第5話
悪夢の惨劇から逃れ、俺は今、警察署にいた。
警察署では、学園で起きた事件の対応に追われた警察官たちが、忙しそうに走り回っている。
秋山先生が目の前から消えた後、俺はその場で膝をついた。
みんなを助けたいと思ってやったことが、結果的にみんなを殺してしまった。
その事実に打ちのめされ、ただただ絶望していた、そのときだった。
「立て。お前に死なれては困る」
どこからか、声が聞こえた気がした。
声が聞こえた途端、俺は立ち上がり、職員玄関を飛び出した。
それまで逃げようなんて微塵も思っていなかったのに、気づけば逃げて生き延びることを考えていた。
そんな自分にどうしようもない怒りがこみ上げ、俺は叫び声を上げながら最寄りの交番へ向かった。
交番にいた警察官に状況を説明し、俺はそのまま警察に保護されて、今に至る。
あれだけ生き延びることを考えていたのに、今では自分だけが助かってしまったことへの罪悪感でいっぱいだった。
「神崎くん、入るね」
優しいノック音のあと、ゆっくりと部屋の扉が開く。
部屋に入ってきたのは、俺が交番で状況を説明した警察官だった。
警察官は俺と机を挟むように椅子を持ってきて、そこに座った。
「現場での捜査が一段落してね。辛いとは思うけど、事件の話を聞かせてもらえないかな」
「はい、分かりました」
「無理する必要はないから、辛くて話せないようなら教えてくれ」
そう言うと、警察官は机の引き出しからA4サイズの白い紙とボールペンを取り出した。
「まず、僕の名前は葉山。この警察署に勤務する警察官だ。まずは事件について教えてもらえるかな」
俺は葉山さんに、実際に起こったことを説明した。
朝、いつまで経っても先生がやってこず、違和感を覚えていたところに校内放送が流れたこと。
自分たちが裏門へ逃げ、そこで秋山先生が待ち構えており、一人が殺されたこと。
その後、俺は正門へ向かい、クラスメイトたちは裏門へ向かったが、俺だけが助かったこと。
そして――
「その秋山先生は、炎を自在に操ることができて、瞬間移動もしていた、と」
「意味分かりませんよね。すみません」
こんな話、誰が信用するというのだろう。
炎を自在に操りながら、瞬間移動までできる。
そんな人間が現実に存在するわけがない。
「大丈夫。問題ないよ。秋山先生は何か言っていなかったかな。どうしてこの事件を起こしたのか、とか」
「いいえ。特にそういうことは言っていませんでした」
「そうか。次に、君はクラスメイトたちと一緒に逃げていたと言っていたけど、何人くらいかな」
「俺を入れて二十人です」
「ありがとう。今日はここまでかな」
葉山さんはボールペンを置いて立ち上がる。
俺がいる部屋の扉とは別の扉を開け、中の様子を確認する。
「こっちの部屋にベッドがあるから、今日はここで休んでくれ。正直、寝心地はよくないと思うけど」
「ありがとうございます」
「何かあったら、そこの受話器から連絡できるようになってるから。ゆっくり休んで」
葉山さんは、メモしたA4用紙を持って部屋を出ていった。
俺はそんな葉山さんに一礼して、ベッドのある部屋に入った。
葉山さんの言うとおり、お世辞にも寝心地がよさそうとは言えないベッドが、ぽつんと置いてある。
俺はベッドに横になり、さっきの事情聴取について思い出す。
秋山先生が特殊な能力を使えるという話を、葉山さんはどこまで信じるのだろう。
俺が葉山さんの立場なら、絶対に信じない自信がある。
仮に葉山さんが俺の話を信じてくれたとしても、あれだけの特殊な能力を使える秋山先生が、簡単に逮捕されるとは思えない。
秋山先生は、一体何のためにこんなことをしたのか。
警察署にいることで安心したのか。
それとも、葉山さんに一通り話したことで気が楽になったのか。
そんなことを考えているうちに、気づけば俺は眠りに落ちていた。




