第3話
なぜ秋山先生が裏門にいるのだろう。
俺はてっきり、職員室で殺されてしまったものだと思っていた。
逃げ出したと言われればそれまでだが、そんな単純な話なのだろうか。
一人残らず殺すと宣言していた殺人鬼が、そんな簡単に逃がしてくれるとは思えない。
そして、万が一逃げることができたとしても、なぜ一番近い正門から逃げなかったのか。
わざわざ裏門で、俺たちが来るという確証もないのに待つ必要があるとは思えない。
俺が登校して、職員室に教室の鍵を取りに行ったとき、そこには秋山先生の姿があった。
だから、遅刻したから難を逃れたという線もない。
そうなると、残る可能性は……。
「みんな戻れ! 秋山先生は――」
俺の声に振り向き、その場でみんなが立ち止まる。
近くにいた金村が、俺の突然の指示に戸惑いながら声を上げた。
「なんで!? もう裏門は目の前なのに!」
「いいから、説明は後だ! とにかく戻れ!」
俺がそう叫んだ、そのときだった。
秋山先生が先頭を走っていた生徒の近くまで歩み寄り、右腕を振り上げた。
秋山先生が俺たちを襲ってくることは想定していた。
だが、目の前で起きていることは、明らかに俺の想定を超えていた。
秋山先生の振り上げた右腕が、激しく燃えていたのだ。
右腕が燃えているにもかかわらず、秋山先生にはまったく熱そうな様子がない。
そして――
燃え盛る右腕を、先頭を走っていた生徒へと振り下ろす。
燃える拳が直撃した瞬間、先頭を走っていた生徒の左半身が、まるで溶けてしまったかのように消えた。
生徒は炎に包まれながら、力なくその場に倒れた。
「まったく、その頭の良さには感心するよ」
秋山先生は俺を睨みつけながら、小さくため息をつく。
右腕は依然として、真っ赤な炎に包まれたままだ。
「くそ! みんな戻れ、早く!」
みんな慌てて秋山先生から逃げるように引き返す。
目の前で起きた出来事を受け入れることはできなかった。
それでも、逃げなければまずいという一心で、俺たちは裏門から離れていく。
これではっきりした。
秋山先生は俺たちの味方ではない。
殺人鬼側の共犯者だ。
「一体、何が起こってるの?」
裏門からある程度離れたところで息を整えながら、金村が呟く。
秋山先生は、どうやら追ってきてはいないようだった。
おそらく、裏門で逃げてきた生徒を待っているのだろう。
「秋山先生が何者なのかは分からないが、殺人鬼の共犯者であることは確かだ」
「共犯者? ということは、正門にも……」
「ああ。おそらく、放送していた殺人鬼がいるはずだ」
あまりにも絶望的な状況に、全員が何も言えず、ただ俯いた。
ここから逃げるためには、正門、裏門、職員玄関のどれかから逃げ出す必要がある。
現在、正門には殺人鬼が、裏門には秋山先生が待ち構えている。
職員玄関に行くためには正門の前を通る必要があるため、殺人鬼との遭遇は避けられないだろう。
なにより、殺人鬼が刃物を振り回したり、銃を撃ったりしてくるのなら、まだよかった。
だが、秋山先生のような異常な殺害方法を、殺人鬼も使ってくるのだとしたら、対処のしようがない。
「神崎、何か逃げる方法はないかな」
「俺も今考えてるけど、正直、何も思いつかない」
「そんな……」
俺の返事に、金村は今にも泣き出しそうな顔になる。
「くそ! 秋山先生のあれ、何なんだよ!」
「腕が燃えてたよね」
「裏門で待ち構えてるなんて、本気で一人残さず殺す気なのかよ!」
「なんで俺たちがこんな目に!」
クラスメイトたちが思い思いの言葉を吐き出す中、俺の中にある疑問が浮かんだ。
なぜ秋山先生は、裏門で俺たちを待っていたのか。
裏門の鍵を閉めてしまえば、俺たちは裏門から出ることができず、必然的に正門へ向かうことになる。
それなら、裏門の鍵を閉めて、正門で二人で待ち構えていたほうが、簡単に俺たちを殺すことができる。
もし別行動をとるとしても、わざわざ裏門で待つ必要はない。
各教室を襲撃すればいいだけだ。
もしかしたら、秋山先生は共犯者なんかじゃない。
放送室で一人残らず殺すと宣言した、あの殺人鬼本人なのかもしれない。
「みんな聞いてくれ。作戦を思いついた」




