第16話
無事に寮の住人として認められた翌日。
今日は、俺の星光学園への転校初日だ。
現在、俺は職員室で黒川先生を待っているのだが、ここに来るまでに、星光学園の敷地の広大さを改めて実感した。
俺が住んでいる寮から学園の校舎まで、徒歩で一時間もかかったのだ。
さらに、赤田さんたちは「これでも近い方なんだよ」と笑っていた。
具体的な敷地面積は聞いていないが、一般的な町と同じくらい広いのではないかと思ってしまうほどだ。
校舎の大きさも規格外だが、どうやら高等部と中等部が同じ校舎を使っているらしい。今いる校舎とは別に、初等部の校舎と大学部の校舎もあるそうだ。
「あれ、おはよう」
「おはようございます」
職員室の面談用スペースで黒川先生を待っていた俺に、女性の先生が声をかけてきた。
小柄な方だが、服の上からでもスタイルの良さが分かるほど、体つきにメリハリがある人だった。
何より特徴的なのは髪の色だ。生え際から髪の真ん中あたりまでは黒だが、そこから毛先にかけて青くなっている。
赤田さんや白蓮さんを見ても思ったが、星光学園の関係者、ひいては能力者には、髪の色が変わった人が多いのだろうか。
「誰か待ってるの? 呼んでこようか?」
「いえ、大丈夫です。黒川先生から、ここで待っているように言われていますので」
「なるほど。じゃあ、君が茜ちゃんの言ってた転校生か」
「お待たせしました」
噂をすれば、黒川先生がバインダーを持って戻ってきた。
「あら、茜ちゃん。おはよう」
「辰宮先生、勤務中はその呼び方をやめてくださいと、いつも言っているでしょう」
「あ、ごめんごめん」
辰宮先生と呼ばれた女性と黒川先生は仲が良さそうで、年齢も近いように感じられた。
「そういえば、自己紹介してなかったね。私は辰宮。一般科目を担当しているよ」
「神崎です。よろしくお願いします」
「神崎くんね。覚えておくわ。それじゃあね」
辰宮先生は自分の席に戻り、パソコンを操作し始めた。
「神崎くん、私たちも教室に向かいましょう」
「はい」
俺たちは職員室を出て、教室へと向かった。
廊下を歩いていると、教室で先生を待つ生徒たちの賑やかな声が聞こえてくる。
こうして考えると、ここにいる人たちは全員が能力者なのに、それを感じさせないほど一般人と変わらない。
本当に、能力を使えるかどうかという点くらいしか、一般人と能力者の間に違いはないのだろうか。
「緊張してますか?」
「えっ?」
「少し顔が強張っているような気がして」
「すみません。少し考え事をしていました。大丈夫です」
気がつけば、これから俺が通う教室の前まで来ていた。
黒川先生は教室の扉に手をかけている。
「じゃあ、私の合図で教室に入ってきてくださいね」
「分かりました」
黒川先生が教室の扉を開けた。
「みなさん、席についてください。朝のホームルームを始めますよ」
「起立、礼」
「おはようございます」
号令をかけたのは赤田さんだった。
学級委員のような、何か役職についているのかもしれない。
「今日は最初に、転校生を紹介します。入ってきてください」
俺は教室の扉を開け、一礼してから中に入った。
クラス中の視線が俺に集まるのを感じる。
「じゃあ、黒板に名前を書いてから自己紹介をお願いします」
黒川先生の指示に従って黒板に自分の名前を書き、みんなの方へ向き直る。
そして、自己紹介を始めた。
「神崎颯斗です。よろしくお願いします」
事前に、自己紹介では、この学園に入って成し遂げたいことも話してほしいと黒川先生から言われていた。
あの事件が起きる前、俺には特別な将来の夢などなかった。
この先も、なるようになるのだろうと思っていたし、それを受け入れればいいと思っていた。
だが、あの事件ですべてを失い、俺は今ここにいる。
そんな俺の中で、ずっと引っかかっていることがあった。
昨日、理事長が俺に告げたこと。
俺が能力者であるということだ。
自分が本当に能力者であるという実感はない。仮に能力者だったとしても、どんな能力を使えるのかさえ分からない。
それでも、もし俺が本当にあいつと同じ能力者なら――。
必ず、やりたいことがある。
「俺がこの学園で学び、成し遂げたいことは、俺からすべてを奪ったあの男に復讐することです。たとえ刺し違えたとしても、必ずあの男を殺します。以上です」




