第38話 夢の薬屋
朝食を食べ終えたブルーは、庭をぐるりと見回した。
軒下には薬草。
物干し竿にも薬草。
棚にも薬草。
箱にも薬草。
「……増えすぎだな。」
レッドも苦笑する。
「もう干す場所がないよ。」
タンとリッチは今日も朝早くから山へ行き、新しい薬草を運んできていた。
ルビーが一つ一つ名前を書いた札を付けていく。
「これは日陰で乾燥。」
「これは風通しが大事。」
「これは直射日光は駄目。」
その様子を見ていたブルーが、突然立ち上がった。
「よし。」
「店を作ろう。」
「え?」
ルビーは目を丸くした。
「まだ早いわよ。」
「薬師試験は一か月後なのよ?」
「合格するかどうかも分からないし……。」
しかしブルーは首を横に振る。
「違う。」
「一か月しかない。」
「今から作っておかないと間に合わない。」
ルビーは苦笑する。
「だから、合格するとは限らないって。」
ブルーは真っ直ぐ妹を見た。
「いや。」
「分かる。」
「お前は絶対合格する。」
「しかも主席でな。」
ルビーは吹き出した。
「そこまで言う?」
「言う。」
ブルーは即答だった。
「お前ならできる。」
レッドも親指を立てる。
「僕もそう思う!」
「店を作ろう!」
「二人とも……。」
ルビーは照れくさそうに笑った。
その日の午後。
ブルーとレッドは庭の隅へ向かった。
「ここならいいな。」
家の塀の一部を取り壊し始める。
ゴン!
ゴン!
ゴン!
近所の人たちが不思議そうに覗いてくる。
「何を始めたんだ?」
レッドが元気よく答える。
「薬屋!」
「うちは薬屋になります!」
村人たちは顔を見合わせる。
「本気か?」
「面白そうだな。」
応援してくれる人も増えてきた。
一方、ルビーは薬草の山を前に悩んでいた。
「保存場所が足りない……。」
ブルーが聞く。
「薬草って何が一番駄目なんだ?」
「湿気。」
ルビーは即答した。
「湿気を吸うと品質が落ちるの。」
「乾燥した場所で保存しないと。」
ブルーは腕を組む。
「湿気を吸う……。」
「あ。」
「珪藻土だ。」
レッドも思い出す。
「壁材に使われてるやつ?」
「そう。」
「湿気を吸ってくれる。」
ブルーは笑った。
「決まりだ。」
「店舗は珪藻土で作ろう。」
「薬草専用の保管庫も付ける。」
ルビーは感心する。
「そこまで考えてたの?」
「商売だからな。」
ブルーは少し誇らしげだった。
その頃。
庭ではリリィが遊んでいた。
「あぅ!」
以前はよちよち歩きだった。
今では小さな足で軽く走れるようになっている。
「待てー!」
レッドが追いかける。
「きゃー!」
リリィが笑いながら逃げる。
タンも全力疾走。
「ワン!」
リッチも負けじと駆け回る。
「ニャ!」
三人と二匹は庭を何周も走り続けた。
ルナリーナは洗濯物を干しながら笑う。
「元気ねぇ。」
ルビーも勉強の手を止め、優しく見つめる。
やがて――
「あぅ……。」
リリィの足が止まった。
タンもその場にぺたり。
リッチも大きくあくびをする。
三人(?)は並んで芝生の上へ倒れ込んだ。
すぅ……。
すぅ……。
あっという間に眠ってしまう。
リリィはタンを抱き枕にし、
リッチはリリィの頭の横で丸くなる。
木漏れ日が優しく三人を包んでいた。
レッドはその光景を見て、両手で胸を押さえる。
「……尊い。」
ブルーが笑う。
「またそれか。」
「だって。」
「かわいすぎるだろ。」
ルビーも笑った。
「それには同意する。」
ルナリーナは毛布をそっと掛けながら微笑む。
「この子たちを見ていると、どんな疲れも吹き飛ぶわね。」
家族はしばらく作業の手を止め、その幸せそうな寝顔を静かに見守っていた。




