第6話 野盗の夜
魔王城を出た勇者一行は、朝焼けの中をゆっくりと進んでいた。
先頭を勇者。
左右を戦士と賢者。
最後尾を聖女が歩く。
その後ろには、三台の大きな荷車。
一台目には金貨や宝石。
二台目には魔剣や魔道具、希少鉱石。
そして三台目には、魔王の玉座から見つかった貴重な財宝と、小さな揺りかごが積まれていた。
揺りかごの中では、赤子が静かに眠っている。
「すやぁ……。」
聖女は何度も荷車を振り返った。
「かわいいですね。」
「王都へ着いたら、この子の身元も調べてもらいましょう。」
勇者はそう答えたが、心の中では引っ掛かっていた。
――魔王の最後の言葉。
『頼む。』
あの言葉は、やはりこの子へ向けられたものではないのか。
しかし確証はない。
考えても答えは出なかった。
二日後。
深い森へ入った。
「今日はここで野営にしよう。」
戦士は荷車を止める。
「流石に限界だ……。」
六十時間にも及ぶ魔王との死闘。
その後、休む間もなく大量の財宝を運び続けた。
全員の疲労は限界を超えていた。
焚き火を囲み、簡単な食事を済ませる。
聖女は赤子へミルクを飲ませると、優しく布を掛けた。
「おやすみなさい。」
赤子は小さく笑う。
勇者は剣を手元へ置いた。
「本来なら見張りを立てるべきだが……。」
「交代で……。」
賢者が言いかけた。
しかし言葉は最後まで続かなかった。
ぐぅ……。
そのまま眠ってしまった。
戦士も。
聖女も。
勇者も。
極限の疲労には勝てなかった。
焚き火だけが、パチパチと静かに燃えている。
深夜。
草むらが揺れた。
「……いたぞ。」
黒装束の男が囁く。
「本当に勇者一行か?」
「ああ。」
「魔王討伐の帰りらしい。」
十人。
二十人。
さらにその後ろから。
三十人を超える野盗たちが音もなく姿を現した。
「ひひっ。」
頭目が笑う。
「運がいい。」
「財宝を山ほど運んでやがる。」
「だが相手は勇者だぞ。」
若い野盗が震える。
頭目は焚き火の方を見る。
勇者たちは誰一人動かない。
大いびきをかいて眠っている。
「見張りもいねぇ。」
「完全にくたばってやがる。」
野盗たちは顔を見合わせる。
「……今しかねぇ。」
頭目が手を振る。
「音を立てるな。」
「荷車だけ持っていけ。」
十数人が静かに縄をほどく。
馬を引く。
ギィ……
車輪がわずかに軋む。
勇者は眠ったままだ。
戦士も起きない。
「本当に運べるぞ……。」
野盗たちは思わず笑みを浮かべた。
一台目。
二台目。
三台目。
三台すべての荷車が、森の闇へとゆっくり消えていく。
最後尾の荷車では。
赤子が小さく目を開けた。
「……あぅ。」
しかし泣かなかった。
ただ、夜空を見つめるように、小さな瞳を瞬かせていた。
そして野盗たちは知らない。
自分たちが盗んだ財宝の中に――
世界最強の魔王の娘が眠っていることを。




