第23話
明らかに、俺の視界がおかしい。
全身から雷が噴き出すのと同時に、俺の視界が何かに包まれた。
最初は特に異常がないように感じたが、黒川先生を見たとき、その異変に気が付いた。
黒川先生の姿に、紫色のモヤがかかっている。
「神崎くん、一旦雷を抑えられますか!」
「は、はい!」
黒川先生に言われ、雷を抑えようと意識したが、まったく抑えられない。
意識することが逆効果になっている可能性を考え、能力を使うために強く意識していた殺意や能力に関することを、頭の中からすべて取り払おうとした。
そして、無心になることに集中する。
すると、次第に雷が落ち着き、黒川先生にかかっていた紫色のモヤも消えた。
「と、とりあえず収まりました」
「よかった……。意識がなくなるような感覚はありましたか?」
「それは特になかったです。視界が何かに包まれていくような感じがしました」
「視界が、ですか?」
「はい。視界が何かに包まれたと思ったら、黒川先生にだけモヤがかかって見えて……」
俺の話を聞いた黒川先生は、少し俯いて考え始めた。
「神崎くん。特に息が切れたりもしていませんが、体力を消耗した感覚はありますか? 全力で短距離を走った後のような感覚は」
「特にないですね」
それなりの量の雷を全身から放出したと思うのだが、俺は特に疲労を感じていなかった。
だが、あのときのあいつを思い返してみると、これが普通なのではないかとも感じる。
あれだけの炎を出してすべてを焼き尽くしていながら、まったく疲れている様子はなかった。
「普通はそれなりに疲労を感じると思うのですが……」
黒川先生も、少し不思議そうな顔をしていた。
「二回目、やっても大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です」
俺は再び目を閉じ、右腕に意識を集中する。
そして、あいつへの殺意を呼び起こした。
激しい轟音が鳴り始め、目を開けると、また全身から雷が放出されていた。
今度は視界が何かに包まれていくような感覚はなかったが、先ほど失敗したときと同じように、黒川先生の姿にはモヤがかかっていた。
「ん?」
視界の奥で、小さな紫色のモヤが三つ動いていることに気が付いた。
よく見ると、赤田さん、白蓮さん、青山さんの三人が歩いている姿だった。
おそらく、学園から寮に向かっているのだろう。
「神崎くん! 雷を抑えてください!」
俺は先ほど失敗したときと同じように、無心になることに集中した。
すると、雷は落ち着いたが、視界の違和感は消えなかった。
「大丈夫ですか?」
「さっき言っていた視界の違和感がなくならないです。黒川先生にモヤがかかってます」
「モヤ以外に何か違和感はありませんか?」
「黒川先生には、赤田さんたちが歩いているのが見えますか?」
「え?」
黒川先生は俺の視線の先を追い、目を凝らした。
だが、赤田さんたちを見つけられなかったのか、俺の方を向いて不思議そうな顔をした。
「どこにいます?」
「俺の目線の先です。三人で歩いてませんか?」
「いや、まったく見えないです」
俺には、三人が談笑しながら歩いている様子がはっきりと見えていた。
だが、この視界の違和感がなければ、俺にも見えないのではないかと思う。
「神崎くん、一旦今日はここまでにしましょう」
「はい」
まったく疲れていないため、まだまだ訓練を続けられそうだと思いながら、俺は寮に戻る準備をした。
「神崎くん。視界の違和感はまだ続いてますか?」
「はい。まだ続いてます」
「分かりました。違和感がなくなったら教えてください」
俺は黒川先生と一緒に寮へ戻ることにした。
歩きながら、黒川先生は次回の訓練メニューを考えているのか、ぶつぶつと独り言を言っていた。
あと5分ほどで寮に着くというところで、俺は足を止めた。
「どうしました?」
黒川先生が不思議そうに俺を見てくる。
俺は今、自分に見えているものが信じられなかった。
寮の食堂で何かを話している、紫色のモヤがかかった三人の姿が――なぜか、俺には見えていた。




