第7話 吊り橋の追跡
夜明け。
森に小鳥のさえずりが響く。
「……ん。」
勇者が目を覚ました。
嫌な予感がした。
焚き火は燃え尽き、辺りは静まり返っている。
「しまった!」
勢いよく立ち上がる。
そこにあるはずの三台の荷車が、一台もなかった。
「起きろ!」
勇者の叫びで戦士、賢者、聖女も飛び起きる。
「な、何事だ!」
「荷車が……!」
「全部ありません!」
聖女の顔が青ざめた。
「財宝が!」
四人は一斉に荷車を置いていた場所へ駆け寄る。
残っていたのは、深く刻まれた車輪の跡だけだった。
戦士は地面にしゃがみ込み、土へ手を触れる。
「足跡が大量にある。」
「三十人……いや、それ以上か。」
勇者は剣を握り締めた。
「野盗だ。」
「追うぞ!」
戦士は追跡の名手だった。
折れた枝。
踏み荒らされた草。
車輪の跡。
すべてを読み取りながら、迷うことなく森を駆け抜ける。
「急いでいる。」
「荷車が重くて速度は出ていない。」
賢者も地面を見つめる。
「まだ遠くへは行っていません!」
勇者たちは全速力で追跡を続けた。
その頃。
「押せ! もっと押せ!」
野盗たちは大汗を流していた。
目の前には、巨大な川。
激流が轟音を立てて流れている。
渡れる場所は一本の古い吊り橋だけ。
三台もの荷車を通すには、あまりにも狭く、頼りなかった。
ギシ……
ギシギシ……
橋は大きく軋む。
「一台ずつだ!」
「急げ!」
頭目が怒鳴る。
一台目がゆっくりと橋を渡る。
大きく揺れる。
二台目も何とか進む。
そして最後尾。
赤子が乗せられた荷車だった。
揺りかごの横には、財宝を詰め込んだ大きな樽が置かれている。
その中には、金貨や宝石とともに、魔王の秘宝である指輪が無造作に放り込まれていた。
ギシッ。
橋が大きく揺れた。
荷車も大きく跳ねる。
ガタン!
樽が傾いた。
カラン。
カラン、カラン。
黄金の指輪が何個も樽の外へ転がり出る。
「あぅ?」
赤子が目を覚ました。
小さな体が荷台の揺れで転がる。
ころん。
ころころ……。
そのまま開いた樽の中へ。
ぽすっ。
赤子は柔らかな布や財宝の上にすっぽり収まってしまった。
再び橋が大きく揺れる。
カラン、カラン。
転がっていた宝石が赤子の周りへ落ちていく。
誰も気付かない。
野盗たちは荷車を押すことに必死だった。
「あと少しだ!」
「橋を渡り切れ!」
その時――
「いたぞ!」
森の向こうから勇者の声が響いた。
野盗たちは一斉に振り返る。
「勇者だ!」
「もう来やがった!」
頭目の顔色が変わる。
吊り橋の上。
逃げ切るか。
それとも財宝を捨てるか。
野盗たちは究極の選択を迫られていた。




