第15話
俺の質問に、白い髪の子は顔を向けるだけで、何も答えなかった。
「いいわけないでしょ」と言わんばかりの視線が、俺を貫いてくる。
「あ、あの……」
彼女は再び炊飯器に目を落とし、茶碗にご飯をよそい始めた。
「良くは思ってないよな。無理なら言ってくれ。俺からも理事長たちに話して、この寮を出るから」
俺も作った豚汁をお椀によそいながら、彼女に伝える。
理事長たちが彼女たちをどう説得したのかは知らないが、ここが女子寮で、俺が男であるという事実は変わらない。
たとえ俺にどんな事情があったとしても、元々ここで暮らしていた彼女には、拒否する権利がある。
「大丈夫。出て行けなんて言わない」
彼女はご飯をよそい終えた茶碗をお盆に並べながら、こちらを向かずに答えた。
「あ、ありがとう」
「さっき、緑からあなたの話を聞いた」
赤田さんか。
昔、俺と出会ったことがあるという話をしたのだろうか。
「あなたと前に一緒にいたことがあったんだって。そのときのあなたは、とてもいい子だったって話をされた」
俺がどれだけいい子だったとしても、彼女には関係ない。
それだけで、俺をこの寮の住人として認める理由にはならないだろう。
「さっき彩夏さんも、あなたのことをいい人そうだって言ってた」
「青山さんが? 少し話しただけだけどな」
「理事長から事情も聞いてる。みんながあなたを認めるのなら、私もあなたがここに住むことを認める」
「いいのか?」
「何が?」
彼女の言っていることは理解できる。
周りがいいと言っているから、自分もいいと思う。
でも、それは彼女の本心なのだろうか。
「みんなが認めるなら私も認めるって、それは君の本心なの?」
「どういう意味?」
「その言い方だと、本当は嫌なのかなと思って。俺がこの寮にいることで、誰かが我慢しなきゃいけないっていうのは違うだろ?」
「そういうことね」
彼女が俺の方を向く。
その表情は、初めて会ったときよりも少し柔らかくなっているように感じた。
「それなら心配しなくていい。今、話してみて、あなたが悪い人じゃないってことは分かったから」
「それならいいんだけど」
「私は白蓮佳奈。よろしく」
そう言うと、白蓮さんは茶碗を乗せたお盆を持って、テーブルの方へ向かった。
彼女がいいと言うのなら、俺がとやかく言うことではないだろう。
俺も豚汁をよそったお椀をお盆に乗せ、テーブルへ運んだ。
「おー、できたか!」
俺が食堂に戻ると、理事長が目をキラキラと輝かせていた。
俺はお盆に乗せた料理をテーブルの上に置いた。すると、そこにいたみんなから感嘆の声が上がった。
「レシピを見て作っているわけでもないので、味の保証はできませんよ」
「絶対大丈夫ですよ。この見た目でおいしくないわけがないです!」
それぞれにご飯と豚汁が行き渡り、みんなが席に着く。
全員が席に着いたのを確認すると、理事長が口を開いた。
「じゃあ、ご飯を食べ始める前に、改めてみんな自己紹介しよう。私は雪川トワ。この学園の理事長だ」
「私は黒川茜です。よろしくお願いします」
「青山彩夏です。よろしく」
「白蓮佳奈。よろしく」
「赤田緑です。これからよろしくね」
みんな、手短に自己紹介をする。
「俺は神崎颯斗です。まずは、入寮を許可していただきありがとうございます。至らないところがあれば、いつでも言ってください。よろしくお願いします」
「うむ、よろしく!」
俺の自己紹介を、みんな柔らかな表情で聞いてくれた。
これからの寮生活は、最初に想像していたよりもいいものになりそうな気がしてきた。
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきます!」
みんなは、俺の作った料理をおいしいと言いながら食べてくれた。
最近は一人暮らしで、自分が食べるためにご飯を作っていた。
けれど、誰かが自分の作ったご飯を食べて、おいしいと言ってくれる。
そのことが、俺はとてもうれしかった。




