第28話
「お願いします」
グラウンドで向かい合った俺たちは、相手に一礼する。
この訓練の勝利条件は、相手の身体に直接触れること。触れられた者は、その時点で退場となる。
能力による攻撃も可能だが、近距離攻撃によって直接触れなければ、勝利条件を満たしたことにはならないらしい。
「始め!」
面倒な先生の合図で訓練が始まる。
先に仕掛けてきたのは、相手だった。
「風の刃!」
刃の形をした風が、地面を抉りながら俺に向かって飛んでくる。
俺はなんとかそれを避けたが、避けた先にはすでに次の攻撃が放たれていた。
「水の射撃!」
威力の高い水鉄砲が襲いかかる。
水なら雷で防げるはずだ。そう考えた俺は、とっさに全身に雷を纏う。
水鉄砲が身体に命中する。
しかし、纏っていた雷が水の攻撃を防いでくれた。
「か、雷の能力!? 嘘でしょ……」
気がつけば、グラウンドの周囲には大勢の見物人が集まっていた。
俺が全身に雷を纏っている姿を見て、なぜかひどく驚いている様子だった。
「余所見してる場合?」
氷の能力者がそう言うと、空中に無数の氷の槍が出現した。
「氷の槍!」
氷の槍が一斉にこちらへ降り注ぐ。
今の俺の雷では、水以外の攻撃まで防ぐことはできないだろう。
「紅炎剣!」
赤田さんが腰に下げていた剣を抜き、炎を纏わせて氷の槍に向かって振るう。
剣から放たれた炎の斬撃が、次々と氷の槍を溶かしていった。
「冷気の息吹!」
白蓮さんが口から氷の息を吐き、こちらに近づこうとしていた相手を押し返す。
こちらは炎と雷、氷の能力者なのに対し、相手は水と風、そして氷の能力者だ。
能力の相性で言えば、こちらの方が有利だろう。
もちろん、それは俺が能力をコントロールできていればの話だが。
その後も何度か同じような能力の応酬が繰り返され、戦況は膠着状態となっていた。
しかし、事態は予想外の展開を見せる。
「緑、炎の能力であいつの攻撃を防ぎつつ……って、え?」
白蓮さんが赤田さんに何かを伝えている最中、突然、雨が降り出した。
「天は私たちの味方みたいね! 氷の槍!」
「風の刃!」
「紅炎剣……くっ!」
赤田さんが先ほどのように剣に炎を纏わせようとする。
だが、雨のせいなのか、炎を纏わせることができない。
仕方なく剣で氷の槍を防ぐが、最後の一本に剣を弾き飛ばされてしまった。
「緑! 冷気の息吹!」
白蓮さんは風の刃を防ぎながら、赤田さんのもとへ駆け寄る。
しかし、それが致命的なミスとなった。
「かかったわね。水の束縛!」
地面から突然、水が噴き出した。
水は赤田さんと白蓮さんを包み込み、二人の動きを封じる。
「しまっ……!」
「瞬間凍結!」
二人を包み込んだ水が、一瞬にして凍りつく。
水は大きな氷の塊へと姿を変え、その中に閉じ込められた二人は身動きが取れなくなってしまった。
「まったく、残念ね」
氷の能力を使っていた子が、俺に近づきながら話しかけてくる。
「何がだ?」
「せっかく実力があっても、足手まといがいたんじゃねー」
最初に会ったときから思っていたが、この子の物言いにはイライラする。
相手が腹を立てると分かっていて、わざと挑発するような言葉を選んでいるのだ。
「そこも含めて実力なんじゃない?」
「確かにねー」
俺は先ほど弾き飛ばされた赤田さんの剣を拾い、二人が閉じ込められた氷塊の前に立つ。
「あらあら、どうしたの? 降参するのかしら?」
「降参なんかするわけないだろ」
「だったらどうするの? その剣でどうにかできると思ってるの?」
「ああ」
「笑わせないで」
氷の能力を使っていた子が、俺を睨みつける。
俺は目を閉じ、集中した。
赤田さんも白蓮さんも、俺を守りながら戦ってくれた。
今度は俺が、二人の分まで戦う番だ。
「風の刃!」
俺は目を開き、襲い来る風の刃を見据える。
右手のひらを風の刃に向け、そこから雷を発生させた。
放たれた雷が風の刃とぶつかり、互いの力を打ち消し合う。
やっと成功した。
自分の能力を、コントロールすることに。
「今のは……」
俺が右手のひらから雷を発生させたことに、三人は驚きを隠せない様子だった。
俺は三人を見据え、口を開く。
「さあ、反撃開始だ」




