑念があるからだ。
「神崎、早く座れ」
「何をする気だ」
「何って、朝のホームルームだろ」
どういうことだ。
やっぱり、あの事件はただの悪夢だったのか。
俺は困った顔をする秋山先生を見ながら、席に座った。
「神崎、どうしたの? さっきから変だよ」
隣の金村が、心配そうに俺を見てくる。
「大丈夫。さっき寝ているときに、ちょっと嫌な夢を見ただけだ」
「そう?」
金村が俺を心配する中、秋山先生は淡々と朝のホームルームを進めていく。
体育祭の実行委員を決めなければいけないこと。
図書館に新しい本が入荷したこと。
制服の冬服から夏服への移行期間の最終日が迫っていること。
いたって普通の連絡事項だ。
「最後に、みんなに注意してほしいことがある」
秋山先生はそう言うと、教卓の前から一番前の席の子のところまで移動した。
最後の連絡事項のとき、秋山先生は教卓の前からよく移動する。
もうすぐ朝のホームルームが終わるなと察し、俺は一時限目の授業のことを考え始めていた。
「最近、夜間に炎の能力者が人を襲う事件が多発しているらしい。みんな、夜遅くは外出しないように」
「炎の、能力者?」
秋山先生の口から放たれた言葉に、俺は血の気が引くのを感じた。
周りのクラスメイトたちは、俺とは対照的に、「炎の能力者」という言葉を聞いて笑っている。
「炎の能力者って何ですか? そんなやつがいるわけないじゃないですか」
「いるんだよ。ここにな」
秋山先生が近くの机に手を置くと、その机が激しく燃え始めた。
炎は一瞬で教室中に広がり、逃げる暇さえなかった。
何とかできないかと辺りを見回すと、炎に包まれたクラスメイトたちが目に飛び込んできた。
「くそ! なんで――」
「どうして?」
振り返ると、赤い炎に包まれた金村が、俺に手を伸ばしながら向かってきていた。
それは助けを求めているというより、俺を逃がさないようにしているように見えた。
「どうして、私たちを見捨てたの?」
「ち、違うんだ。俺は――」
気づけば俺はクラスメイトたちに囲まれていた。
「逃がさない」と唸りながら、クラスメイトたちが俺の制服を掴んでくる。
教室の奥を見ると、秋山先生がこちらを見て笑っていた。
「やめろ……やめてくれ」
「受け入れろ。これはお前が選択した結果だ」
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
俺が叫んだ瞬間、目の前に広がっていた光景が一瞬で変わった。
辺り一面に広がっていた火の海は消え去り、俺の制服を掴んでいたクラスメイトたちもいなくなっていた。
代わりに視界に入ってきたのは、ただ真っ暗な天井と、見慣れない部屋だった。
自分が夢を見ていたのだと、すぐに理解した。
そして――
あの事件が、ただの悪夢ではなかったということも。
「大丈夫かい?」
俺が寝ている部屋の入り口に、葉山さんが立っていた。
葉山さんは部屋の明かりをつけながら入ってくると、俺に水を手渡してくれた。
「すみません、ありがとうございます」
「すごい叫んでたよ? それに、ものすごい汗だ」
「ちょっと、悪い夢を見ていたもので」
「そうか。俺でよければ、話を聞こうか?」
「いえ、大丈夫です。何をどう話していいかも分からないですし、それに――」
俺があの夢を見たのは、死ぬまで許さないということなのだろう。
金村たちを助けられなかったこと。
俺だけが生き残っていること。
許されるわけがない。
「それに、すべては俺の選択した結果です。俺の選択が間違っていたせいで……」
そう。
金村たちを殺したのは、俺なんだ。




