第34話
中間考査の前日。
俺たちは最後のテスト勉強を寮の食堂で行っていた。
赤田さんは一緒にテスト勉強を始めてからというもの、以前よりもかなり順調に勉強を進められているようで、教科書を見ながら唸ることもなくなった。
「これで明日のテストもバッチリだね」
赤田さんがノートを閉じながら、自信に満ちた表情をしている。
「そうね。私も今までで一番自信あるかも」
「佳奈はいつでも自信あるでしょ」
「そんなことない。自信があったときなんてない」
白蓮さんは少し俯きながら答える。
普段の様子を見ていると、結構自信があるのかと思っていた。けれど、本人曰くそうではないようだ。
「颯斗は自信ありそうだよね」
「まあ、やることはやったしな」
「この学園で初めて試験を受けるのに、よく自信が持てるね」
「え、何か変わった試験なの?」
「そんなことはないと思うよ。普通の筆記試験だし」
「なら、普段の授業をちゃんと聞いて、予習復習をやってれば問題ないだろ」
どんなに科目が違っても、試験の形式が同じなら、取り組み方は変わらない。
試験を受ける科目数は、今まで通っていた学校の倍になっている。だが、勉強する量も倍になったかと言われると、実際はそうではない。
「神崎の言う通り。普段の授業をちゃんと聞いていれば、悪い点を取ることはない」
「白蓮さんが言う自信がないって、悪い点を取るかもしれないってことじゃなくて、高得点を取る自信がないってこと?」
「そうね。私はいつも満点を取ろうと思ってるけど、満点を取れる自信があるテストなんて今までなかったし、満点を取れたことも一度もない」
「なるほどね」
「……」
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
白蓮さんは何か言いたそうにしていたが、結局それを口にすることはなく、麦茶をぐいっと飲み干した。
それを見ながら、赤田さんが欠伸をしている。
「コップは俺が片付けておくから、二人とももう寝て大丈夫だよ」
「ありがとう! 二人とも、おやすみ」
赤田さんは教科書とノートを持って、食堂から出ていく。
俺は三人分のコップを流しに持っていき、食器洗いを始める。今日は夕食のときに使った食器をまだ洗っていなかったから、それも一緒に洗わないといけない。
「神崎」
食器を拭く布巾を持った白蓮さんが、流しで食器を洗っている俺の横に立っていた。
食器洗いを手伝おうとしてくれているのは分かるが、突然どうしたのだろうか。
「どうしたの?」
「私も手伝うから、神崎も早く寝た方がいい」
「え、あ、ありがとう」
白蓮さんは俺が洗った食器を拭き始める。
なんとなく白蓮さんの行動が珍しいと感じた俺は、どうして手伝ってくれるのか気になった。
「白蓮さん、どうして――」
「さん付けするのやめない?」
「え?」
「私のこと、白蓮さんってさん付けするのやめて」
さん付けをやめてほしい。
なぜ突然そんなことを言い出したのだろうか。
俺と白蓮さんは仲が悪いということはないが、特別仲がいいというわけでもない。少なくとも、俺はそう認識していた。
「えっと、なんで?」
「なんでって、効率が悪いから」
「何の効率?」
「戦闘中、私を呼ぶときにさん付けしていたら、文字数が多くなる。効率が悪い」
たった二文字しか変わらないのに、そこまで意識する必要があるのだろうか。
確かに白蓮さんの言う通り、戦闘中の切羽詰まった状況で、さん付けして名前を呼ぶ余裕はないと思う。
普段から呼び捨てにすることで、迷わずに名前を呼ぶことができるだろう。
特に断る理由もないし、白蓮さんがさん付けをやめてほしいというのなら、そうしよう。
白蓮さんは俺のことを神崎と呼んでいるから、俺は……。
「分かった。白蓮、でいい?」
「うん」
白蓮さんが手伝ってくれたおかげで、食器洗いを早く終わらせることができた。
俺たちは教科書とノートを持って食堂を出て、二階に上がる。
「じゃあ、白蓮。おやすみ」
「うん。おやすみ、神崎」
自分の部屋に入り、机の上に教科書とノートを置く。
明日の中間考査に備えて、早めに布団に入った。




