第30話
夕方の保健室。
俺は、二人が目を覚ますのをずっと待っていた。
あの子が氷の能力を解除したあと、意識を失っていた二人は、そのまま倒れてしまった。
俺は二人を担いで保健室まで運び、保健室の先生の指示に従って応急処置を済ませてから、ベッドに寝かせた。
保健室の先生によると、身体を温かくして安静にしていれば、そのうち目を覚ますだろうとのことだった。
それから三時間余りが経ったが、二人はまだ目を覚まさない。
「失礼します」
保健室の扉が開く音がして、そちらに目を向けると、心配そうな顔をした黒川先生が立っていた。
「神崎くん! 赤田さんと白蓮さんは――」
「まだ眠っています。保健室の先生には、このまま身体を温かくして安静にしていれば大丈夫だと言われました」
「そうですか……」
黒川先生はベッドで眠っている二人の様子を確認すると、俺の近くに置いてあった椅子に腰を下ろした。
「神崎くん、ごめんなさい。私がいながら、こんなことになってしまって」
「黒川先生のせいじゃありません。二人には申し訳ないですが、俺にとっては嬉しい出来事でもありましたから」
「能力のコントロールができるようになったそうですね」
「はい。こうしてコントロールできるようになると、なぜ今までできなかったんだろうと思うくらい簡単です」
二週間余り、能力をコントロールするために四苦八苦していた。
それがまるで嘘のように、今では簡単に制御できる。
コツをつかんだというより、不足していたプログラムをインストールしたような感覚だった。
「私は訓練の様子を見ていなかったので、神崎くんの能力について教えてくれませんか?」
「はい。俺が使えるのは、黒川先生の最初の予想どおり、雷の能力と瞬間移動の能力でした」
「瞬間移動の能力は、好きな場所に瞬時に移動できるんですか?」
「いいえ。俺が雷の能力を使うと、その雷が命中した場所に水色のモヤが見えるようになるんです。俺は、その場所に瞬間移動できます」
「水色のモヤ? 前は紫色と言っていませんでしたか?」
「はい。相変わらず、人には紫色のモヤがかかっています。それとは別に、俺が能力を使った痕跡が水色のモヤとして見えているんです」
瞬間移動の能力を使うには、水色のモヤを視認する必要がある。
だが、能力を使っている間は視力や視野が大きく向上するうえ、透視までできる。
使い方を極めれば、強力な能力になるだろう。
「なるほど。やはり、瞳の能力は強力ですね」
「瞳の能力、ですか?」
「はい。瞳の能力とは、世界に九つしか存在しない、始祖から分け与えられた特別な能力です。一般の能力者には考えられないほど強力な力を得ることができます」
始祖から分け与えられた特別な能力。
俺はまだ「始祖」という存在について知らない。
だが、この学園にいれば、いずれ知ることになるだろう。
「雷の能力を持っていることも含めて、神崎くんは特別な能力者ですね」
「雷の能力にも、何かあるんですか?」
「赤田さんと白蓮さんから聞いていませんでしたか? 雷の能力は、始祖の能力者だけが扱うことのできた能力なんです。神崎くんで二人目ですよ」
雷の能力も特別なのか。
赤田さんが幼い頃、研究所で一緒に過ごしていたと言っていたこと。そして、特別な能力を二つも持っていること。
それらを考え合わせると、自分が科学実験の結果、生み出された存在なのではないかと考えてしまう。
今まで特に考えたこともなかったが、俺はいったい何者なんだろう。
「今回、能力をコントロールできるようになったきっかけは何でした?」
そういえば、と黒川先生が尋ねてきた。
きっかけは、二人が凍らされたことに怒りを覚えたから――そう答えたいところだが、おそらく違う。
「自分が足手まといだったせいで、二人が凍らされてしまった。だから、俺が何とかしなきゃいけないって強く思ったからだと思います」
「そうですか」
黒川先生は、少し嬉しそうな表情を浮かべた。
能力が目覚めたきっかけが殺意だったことを、きっと気にしていたのだろう。
でも、嬉しいのは俺も同じだ。
これでようやく、俺はスタートラインに立つことができる。
あいつに復讐するというゴールを目指す、その道のりのスタートラインに。




