第36話 リッチの対抗心
夕方。
街から戻ったブルーは、大事そうに布包みを抱えて家へ入ってきた。
「ただいま。」
「お帰り!」
レッドが真っ先に駆け寄る。
「どうだった?」
ブルーは苦笑いを浮かべた。
「薬屋の主人が、キノコを見た瞬間に椅子から転げ落ちた。」
「えぇ!?」
家族全員が驚く。
ブルーは当時の様子を思い出しながら話し始めた。
「こ、これは……!」
薬屋の主人は赤蔓霊茸を見るなり、顔色を変えた。
「まさか本物か!?」
何度も本と見比べ、虫眼鏡で調べる。
そして震える声で言った。
「三百年物の赤蔓霊茸です。」
「私では値段を付けられません。」
「王都でも滅多にお目にかかれない代物です。」
ブルーが尋ねた。
「いくらくらいですか?」
主人は首を横に振った。
「値段ではありません。」
「こんな物は、欲しい者同士が競り合う品です。」
「オークションへ出してください。」
「その方が何倍、何十倍にもなるでしょう。」
話を聞き終えたルナリーナは、目を丸くした。
「オークション……。」
ルビーも静かに頷く。
「確かに、その方がいいかもしれない。」
ブルーは布包みをテーブルへ置いた。
「どうする?」
「オークションに出したいそうだ。」
家族は顔を見合わせた。
その時。
庭から元気な鳴き声が聞こえた。
「ワン!」
リリィとタンが楽しそうに追いかけっこをしている。
「タン!」
「あぅ!」
ころころ笑うリリィ。
タンも嬉しそうに飛び跳ねる。
レッドは外へ飛び出した。
「タン!」
「お手柄だな!」
頭をなでると、タンは得意そうに胸を張る。
「ワン!」
リリィもタンに抱きつき、二匹は楽しそうにじゃれ合った。
その様子を縁側から見ていたリッチ。
「……ニャ。」
じっとタンを見つめる。
タンは家族みんなに褒められている。
リリィもタンとばかり遊んでいる。
リッチは少しだけ目を細めた。
「ニャ……。」
どこか悔しそうだった。
翌朝。
まだ日の昇らない時間。
リッチの姿が庭から消えていた。
「リッチ?」
ルナリーナが探すが見当たらない。
しばらくして――。
ガサガサ……
草むらをかき分ける音が聞こえた。
「ニャ!」
リッチが戻ってきた。
口には見たこともない大きな根菜をくわえている。
金色に近い黄色。
人参のような形だが、表面には細かな模様と沢山のヒゲが生えていた。
「え?」
レッドが受け取る。
「また知らない野菜だ。」
ルビーはじっと見つめた。
「これも……。」
「見たことがある。」
また本棚へ走る。
「薬草大全!」
ページをめくる。
「違う……。」
「これでもない。」
さらにページをめくる。
そして――。
「あった!」
指を止める。
『金画魂参』
ルビーは説明を読み始めた。
「百年物で魔力回復。」
「二百年物で寿命を延ばす薬の材料。」
「三百年物は、王家の秘薬に使われる幻の霊根。」
ブルーは根菜を持ち上げ、本と見比べる。
長さ。
太さ。
色。
根の節。
すべて一致している。
「おいおい……。」
「これも三百年物じゃないか。」
レッドはリッチを見る。
「リッチ!」
「お前もすげぇ!」
リッチは知らん顔をしながら前足を舐めていた。
「ニャ。」
だが、しっぽだけは嬉しそうに揺れている。
リリィはそんなリッチを抱きしめた。
「りっち!」
「いいこ!」
リッチは目を細め、小さく喉を鳴らした。
ルナリーナは困ったように笑う。
「また国宝級……。」
「どうしましょう。」
ルビーも苦笑する。
「うち、貧乏なのに……。」
「国宝級ばかり増えていく。」
ブルーは腕を組んだ。
「この金画魂参も、オークションに出すべきだろう。」
「必要としている人に使ってもらえるし、そのお金で家族や村のみんなも助けられる。」
レッドは大きく頷いた。
「決まりだ!」
その横で、タンが「ワン!」と鳴く。
するとリッチも負けじと「ニャ!」と返した。
一匹と一匹。
どうやら二人(?)の間では、
「どちらがもっとすごい宝物を見つけられるか」
という、静かな勝負が始まっていた。
家族はまだ、その微笑ましいライバル関係に気付いていなかった。




