第32話
「黒川先生! お帰りなさい!」
「何か飲みますか?」
「いえ、荷物を置いたら理事長室に行きますので、大丈夫です」
黒川先生は鞄を肩から降ろし、俺たちが広げていたメモ用紙を覗き込んだ。
そこには、先ほどまで話していた俺たち三人の能力が書かれていた。
「班対抗能力戦闘大会に向けて作戦会議をしているところです。せっかく出るなら、いい結果を残したいですし」
黒川先生は赤田さんの話を聞いて、少し嬉しそうに頷いた。
「ぜひ頑張ってほしいですが、その前に中間考査も頑張ってくださいね」
「あっ」
中間考査という言葉を聞いて、思い出したくなかったとでも言いたげな表情になる赤田さん。
授業の様子を見ている限り、勉強が苦手そうな印象は受けないが、あまり自信はないのだろうか。
「それじゃあ、私は失礼しますね」
「はい、お疲れ様です」
黒川先生は鞄を持って食堂を後にした。
さて、話し合いに戻ろう。
「で、どこまで話したっけ?」
「神崎の瞬間移動の能力についてまで話した」
「あ、そうそう。奇襲にはあまり向いていない、みたいな話だったよね」
「うん。やっぱり、そこを改善するのが最優先だと思う」
「雷よりも?」
「どんなに雷が強くても、相手に当たらなければ意味がない。瞬間移動は、奇襲や不意打ちにうってつけの能力だから」
白蓮さんの言う通り、今の俺の瞬間移動には、あまりにも汎用性がない。
俺の攻撃が命中した場所に瞬間移動できる。
つまり、前提として攻撃を当てていなければならない。
だが、俺はその最初の攻撃を当てる段階から、瞬間移動を使いたいのだ。
「そうだね。俺は瞬間移動の奇襲性というか、汎用性を上げられるようにしてみる」
「私は氷で作るものを、もっと大きくできるようにする。三人まとめて守れるくらいの大きさの壁は作れるようにしないと」
「わ、私は……」
「赤田さんは、やっぱり破壊力じゃないかな。遠くからでも斬撃を飛ばせて、それなりの破壊力があれば、絶対に生かせると思う」
「わ、分かった!」
「作戦はどうする?」
「臨機応変でいいんじゃないかな。これをやっていれば絶対に勝てる、みたいな能力はないし」
「了解」
お互いの能力について理解できた。
これからの能力訓練の方針も決まった。
残るは、中間考査を無事に乗り切ることくらいか。
「そういえば、中間考査の結果が大会に影響するって聞いたんだけど、それはどういうこと?」
「中間考査の結果で一次リーグのグループが決まる。一年生は特に、グループ分けでいいところに入らないと、リーグ戦を突破することができない」
「大会の歴史上、一次リーグを勝ち抜いた一年生の班は一つもないんだから」
今の話を聞いて、一つ疑問が浮かんだ。
中間考査の結果は、良い方がいいのか、悪い方がいいのか。
悪い方が弱いやつらと戦えそうな気がするが……。
「中間考査の結果は、どっちがいいの?」
「どっちって?」
「結果が悪い方が、弱いやつと当たりやすくなるってことなのかなと思って」
「いいえ。結果が良い方が、先生が融通を利かせてくれるって聞いてる」
「そうか。なら、中間考査を頑張らなきゃな。二人は中間考査に自信がある方?」
「私は問題ない」
白蓮さんは、かなり自信がありそうだ。
休み時間も次の授業の教科書やノートを見ていることが多いから、きっと予習や復習を欠かさないタイプなのだろう。
白蓮さんは心配いらなそうだな。
「私は……正直、自信ない」
赤田さんは少し俯き、自信がないことを打ち明けた。
「そうなんだ。あんまり勉強が苦手そうなイメージはなかったけど」
「いや、苦手だよ。クラスで成績は真ん中くらいだと思う」
ということは、致命的に勉強ができないわけではなさそうだ。
少し希望が見えてきた。
「中間考査っていつだっけ?」
「五日後だね」
五日後か。
正直、余裕があるわけではないな。
俺は中間考査の試験範囲の勉強を一通り終えている。
白蓮さんは大丈夫そうだからいいとして、赤田さんとは一緒に勉強して、教えてあげた方がいいかな。
「あのー」
赤田さんが言いづらそうに、小さく手を挙げた。
「良かったら今日から、一緒に勉強してくれない?」
俺からしようと思っていた提案を、赤田さんの方からしてくれた。




