第4話
正門前までやって来た俺の目に飛び込んできたのは、丸焦げになった大量の死体の山だった。
あたりには、物が焦げた臭いと煙の臭いが充満している。
この様子では、正門から逃げられた生徒はおそらくいないだろう。
赤く燃える靴箱の前を通過すると、職員玄関の前に人影があることに気がついた。
「お前一人か? 他のやつらは置いてきたのか」
その人物は、裏門で遭遇し、俺たちを襲った秋山先生だった。
裏門からここに来るまで、誰にも遭遇していない。
さらに、俺は最短ルートで正門までやって来た。
物理的に考えて、先回りすることは不可能だ。
それなのに、秋山先生はここにいる。
裏門で待ち伏せされていたことといい、正門前の惨状といい、どうやら俺の仮説は正しいようだ。
「みんななら裏門に向かってもらってますよ」
「裏門だと?」
「はい。先生は絶対に正門にいるだろうと思っていましたから」
俺は金村とスマホを通話状態にしたまま、正門に一人で向かった。
正門の状態を金村に通話で伝え、秋山先生が正門にいた場合は裏門に、いなければ正門に向かうように指示を出していた。
「どうしてそう思ったのか、聞かせてもらえないか?」
俺の役割はここからだ。
できるだけ先生を足止めして、みんなが逃げる時間を一秒でも長く稼がなければならない。
「先生が、放送室で一人残らず殺すと宣言した殺人鬼だと思ったからですよ」
「へえ。実際、お前の目の前で一人殺したから、味方でないことはすでに分かっているとは思うが……俺が殺人鬼だと?」
「はい」
「見れば分かるが、正門前には大量の死体が転がっている。こいつらを全員殺した上で、俺は裏門でお前たちを待っていたというのか?」
「最初、先生は殺人鬼の共犯者だと思っていました。でも、そうだとすると理解できないことがあるんですよ」
「理解できないこと?」
「先生が裏門で俺たちを待っていたことですよ。裏門で待たずとも、裏門の鍵さえ閉めていれば、俺たちは正門に行かざるを得ない」
「確かにそうだな。でも、二人いたのなら、別にあり得ない作戦ではないと思うぞ」
「二人いたなら、裏門で待つよりも教室を襲撃するほうが断然早いでしょ」
「確かにな」
先生は納得したように頷く。
「先生が殺人鬼だとすると、一つ納得できることがあります」
「ほう?」
「最近起きている、身体の一部が欠損した死体が見つかる事件。あれの犯人も先生なんでしょ?」
俺は続ける。
「裏門で先生に殴られて殺されたあいつの身体は、事件の被害者と同じように、身体の一部が欠損して燃えていた」
「そこまでたどり着けるとは、なかなかだな。だが、結局俺はどうやって先回りしたんだ?」
秋山先生がどうやって先回りをしたのか。
具体的なことは分からない。
だが、確信していることはある。
それは、推理小説に出てくるようなトリックが使われているわけではないということ。
おそらく、この世界の常識では考えられない何かを利用しているに違いない。
「先生は、常識では考えられないような特殊な能力を持っているんだ」
「何を言ってるんだ、お前は」
俺の突拍子もない発言に、秋山先生は大きな声で笑った。
俺は表情を変えずに話を続ける。
「おそらく、先生が持っている能力は二つ。一つは炎を発生させる能力。もう一つは、瞬間移動だ」
正門では大量の生徒が焼き殺されている。
そして、裏門では先生の右腕が炎に包まれていた。
熱そうにしている様子もなかったことを考えると、あれは先生が自在に炎を操ることができる証拠だろう。
そして、正門前で生徒を殺した後に瞬間移動し、裏門で俺たちを待ち伏せしていた。
さらには、最短ルートで正門前までやって来た俺の前に、こうして姿を現した。
どう考えても、瞬間移動したとしか思えない。
「その話、誰が信じるんだよ」
「信じてもらう必要なんてないでしょ」
「何でだ?」
「俺は今から先生に殺されるんだから」
俺が正門に着いてから、それなりに時間が経過している。
もう金村たちも裏門に着いた頃だろう。
俺は、ちゃんと自分の役割を果たせそうだ。
「そうだな。お前の話を聞くのも、これくらいでいいだろう」
「先生、最後に一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「先生は一体、何者なんですか?」
「俺が何者かは、まだ教えられない。今言えるのは、俺が特殊な能力を持っているという話は当たっているってことぐらいか」
まだ教えられない。
今言えるのは。
まるで、今この場では俺を殺さないかのような言い方だ。
まさか――
「お前は本当に策士だよ」
「どういう意味ですか」
「普通に考えろよ。お前一人とその他大勢なら、後者を殺すに決まってるだろ?」
「なっ! ふざけんな!」
「お前のこの作戦は、最初から自分一人を逃がすのに最適な作戦だったんだよ」
確かに、秋山先生の言うとおりだ。
相手がこちらの人数を把握している以上、こうなってしまったのは、ある意味必然だったのだろう。
「仲間を利用して自分が確実に生き残ろうとするなんて、お前、最低だな」
その言葉が聞こえたかと思えば、俺の目の前から秋山先生が消えた。
俺は、クラスメイトを守れなかった。
その事実が、俺を深い絶望の底に叩き落とした。




