第34話 タンのお土産
翌朝。
ツェッペリン家の庭には、気持ちの良い朝日が差し込んでいた。
「ワン! ワン!」
元気な子犬の鳴き声が響く。
「タン、タン!」
リリィも手を叩いて笑う。
「あぅ! タン!」
レッドは笑った。
「『ワンワン』じゃなくて『タンタン』って聞こえるね。」
「じゃあ、お前の名前はタンだ!」
子犬は嬉しそうにしっぽを振る。
「ワン!」
こうして、新しい家族の名前はタンに決まった。
タンは庭で放し飼いにされ、リッチと一緒に元気よく走り回っていた。
そして翌朝――。
ルナリーナが庭へ出ると、玄関先に見たことのない巨大なキノコが置かれていた。
「えっ?」
両手で抱えるほどの大きさ。
傘は深い赤色。
茎には金色の蔓のような筋が何本も走っている。
「こんなキノコ、この辺に生えていたかしら?」
その時、タンが得意そうに駆け寄ってきた。
「ワン!」
ルナリーナはキノコとタンを見比べる。
「これ……。」
「タンが見つけてきたの?」
「ワン!」
タンは胸を張るように一声鳴いた。
レッドは目を丸くする。
「すごい!」
「タンのお土産だ!」
しかし、ルビーだけは真剣な顔でキノコを見つめていた。
「待って。」
「このキノコ……。」
「どこかで見たことがある。」
ルビーは急いで家へ入り、本棚を探し始めた。
「どこだったかしら……。」
古びた分厚い本を取り出す。
表紙には金文字で、
『薬草大全』
と書かれていた。
パラパラとページをめくる。
薬草。
毒草。
霊草。
薬茸。
次々とページを進める。
そして――
「あった!」
ルビーが指差したページには、庭に置かれたものと全く同じキノコの絵が描かれていた。
『赤蔓霊茸』
説明を読み進める。
ルビーの目が大きく開いた。
「うそ……。」
「どうした?」
ブルーが覗き込む。
ルビーは本を読み上げる。
「赤蔓霊茸。」
「百年以上生育したものは万病に効く霊薬となる。」
「二百年以上で失われた視力や内臓機能の回復を助ける。」
「三百年以上になると王侯貴族でも滅多に手に入らない国宝級の薬材となる。」
ルナリーナが息をのむ。
「国宝級……。」
ルビーは傘の大きさを定規で測る。
茎の太さも本と見比べる。
そして静かに言った。
「間違いない。」
「これは……。」
「三百年物の赤蔓霊茸よ。」
部屋が静まり返った。
レッドがぽかんと口を開ける。
「え?」
「そんなにすごいの?」
ルビーは頷く。
「市場に出ることなんて、ほとんどない。」
「値段も書いてない。」
「価値が高すぎて、価格が付けられない薬材だから。」
ルナリーナは困った顔になる。
「こんな物、どうしたらいいのかしら。」
ブルーはキノコを見つめながら言う。
「街の薬屋なら分かるかもしれない。」
「専門家に聞いてみよう。」
ルビーも賛成した。
「売るにしても、保管するにしても、まず価値を知らないと。」
ブルーは頷き、布で丁寧に赤蔓霊茸を包む。
「俺が行ってくる。」
以前なら一人で街へ行くことは難しかった。
だが今は違う。
視力はかなり回復している。
歩くことにも自信があった。
「気を付けてね。」
ルナリーナが送り出す。
「すぐ戻る。」
ブルーはキノコを背負い、街道を歩き始めた。
その後ろ姿を見送るリリィ。
「あぅ……。」
タンも「ワン!」と一声鳴いた。
誰も知らなかった。
この一本のキノコが、ツェッペリン家の運命をさらに大きく変えていくことを。




