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黒雷の復讐者  作者: Lilith
第2章 開花

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第21話

 目が覚めると、見慣れない光景が目に飛び込んできた。


 ベッドの周りにカーテンらしきものがあるところを見ると、どうやら俺は保健室にいるようだ。


 身体を起こしてあたりを見回すと、俺が目を覚ましたことに気付いた赤田さんが近付いてきた。


「あ、颯斗! 気が付いた?」


「ああ。ここは保健室?」


「そうだよ。あの後、颯斗は立ったまま意識を失っちゃって――」


 俺が覚えているのは、上級生の能力によって水の中に囚われたこと。そして、俺を助けたければと、上級生が赤田さんや白蓮さんに卑劣な要求を突きつけていたことだ。


 俺が助かったということは、まさか――。


「あいつはどうなったんだ。俺を助けたければとか、ふざけたことを二人に言ってたけど」


「覚えてない?」


「え?」


 白蓮さんが水の入ったペットボトルを俺に差し出しながら、問いかけてきた。


 俺はペットボトルを受け取り、とりあえず水を飲んでから、もう一度記憶をたどってみる。


 いや、やはり水に囚われたところまでしか覚えていない。


「あの上級生なら、意識不明の重体」


 意識不明の重体?


 あの上級生の身に、一体何があったというのだろう。


「動けそう?」


「問題ない」


「なら、理事長室に行こう。そこで、知りたいことが分かると思うから」


 俺は白蓮さんに促されるまま、置いてあった荷物を持って保健室を後にした。


 赤田さんと白蓮さんも一緒に来るそうで、三人で理事長室へ向かうことになった。


 今、一番気になっているのは、あの上級生がなぜ意識不明の重体になったのかということだ。


 俺が人質に取られていたあの状況で、赤田さんや白蓮さんたちが何かできたとは到底思えない。


 かといって、上級生自身の能力が原因とも考えにくい。


 下級生である俺たちを相手に、そこまでのリスクを負う必要はないはずだ。


 ならば、駆け付けた先生が上級生に対して何らかの能力を使ったのだろうか。


 だが、いくらあの上級生が救いようのない人間だったとしても、先生からすれば大切な生徒の一人だ。


 生徒相手に、意識不明の重体になるほどの攻撃を加えるだろうか。


 いくら考えても答えは出ない。


 そうこうしているうちに、気付けば理事長室の前にたどり着いていた。


 白蓮さんがノックをし、俺が目を覚ましたことと、理事長室まで連れてきたことを扉越しに伝える。


 中から理事長の「入れ」という声が聞こえ、俺たちは理事長室に入った。


「神崎。どこか身体に異常はないか?」


「はい、大丈夫です」


 理事長室には、理事長と黒川先生がいた。


 二人とも、俺の顔を見ると少し安心したような表情を浮かべた。


「まず、上級生の件だが。君はクラスメイトがカツアゲされている現場に遭遇し、その生徒を助けようとした。ここまでは合っているか?」


「はい」


「そうか。では、次に君が上級生を殴り飛ばしたことは覚えているか?」


「はい?」


 俺が上級生を殴り飛ばした?


 何を言っているんだ。


 俺は上級生の能力によって水の中に囚われていたはずだ。


 上級生を殴り飛ばすことなど、できるはずがない。


「その様子だと、神崎自身には記憶がなさそうだな」


「どういうことですか。一体、何が……」


「信じられないと思うが、落ち着いて聞いてくれ。結論から言えば、君の能力が暴走したんだ」


 俺の能力が暴走した。


 にわかには信じられない話だ。


 だが、暴走している間の記憶がまったくないことを考えれば、信じざるを得ないだろう。


「なら、上級生が意識不明の重体になったのは――」


「君の能力の暴走が原因だ」


「そうですか」


 本来なら、自分の能力の暴走によって他人を傷つけたのだから、申し訳ないという気持ちが湧いてきてもおかしくないのだろう。


 だが、今の俺には、そんな感情は微塵もなかった。


「神崎、明日から能力をコントロールする訓練を開始する。きついかもしれないが、頑張ってくれ」


「はい」


 理事長に寮へ戻るよう促され、俺たちは理事長室を後にした。


 俺が心の中で思っていることは、ただ一つ。


 やっと、自分の目的に一歩近付くことができた。


 その喜びだけだった。


 * * *


 神崎くんたちが理事長室を出ていき、部屋には私と理事長の二人だけが残った。


 理事長は窓の外を眺めながら、私に改めて状況を確認する。


「黒川はあの場にいたんだよな?」


「途中からですが、一応」


「神崎の能力は何だった?」


「聞いていた通りの雷の能力です。それと、おそらく瞬間移動の能力もあると思います」


「瞬間移動?」


 理事長は私の方に向き直った。


 神崎くんが瞬間移動を扱えるということが、よほど信じられないらしい。


「瞬間移動は、あいつの能力だろう? なぜ神崎が……」


「彼が言っていた通りだと思います。神崎くんは――」


 あの日、彼は言っていた。


 神崎くんは、ただの能力者ではないと。


「――すべてを超越した能力者だということです」

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