第20話
水の中に囚われた颯斗を何とか救おうと、私と佳奈で作戦を練っていると、事態が急変した。
颯斗を閉じ込めていた泡のようなものが突然はじけ、直後、大きな音が鳴り始めた。
改めて状況を確認すると、そこには全身を発光させ、轟音を響かせている颯斗の姿があった。
「は、颯斗?」
「ダメ」
颯斗に近付こうとした私を、佳奈が制止する。
「佳奈、どうして――」
「見れば分かるでしょ。あれは完全に……」
佳奈の言葉を聞き、改めて颯斗の様子を観察する。
全身が光っているのは、青白い電気を纏っているからのようだ。特にダメージを受けている様子はない。あの電気は、颯斗自身の身体から発せられているのだろう。
颯斗はその場から動こうともせず、ただじっと上級生を睨み付けていた。
「暴走してる?」
「多分。みんな、下がって」
佳奈がみんなに指示を出す。しかし、目の前の光景に驚いているのか、誰も動くことができないようだった。
正直、私も身動きが取れなかった。
目の前にいる颯斗は、いつもの優しい颯斗とはまるで別人だった。
上級生を睨み付けるその目には、憎悪が満ちているように感じられた。
颯斗が無事そうだと分かって安堵する一方で、別人のようになってしまった颯斗への恐怖が、それを上回っていた。
「クソ生意気な!」
自分の能力を破られたことに腹を立てたのか、上級生は右手を拳銃のような形にして、颯斗に向けた。
「水の弾丸!」
上級生の右手から水の塊が発射され、颯斗に向かって高速で飛んでいく。
颯斗は相変わらずその場から動こうとせず、水の塊をまともに受けてしまった。
だが、水の塊は颯斗の身体に当たったものの、全身を覆う電気によって完全に防がれてしまった。
「なんだと!」
自分の攻撃が防がれたことに驚く上級生。
その隣で、佳奈は冷静に状況を分析していた。
「電気を纏っているということは、神崎は雷の能力を扱えるってこと。雷は水に対して有利だから、防げて当然」
「で、でも、雷の能力って……」
「そう。能力者の歴史上、雷の能力を使ったのは、始祖の能力者ただ一人」
つまり颯斗は、これまで誰も扱うことができず、今後も使える者は現れないと思われていた能力を持っているのだ。
「クソ生意気な!」
上級生は右手を強く握り、その拳を水で包み込む。
そして、颯斗との間合いを一気に詰めた。
「まさか、近接攻撃を……」
上級生の行動に、佳奈が驚きの声を上げた。
基本的に、能力の相性で不利な相手に接近戦を仕掛けるのは、自殺行為に等しい。
「くたばれ! 水流の一撃!」
上級生は水を纏った右拳を颯斗に叩き込もうとした。
しかし、颯斗はその攻撃をあっさりとかわす。
同時に右手を腰のあたりに構え、反撃の態勢を取った。
「なっ!」
颯斗は上級生が攻撃した直後の隙を逃さず、右拳をみぞおちに叩き込んだ。
青白い電気を纏った拳が直撃した瞬間、上級生の身体がものすごい勢いで吹き飛ばされる。
上級生は壁に激突し、そのまま壁を突き破って向こう側へと飛んでいった。
「す、すごい……」
「大丈夫ですか!」
颯斗のとんでもない一撃に驚いていると、黒川先生がこちらに向かって走ってきた。
どうやら、近くの教室にいた生徒が職員室まで先生を呼びに行ってくれたらしい。
黒川先生は颯斗の姿を見るなり、状況を察したようだった。すぐに私たちへ下がるよう指示を出す。
「白蓮さん、簡単に経緯を教えてください」
「上級生が神崎を能力で追い詰めていたところ、神崎の能力が暴走し始めました。先ほど、神崎の一撃で上級生があの壁の向こうまで吹き飛ばされたところです」
黒川先生は佳奈の説明を聞くと、壁の向こうへと視線を向けた。
しかし、上級生の姿は確認できなかった。
「とにかく、神崎くんは私が止めます。みんなはこれ以上近付かないでください」
黒川先生が颯斗に近付こうとした、そのときだった。
颯斗が全身に纏っていた電気が、ふっと消えた。
颯斗はその場に立ち尽くしたまま、動く気配を見せない。
ひとまず暴走が終わったのだと、私たちは安堵した。
「クソが! あいつ、なんなんだよ!」
遠くから、上級生の苛立った声が聞こえてきた。
その瞬間、目の前にいた颯斗の姿が消えた。
消える直前まで、颯斗はただ直立したまま立っていただけだった。何か行動を起こす前触れすら、見受けられなかった。
「上級生の声が聞こえなくなった……?」
佳奈が不安そうにつぶやく。
「まさか……」
黒川先生を先頭に、私たちは上級生が吹き飛ばされた場所へと向かった。
そこに、颯斗はいた。
右手から血が滴り、顔を血で汚した上級生を見下ろしながら、彼は静かに立っていた。




