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とにかくめんこい魔王の隠し子ですが、貧乏将軍家の福の神になりました。  作者: 忍絵 奉公


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第4話 魔王の約束


 魔王は人間の村へ通い続けていた。

 春には花畑を歩き、夏には川辺で魚を焼き、秋には木の実を拾い、冬には暖炉の前で寄り添う。

 魔王として過ごす時間より、一人の男として過ごす時間の方が幸せだった。

「旅人さん。」

「どうした。」

 娘は少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「赤ちゃんが……できました。」

 一瞬、時間が止まる。

 数千年という長い時を生きてきた魔王でさえ、言葉を失った。

「……本当か。」

 娘は静かにうなずく。

 魔王は震える手で娘のお腹に触れた。

 まだ小さい。

 だが、その奥から小さな命の鼓動が伝わってくる。

 ドクン。

 ドクン。

「我の……子。」

 思わず笑みがこぼれた。

 四天王ですら見たことのない、心の底からの笑顔だった。

「男の子かな。」

「女の子かもしれぬ。」

「どっちでも元気ならいいですね。」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 その笑顔が、魔王にとって世界で一番大切な宝物になった。


 しかし、幸せな時間は長く続かなかった。

 魔王城。

「魔王様!」

 四天王が玉座の間へ駆け込んできた。

「勇者が現れました!」

「聖剣の継承者です!」

「各地の魔王軍が次々と敗れています!」

 魔王は静かに目を閉じた。

 (とうとう来たか。)

 歴代の勇者。

 いつかは自分を倒しに来る。

 それは何百年も前から分かっていた運命だった。

 だが今は違う。

 守りたいものがある。

「侵攻は中止だ。」

「は?」

 四天王全員が固まった。

「人間への総攻撃をすべて停止する。」

「し、しかし!」

「勇者が勢いづきます!」

「構わぬ。」

 魔王は玉座から立ち上がる。

「余計な戦をするな。」

「我らは城を守る。」

 四天王は理解できなかった。

 これまでなら勇者が現れれば迎え撃っていた。

 しかし魔王は違った。

 攻めることをやめたのだ。


 数か月後。

 小さな村。

 娘は苦しそうにお腹を押さえていた。

「あなた……。」

 魔王はその手を強く握る。

「大丈夫だ。」

 村で一番の産婆が必死に叫ぶ。

「お湯を!」

「布をもっと!」

 何時間も続く出産。

 娘の顔色はどんどん悪くなっていく。

 魔王は何もできない。

 世界最強の魔力を持ちながら。

 命だけは救えない。

「お願い……。」

 娘が弱々しく笑う。

「この子を……幸せに。」

「やめろ。」

「そんなことを言うな。」

「お前も一緒に育てる。」

 娘は首を横に振った。

「約束……して。」

 魔王は唇を噛み締める。

「約束する。」

 その瞬間。

「おぎゃああああっ!」

 元気な産声が部屋いっぱいに響いた。

「生まれた!」

 産婆が赤子を抱き上げる。

 真っ黒な髪。

 白い肌。

 角も翼もない。

 人間の赤子だった。

 魔王は恐る恐る抱き上げる。

「……小さい。」

 世界を震わせた魔王の腕が震えていた。

 赤子は小さな指で魔王の指を握る。

 ぎゅっ。

 魔王の目から、一筋の涙が流れた。

「ありがとう。」

 娘は安心したように微笑む。

「かわいい……。」

 その言葉を最後に。

 娘の手は静かに力を失った。

「……。」

「……おい。」

 返事はない。

「起きろ。」

 肩を揺する。

 何度も。

 何度も。

「起きてくれ。」

 魔王は初めて声を上げて泣いた。

 家族を失った男として。

 世界最強の魔王ではなく、一人の父親として。

 赤子だけが何も知らず、小さな手で父の服を握っていた。



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