第32話 自ら招いた逮捕
庭に集まった村人たちは、静まり返っていた。
ルビーが差し出した酒杯。
その前で、ナルルだけが青ざめている。
「どうぞ。」
ルビーは穏やかな笑顔のまま言った。
「せっかくですから、一緒に飲みましょう。」
ナルルは首を激しく振る。
「あなた……。」
「わかってるのね。」
「はい?」
ルビーは首をかしげる。
「何がですか?」
ナルルは震える指で酒杯を指差した。
「私を毒殺する気なんでしょう!」
一瞬、全員が固まった。
「……は?」
レッドが思わず声を漏らす。
ルビーは本当に不思議そうな顔をした。
「何を言ってるんですか?」
「ただのお酒ですよ。」
「いいから飲んでください。」
ナルルは後ずさる。
「飲まない!」
「どうしてです?」
「毒だからよ!」
その言葉が庭中に響いた。
シーン……
誰も口を開かない。
ルビーは静かに首を傾げた。
「毒?」
「どうして毒なんですか?」
「そんなわけないでしょう。」
「失礼ですね。」
「これは、あなたの家にあったお酒ですよ。」
ナルルは完全に取り乱していた。
「騙されない!」
「絶対に飲まない!」
ルビーは一歩近づく。
「じゃあ、どうして毒だと思ったんです?」
「え……。」
「私は一度も毒なんて言っていません。」
ナルルの顔から血の気が引いた。
「…………。」
村人たちもざわめき始める。
「そういえば……。」
「誰も毒なんて言ってないぞ。」
「なんでナルルだけ毒って……。」
「おかしくないか?」
その時。
レッドが首をかしげながら、無邪気に言った。
「ナルルさん。」
「なんで毒って分かったの?」
「…………!」
その一言が、とどめだった。
ナルルの瞳が大きく開く。
「ち、違う!」
「私は……!」
「えっと……!」
言葉が出てこない。
ルビーは静かに酒杯を差し出した。
「なら飲めますよね?」
「ただのお酒なんですから。」
村人たちも次々に声を上げる。
「そうだ!」
「飲め!」
「飲め!」
「飲め!」
「飲め!」
宴会はいつの間にか大合唱になっていた。
ナルルは両耳を押さえる。
「やめて!」
「近寄らないで!」
一人の村人が酒杯を差し出す。
「ほら。」
「飲めば済む話だ。」
ナルルは悲鳴を上げた。
「いやぁぁぁ!」
「殺される!」
「殺人よ!」
「この人たち、私を殺す気よ!」
半狂乱になって暴れ始める。
その瞬間だった。
ガシッ。
力強い手がナルルの腕をつかんだ。
「もう十分だ。」
警備隊長だった。
ナルルは涙を流しながら叫ぶ。
「助けて!」
「この人たちが私を毒殺しようとしたの!」
警備隊長は静かに首を振る。
「誰も毒など入れていない。ただのお酒だ。だが、お前は最初から毒だと決めつけた。」
ナルルは震える。
「ち、違う……。」
「違わん。」
隊長の声は厳しかった。
「毒殺事件を知る者しか、そんな反応はできない。」
「しかも誰も毒とは言っていない。」
「お前が、自分から口にした。」
村人たちも頷く。
「確かに。」
「完全に自爆だ。」
「自分で認めたようなもんだ。」
警備隊長は手錠を取り出した。
カチャリ。
「ナルル。」
「毒殺事件への重大な関与の疑いで拘束する。」
「詳しい話は詰所で聞こう。」
「いやぁぁぁ!」
「違う!」
「私は悪くない!」
「放して!」
暴れるナルルだったが、警備兵二人に押さえられる。
もう逃げられない。
村人たちは静かにその様子を見送った。
ルビーは深く息を吐く。
「証拠はまだ必要です。」
「でも……。」
「これで本格的な捜査は始まります。」
ブルーは妹の頭を優しく撫でた。
「よく考えたな。」
レッドは満面の笑みで親指を立てる。
「ルビー姉ちゃん、大勝利!」
その横では、リリィが何も知らずにリッチを抱きしめていた。
「あぅ♪」
リッチは静かに目を細める。
まるで、
『これでようやく一歩前へ進める。』
そう語っているようだった。




