第37話 薬師への道
ナルル事件が片付き、ツェッペリン家には再び穏やかな日常が戻ってきた。
……しかし、それは普通の日常ではなかった。
翌朝。
「ワン!」
タンが山から帰ってくる。
口には見たこともない青い葉っぱをくわえていた。
「ニャ。」
少し遅れてリッチも戻ってくる。
今度は細長い白いキノコをくわえていた。
「また何か持ってきた!」
レッドが笑う。
ルナリーナは苦笑いした。
「最近、毎朝これね。」
ルビーは葉っぱとキノコを机に並べる。
「どちらも初めて見る。」
そう言うと、もうすっかりおなじみになった分厚い本――
『薬草大全』
を開いた。
ページをめくる。
「これは……。」
「青霊草。」
さらにもう一つ。
「こっちは……。」
「白雲茸。」
説明を読む。
「どちらも珍しい薬草。」
「三百年物ほどではないけど、それでもかなり高価みたい。」
ブルーは笑う。
「また当たりか。」
「うちの庭、毎朝宝探しだな。」
それからというもの。
毎朝のように、タンは珍しい薬草や根菜を。
リッチは見たことのないキノコや果実を。
家へ持ち帰るようになった。
もちろん、
三百年物のような国宝級は滅多になかった。
それでも百年物や希少種ばかりである。
庭には乾燥中の薬草が吊るされ、棚には瓶詰めされた薬材が並び始めた。
ルナリーナは思わず笑う。
「いつの間にか薬屋さんみたいね。」
その一言に、ルビーが冗談半分で言った。
「じゃあ……私、薬師の免許を取って薬屋を始めようかしら。」
一瞬静まり返る。
すると、
ブルーが真顔で頷いた。
「それ、いいな。」
「え?」
「本気?」
「もちろん。」
ブルーは棚を見回した。
「うちは貧乏だ。」
「でも薬草は毎日タダで集まる。」
「仕入れ代はゼロ。」
「売れなくても赤字にならない。」
レッドも笑う。
「確かに!」
「最高の商売じゃん!」
ルナリーナも嬉しそうに微笑む。
「ルビーなら向いてると思う。」
ルビーは少し照れながら笑った。
「じゃあ……。」
「本当に目指してみようかな。」
翌日から。
ルビーの猛勉強が始まった。
薬草大全。
薬学基礎。
調合法。
毒物学。
薬液抽出法。
乾燥保存法。
分厚い本が机いっぱいに積み上がる。
「これだけ覚えるの……。」
レッドは見ただけで頭を抱えた。
「無理。」
しかし、
ルビーは違った。
ページを読めば読むほど頭へ入る。
「あれ?」
「もう覚えた。」
抽出方法も、調合比率も、薬の作り方も、驚くほど簡単に理解できる。
ルナリーナが驚く。
「昨日勉強したところでしょう?」
ルビーは笑う。
「全部覚えてる。」
「忘れないの。」
ブルーも感心した。
「最近のルビー。」
「頭の回転が前よりずっと速い。」
ルビーは少し考えた。
「もしかして……。」
「リリィのおかげかな。」
家族全員がリリィを見る。
その頃。
当の本人は――。
庭でリッチとタンに囲まれながら遊んでいた。
「あぅ!」
「タン!」
「りっち!」
タンは尻尾を振って走る。
「ワン!」
リッチも負けじと飛び跳ねる。
「ニャ!」
リリィは二匹をぎゅっと抱きしめる。
三人(?)は芝生の上を転がりながら笑っていた。
その光景を縁側から眺めていたレッドは、
思わず胸に手を当てる。
「……尊い。」
ブルーが吹き出した。
「何だ、その感想。」
レッドは真剣な顔で答える。
「だって。」
「あの光景だけで世界が平和になる気がする。」
ルナリーナもルビーも笑い出す。
庭には、リリィの無邪気な笑い声。
タンの元気な鳴き声。
リッチの優しい鳴き声。
そして家族の笑い声が、いつまでも響いていた。




