第12話
俺は今、自分の目を疑っていた。
理事長と黒川さんに連れられ、これから生活する寮までやって来たのだが、問題はその入口に「女子寮」と書かれていることだった。
「あの、すみません」
「どうしました?」
「俺がこれから生活する寮って、ここなんですか?」
「そうですよ」
「女子寮って書いてあるんですけど、本当にここなんですか?」
「はい、ここです」
どういうことだ。
俺は女の子に見えているのだろうか。
それとも、この寮には今、誰も住んでいないのかもしれない。
「おーい、今帰ったぞー」
理事長は寮の中にいる誰かに向かって声をかけながら、さっさと中へ入っていった。
俺の期待もむなしく、この寮には誰かが住んでいるらしい。
「神崎くん、行きますよ?」
「……はい」
あまり気は進まないが、俺は黒川さんに続いて寮の中に入った。
中はきれいに掃除されていて、清潔感があった。
玄関で靴を脱ぎ、そのまま食堂らしき部屋へと通される。
そこでは、理事長が三人の女の子と話していた。
「理事長、彼は?」
俺たちが入ってきたことに気づいた白い髪の女の子が、少し怪訝そうな顔で理事長に尋ねた。
その声を聞いて俺の存在に気づいたのか、ほかの二人もこちらに視線を向ける。
「えっ……」
青い髪の女の子は不思議そうに俺を見つめていたが、赤い髪の女の子は驚いているようだった。
まあ、女子寮に男が平然と入ってきたら、驚くのも無理はないだろう。
「今朝、話しただろう? 今日からこの寮の仲間が増えるって。彼がそうだよ」
「彼がそうだよって……ここ、女子寮ですよ? 男子と一緒に生活するなんて聞いてません」
「男子が来るとは伝えていないからな」
理事長は特に悪びれる様子もなく、白い髪の女の子に淡々と告げた。
「黒川先生、どういうことですか?」
理事長に聞いても埒が明かないと思ったのか、白い髪の女の子は黒川さんに尋ねた。
「男子寮に今、空きがないことが一つ。もう一つは、彼が能力者に命を狙われている立場だということです。私の目の届くところにいてもらいたいので、この寮で生活してもらうことになりました」
青い髪の女の子は「なるほど」と納得した様子だったが、白い髪の女の子はまだ納得できていないようだった。
一方、赤い髪の女の子は、俺を見て驚いたまま、心ここにあらずといった様子で話に加わろうとしなかった。
「あなたはどう思ってるの?」
「えっ?」
白い髪の女の子が、俺を睨みながら問いかけてきた。
「女子寮で女子と一緒に住むことについて、どう思ってるのかって聞いてるの」
「正直、男の俺が女子寮で女子と一緒に生活するなんて、あり得ないと思ってる。けど、俺はお世話になる側だから、文句は言えない」
俺の答えを聞くと、白い髪の女の子は睨むのをやめ、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
俺が望んでこうなったわけではないと、分かってくれたのだろう。
「俺は別に、外で寝ることになっても構わない。だから、五人で話し合って決めてくれ」
「そういうわけにはいきません。赤田さん、彼を部屋まで案内してもらえませんか?」
黒川さんが赤い髪の女の子に声をかけた。
しかし、聞こえていないのか、彼女はずっと俺を見つめたまま固まっていた。
「緑?」
青い髪の女の子に背中を軽く叩かれながら呼ばれ、ようやく反応する。
「えっ?」
「こちらこそすみません。彼を部屋まで案内してもらえませんか?」
黒川さんが改めて尋ねると、赤田さんは慌てて答えた。
「わ、分かりました」
赤田さんは食堂の扉へ向かい、俺に「こっち」と手招きした。
俺はほかの四人に一礼してから、彼女の後を追った。
そのまま階段を上り、二階にある一室へと案内される。
「ここが君の部屋だよ」
「ありがとう。えっと、赤田さんでいいのかな?」
「うん、大丈夫」
案内された部屋はいたってシンプルだった。
机にタンス、ベッド、そして何も入っていない本棚が置かれているだけだ。
俺は持ってきたわずかな荷物を整理してから、机の上に置かれていた教科書を手に取った。
見覚えのある現代文や数学の教科書がある一方で、『能力者基礎』や『能力戦闘論』といった、聞いたこともない科目の教科書まで置かれていた。
どんな授業があるのか気になり、教科書を眺めるのに夢中になっていると、背後から赤田さんが声をかけてきた。
「あのさ、君、名前はなんて言うの?」
「ごめん、まだ名乗ってなかったね。俺は神崎颯斗。高校一年だよ」
俺が名前を告げた、その瞬間。
目の前にいる赤田さんの目から、涙がこぼれ落ちた。
突然のことに、俺はどうしたらいいのか分からず、動揺してしまう。
すると、彼女は勢いよく俺に抱きついてきた。
「ど、どうしたの? 大丈夫?」
彼女は顔を上げ、笑顔で答えた。
「やっと会えたね、颯斗」




