第24話
「ただいま」
俺と黒川先生が寮に戻って食堂に入ると、赤田さん、白蓮さん、青山さんの三人が談笑していた。
それは、寮の建物の外から見えていた光景とまったく同じだった。
「あ、颯斗! おかえり!」
「神崎くん、今日の晩ご飯は何?」
「ごめん。まだ考えてないんだ。さっきお菓子を食べてたんだから、少し待ってくれ」
「え?」
俺の答えを聞いて、三人は驚いた顔をした。
その理由は当然――。
「なんで私たちがお菓子を食べたって知ってるの?」
青山さんはテーブルの上と俺の顔を交互に見ながら尋ねた。
テーブルの上に、お菓子の袋が置いてあるわけではない。
別に隠すつもりはなかったのだろうが、彼女はテーブルの上にお菓子の袋が残っているのではないかと疑ったようだ。
もちろん、俺がそのことを知っていた理由は、三人がお菓子を食べているところを見ていたからだ。
「神崎くん、もしかして……」
黒川先生は何かに気付いたように、こちらを見た。
「はい。見えていたからです」
「見えてたって、どういうこと?」
「今日、黒川先生と能力の訓練をしてたんだけど、そのせいなのか、今も視界がおかしいんだ」
「視界がおかしいって、どういうこと?」
赤田さんが心配そうな表情で尋ねてきた。
今のところ、俺が感じている違和感は三つある。
一つ目は、明らかに視力が上がっていること。
二つ目は、建物の中の様子などを透視できること。
三つ目は、人に紫色のモヤがかかって見えること。
もし今後もこの状態が続くとしたら、気持ち悪すぎる。なにより、日常生活にも支障が出てしまう。
「多分、そういう能力ってことだよね」
「そうだと思います。これもいずれは、能力の発動をオン・オフで切り替えられるようになるはずですが……」
「コントロールできるようになるまでは、かなり負担がかかりそうですね」
俺の話を聞いた四人は、真剣な表情で俺の視界に起きている異変について話し合っていた。
四人の反応を見る限り、能力者なら誰にでも起こることではないようだ。
「帰ってきた」
俺は寮の玄関に理事長が立っていることに気が付いた。
理事長はバッグの中を探っているが、なかなか寮に入ってくる気配がない。
「鍵を忘れたのか。ちょっと玄関に行ってきます」
俺は玄関の鍵を開けてあげようと、そちらへ向かった。
俺の行動があまりにも不自然だったからか、四人も一緒についてきた。
俺が玄関の扉を開けると、理事長は驚いた表情でこちらを見つめた。
「ど、どうしたんだ? 五人全員でお出迎えなんて」
「いえ、神崎くんが……」
「理事長が玄関で鍵を探しているようだったので、開けてあげた方が早いと思っただけです」
「よく鍵を探していると分かったな」
理事長は玄関で靴を脱ぎながら、もっともな疑問を口にした。
五人で食堂に戻ると、再び俺の視界に起きている異変についての話が始まった。
「どうして玄関のことが分かったの?」
「どうしてと言われても、見えたからとしか答えようがないな」
「神崎は玄関に背を向けて立ってた。それなのに、どうして玄関の様子が分かったの?」
確かに、白蓮さんの言うとおり、俺は玄関の方に顔を向けた覚えがない。
それなのに、玄関の様子がはっきりと見えていたのだ。
「考えられるとすれば、俺の視野が格段に広がった……ぐらいかな」
「広がったなんて次元の話じゃないと思うけど」
「確かに。視界が何かに包まれていくような感覚があったって言ってたし、別の目に切り替わったって考えた方が自然かも」
別の目に切り替わる、か。
いずれにせよ、この違和感が続く限り、能力をコントロールできるようにならないと、この寮で生活することはできない。
これ以上、俺のせいでみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
「うっ……」
「颯斗、どうしたの?」
唐突に激しい頭痛に襲われ、俺は意識を保てなくなった。
そのまま、その場に倒れ込む。
「颯斗!」
俺の名前を呼ぶ声が、だんだんと遠ざかっていく。
そして、俺は完全に意識を失った。




