第33話 新しい家族
ナルル事件が一段落し、ツェッペリン家には久しぶりに穏やかな時間が流れていた。
庭ではリリィがよちよちと歩いている。
「あー!」
「にぃ!」
「にゃ!」
言葉らしい言葉が少しずつ増えてきた。
ルナリーナが思わず手を叩く。
「今、『にぃ』って言ったわ!」
レッドは大喜びする。
「僕のこと?」
「レッド!」
「レッドって言ってごらん!」
リリィは一生懸命に口を動かす。
「れ……れっ……。」
「れぇ!」
「おおーっ!」
家族全員が拍手した。
ルビーも笑顔になる。
「すごい。」
「このくらいの子って、こんなに早く話せるものなの?」
ブルーは腕を組む。
「そういえば……。」
「リリィって、いくつなんだ?」
一同が固まった。
ルナリーナが首をかしげる。
「考えたこともなかったわ。」
ルビーはリリィを抱き上げる。
「見た目は……。」
「一歳から二歳くらい?」
ブルーも頷く。
「それくらいに見える。」
レッドが素朴な疑問を口にする。
「誕生日は?」
「……。」
また沈黙が流れた。
誰も知らない。
名前は付けた。
家族にもなった。
それなのに、生まれた日だけは誰にも分からなかった。
ルナリーナは少し寂しそうに笑う。
「かわいそうね。」
「お祝いもしてもらったことがないのかもしれない。」
その時、ルビーが優しく言った。
「だったら決めましょう。」
「私たちが。」
「誕生日を。」
レッドは目を輝かせる。
「いいね!」
「いつにする?」
ブルーは少し考え、笑った。
「父さんが戦争から帰ってきた日。」
「その日を誕生日にしよう。」
「家族になった記念日でもある。」
ルナリーナも頷く。
「素敵ね。」
「リッチも一緒にお祝いしましょう。」
「ニャ。」
リッチも嬉しそうに鳴いた。
レッドは笑う。
「リッチも家族だからね!」
リリィは意味は分からないながらも、家族の笑顔を見て嬉しそうに笑った。
「あぅ!」
午後。
レッドは庭でリリィと遊んでいた。
「ほら。」
「捕まえてごらん。」
「あぅ!」
リリィは一生懸命に追いかける。
転びそうになると、リッチがそっと身体を支える。
「ニャ。」
「ありがとう、リッチ。」
レッドが笑った、その時だった。
草むらがカサッと揺れる。
「ん?」
そこから、小さな茶色い子犬がひょこっと顔を出した。
垂れた耳。
ふわふわの毛並み。
つぶらな黒い瞳。
まだ生まれて間もないような、小さな子犬だった。
「わぁ!」
レッドは目を丸くする。
「かわいい!」
子犬はしっぽを大きく振る。
「クゥ~ン!」
リリィも目を輝かせた。
「あぅ!」
「いぬ!」
家族全員が驚く。
「今、『いぬ』って言った!」
ルナリーナが思わず笑う。
子犬はゆっくりとリリィの前まで歩いてきた。
そして――
ぺろっ。
リリィのほっぺを優しく舐めた。
「あはは!」
リリィは嬉しそうに笑い、子犬をぎゅっと抱きしめる。
子犬も嫌がることなく、しっぽをぶんぶん振った。
「ワン! ワン!」
その様子を見ていたリッチは、静かに子犬へ近づく。
子犬は一瞬だけ緊張したように姿勢を低くした。
しかし、リッチが優しく鼻先を近づけると、
くん。
くん。
互いの匂いを確かめ合う。
次の瞬間。
「ニャ。」
「ワン!」
まるで友達になろうと言っているように、二匹は鼻先を軽く触れ合わせた。
レッドは笑顔で叫ぶ。
「リッチに友達ができた!」
庭には、リリィの笑い声と、子犬の元気な鳴き声が響き渡る。
しかし、その子犬の首輪には、小さく見慣れない紋章が刻まれていた。
その紋章に気づいた者は、まだ誰もいなかった。




