第11話
黒川さんと合流したトンネルから歩くこと三十分。
もう少しで理事長がいる建物が見えてくるそうだ。
ここまでの道中にもいくつか建物があったが、黒川さんの話では、すべて学生寮なんだそうだ。
「黒川さん、一つ聞いてもいいですか?」
「どうしました?」
黒川さんと歩いている中で、俺には気になっていることがあった。
それは、明らかに男の子の姿が見当たらないことだ。
道中で何人かの星光学園の生徒と思われる子たちとすれ違ったが、いずれも女の子だった。
しかも、すれ違った女の子たちが学生寮と思われる建物に入っていくのを見かけた。つまり、あの建物は女子寮なのだろう。
男の子とは一度もすれ違っていないし、男子寮と思われる建物も見ていない。
「男の子とは一度もすれ違っていませんが、星光学園には女の子しかいないんでしょうか?」
「いえ、男の子もちゃんといますよ。ただ……」
「ただ?」
「男女の比率で言うと、女子の方が圧倒的に多いんです」
「圧倒的って、そんなに差があるんですか?」
「はい。男子生徒の約四倍の女子生徒がいます」
「そ、そんなに……。能力者自体、女性の方が多いんですか?」
「ええ。始祖の能力者が女性だったからか、能力者は女性の方が多いんです」
始祖の能力者。
能力者には能力者なりの歴史がある。そんなことを感じさせる言葉だった。
俺は能力者という存在が、突発的に生まれたものだと思っていた。だが、どうやら違うらしい。
「神崎くん、着きましたよ」
気づけば、目の前に大きな建物が見えていた。
どうやら、あれが理事長の待つ建物らしい。
「黒川、おかえり」
建物の入口の前に、一人の女性が立っていた。
かなり小柄な女性で、銀色の髪をツインテールにしているのが印象的だった。
「ただいま戻りました、理事長」
「彼が神崎颯斗くんか?」
黒川さんが理事長と呼ぶ女性は、俺を見ながら尋ねた。
「はい。俺が神崎です」
黒川さんが答えるより先に、俺が答えた。
理事長は頷くと、入口の扉を開け、俺たちを建物の中へと促した。
そのまま案内されたのは、「理事長室」と書かれた部屋だった。
室内には大きな机と、ファイルや本が並んだ棚があるだけで、思っていたよりも地味な印象を受けた。
大きな机の上には書類が山積みになっている。理事長という仕事が激務なのだろうと、容易に想像できた。
「まずは自己紹介からだね。私が星光学園の理事長、雪川トワだ」
理事長はそう名乗ると、書類の山から一枚の書類を取り出した。
「神崎くん、まず最初にこれだけ確認しておく。これから君は、この能力者しかいない学園で過ごすことになるけど、覚悟はできてる?」
理事長は真剣な表情で俺を見つめながら、そう問いかけた。
俺の答えは決まっていた。
「はい、できています」
「よし、分かった。私たち星光学園は君を歓迎する」
「ありがとうございます」
俺は改めて、理事長に頭を下げた。
「これから君を寮に案内するんだが、その前に一つ、伝えておかなければならないことがある」
「なんでしょう?」
「君は能力者だ。まだ覚醒していないがね」
俺は、理事長が何を言っているのか理解できなかった。
俺が能力者だって?
そんなことがあり得るはずがない。
自分に特殊な能力があるという自覚はないし、無意識のうちに能力を使っていた、という話も聞いたことがない。
「どういうことですか? 俺が能力者って……」
「そのままの意味さ。具体的にどんな能力を持っているのかまでは分からない。だが、君が能力者であることは間違いないんだよ」
俺が、秋山先生と同じ能力者。
そう思った途端、俺の中で一つの感情が大きくなっていく。
もし俺が能力者で、秋山先生のように能力を使うことができるのなら――。
俺には、どうしてもやりたいことがある。




