第17話
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。
二階の部屋から、目覚まし時計のアラーム音が聞こえてくる。
時刻は早朝、6時30分。
俺は一階の食堂で朝食の準備をしていた。
俺がこの寮に入寮してから、約一週間が経過した。
この一週間、特に何か問題が起きることもなく、平穏な毎日を過ごしていた。
転校初日の自己紹介で、俺は自分の成し遂げたいこととして、「あいつへの復讐」をみんなの前で宣言した。
あの瞬間の教室の空気は、すごいものだった。
しんと静まり返り、歓迎ムードだった教室が一瞬にして困惑に包まれたのだ。
その後の休み時間や授業中、俺はほとんど一人で過ごしていた。
教室で話しかけてくるのは赤田さんや白蓮さんだけで、それ以外のクラスメイトは俺の席に近づこうともしなかった。
俺と偶然目が合うと、慌てて視線を逸らす。その様子を見る限り、かなり重症だと思う。
だが、俺としては復讐について聞かれても答えようがないし、クラスで一人でいることを辛いとも思わない。だから、今の状況に対して特に何も感じていなかった。
それよりも、この学園で自分のやりたいことが明確になったことのほうが、俺にとってはありがたかった。
「まだ起きてこないのか」
アラーム音が聞こえ始めてから、5分ほど経っただろうか。
いまだにアラームが止まる気配はない。それどころか、誰も起きてこなかった。
朝食の準備もあらかた済んだし、そろそろ彼女たちを起こしに行こう。
俺は食堂を出て、二階に上がった。
アラーム音が鳴り響く部屋の前に立ち、扉をノックする。
「おーい、起きろー。そしてアラームを止めろー」
……。
部屋の主からの返事はない。
やむを得ないか。
「おーい。入るぞー」
俺は扉を開けて中に入り、けたたましい音を鳴らし続けているアラームを止めた。それから、部屋の住人に声をかける。
「青山さん、起きて」
「う、うぅん……」
青山さんはもぞもぞと寝返りを打つものの、一向に起きる気配がない。
それでも諦めず、俺は彼女を起こし続けた。
「青山さん、起きてって。アラーム鳴ったよ」
「あ、あと5分……」
「アラームが鳴ってから、もう5分以上経ってるよ」
往生際の悪いことを言う青山さんを起こすことは諦め、俺は彼女の部屋を出た。
これ以上、俺にできることはなかった。
青山さんは朝に弱いらしく、基本的に誰かに起こしてもらっている。当然、起きてくるのも一番最後だ。
「おはようございます」
「おはよう、ございます」
ちょうど青山さんの部屋から出たところで、黒川先生と鉢合わせした。
黒川先生の格好を見た瞬間、俺は慌てて目を逸らした。
おそらく寝間着なのだろうが、薄手の肌着に下は下着だけという格好だった。
いくら寝起きとはいえ、年頃の男としては反応に困る。
「どうしたんですか? 後ろを向いたりして」
「自分の格好を見てください」
「え?」
黒川先生は自分の格好をまじまじと見つめる。
そして、男の俺に見せるには少々問題のある格好だと気づいたのか、慌てて自分の部屋に戻っていった。
「す、すみません! お見苦しいものを……」
別に見苦しいわけではないが、目のやり場に困るのは確かだった。
「朝食がもうすぐできますから、準備ができたら降りてきてくださいね」
俺はそう声をかけると、まだ寝ているだろう最後の住人の部屋へ向かった。
ちなみに、赤田さんは毎朝ランニングをしているらしく、今はシャワーを浴びている。
理事長は先に朝食を済ませ、すでに理事長室へ向かっていた。
最後の住人は白蓮さんだ。
扉をノックしながら、声をかける。
「白蓮さん。朝だよ」
「おはよう。準備ができたら下に降りる」
「おはよう。よろしく」
声をかけてすぐに返事が返ってきた。
どうやら、白蓮さんは特に朝が弱いわけではないらしい。問題なく起きられているようだ。
朝食の準備ができていることを伝えるため、一応、白蓮さんの部屋にも声をかけておいた。
俺は一通り声をかけ終え、食堂に戻る。
青山さんは、あとで赤田さんか白蓮さんに起こしてもらえるよう頼んでおこう。
「颯斗、おはよう!」
「おはよう」
食堂に戻ると、すでに身支度を終えた赤田さんが、みんなを待っていた。
「今日の朝ご飯は何?」
「今日はご飯と味噌汁と焼き鮭かな」
「お、いいね! 美味しそう!」
赤田さんは、寮の中で唯一、俺の下の名前で呼んでくる子だ。
最初は俺も戸惑ったが、昔からそう呼んでいたと彼女に言われ、受け入れることにした。
「そういえば、青山さんを起こしてもらえないかな。まだ起きてなくて」
「了解、任せといて!」
赤田さんにとって、昔一緒に過ごしたことのある俺がどんな存在だったのか、今の俺には分からない。
だが、黒川先生によると、俺がこの寮に来てからの赤田さんは、以前よりも少し明るくなったそうだ。
教室でもよく話しかけてくれるし、少なくとも、俺との関係は悪くなかったのだろうと思っている。
「……おはよう」
しばらくすると、眠そうな顔をした青山さんが、赤田さんと一緒に食堂に入ってきた。
続いて白蓮さんと黒川先生もやってきて、朝食が並べられたテーブルにつく。
「いただきます」
みんなで朝食を食べながら、俺は自分がこの学園での生活に慣れてきたことを実感していた。




