第29話 消された証人
強盗未遂事件から翌日早朝。
捕らえられた十三人の荒くれ者は、村の隔離所へ収容されていた。
「もう終わりだ……。」
「王都へ送られたら何年牢屋だ?」
「依頼主のことを話せば罪も軽くなるかもしれねぇ。」
荒くれ者たちは、小声で話し合っていた。
その頃――。
隔離所の裏口に、一人の女が立っていた。
ナルルだった。
フードを深くかぶり、顔を隠している。
(あいつらが口を割れば……。)
(全部、私の仕業だと分かってしまう。)
(そうなれば終わり。)
ナルルは小瓶を取り出した。
中には透明な液体が入っている。
「これで……。」
見張りの交代時間を狙い、裏口から忍び込む。
机の上には、大きな水瓶。
囚人たちへ配る飲み水だった。
ナルルは周囲を確認すると、小瓶の中身を静かに流し込む。
透明な液体は、水へ完全に溶け込んだ。
「さようなら。」
そう呟くと、何事もなかったように立ち去っていった。
昼。
牢番が水を配る。
「ほら、水だ。」
荒くれ者たちは喉が渇いていた。
「助かる。」
ごく、ごく、ごく……。
一人。
また一人。
全員が水を飲む。
数十分後。
「……ぐっ?」
一人が胸を押さえた。
「く、苦しい……。」
「どうした?」
「息が……。」
「うわあああっ!」
次々と倒れていく。
口から紫色の泡を吹き、全身を痙攣させる。
牢番は青ざめた。
「医者を呼べ!」
「急げ!」
しかし、間に合わなかった。
十三人全員が、苦しみながら命を落とした。
夕方。
その報告はツェッペリン家にも届いた。
警備隊長が重い表情で頭を下げる。
「申し訳ありません。」
「捕らえた荒くれ者全員が毒殺されました。」
「何ですって!?」
ルナリーナが息をのむ。
ブルーは立ち上がった。
「毒殺?」
ルビーも驚きを隠せない。
「牢の中でですか?」
「はい。」
「飲み水に毒が混入されていました。」
部屋の空気が一気に重くなる。
ブルーは腕を組んだ。
「偶然じゃない。」
「口封じだ。」
ルビーも静かに頷く。
「犯人を生かしておくと困る人物がいる。」
「だから消した。」
レッドは首をかしげる。
「でも、誰が?」
ブルーは考え込む。
「荒くれ者を雇える。」
「しかも証拠を消すために毒まで用意する。」
「ただの村人じゃない。」
ルビーも地図を見つめながら呟く。
「もしかすると……。」
「後ろに誰かいる。」
「もっと大きな組織かもしれない。」
沈黙が流れる。
しかし、いくら考えても答えは出ない。
ブルーは苦笑した。
「心当たりが全くないな。」
「父さんなら何か分かったのかな。」
ルビーも首を振る。
「私たちは誰かに恨まれるようなことなんて……。」
その時だった。
リッチが窓際へ歩いていく。
「ニャ……。」
じっと村の外を見つめる。
その瞳だけは、まるで何かを知っているようだった。
だが、誰もその意味に気付かなかった。
一方その頃。
自宅へ戻ったナルルは、安堵の息をつく。
「これで証人はいない。」
口元に笑みが浮かぶ。
「誰も私にはたどり着けない。」
しかし、その笑みは長くは続かない。
屋根の上から、一対の黄金色の瞳がナルルを見下ろしていた。
「ニャ……。」
子猫の姿に戻ったリッチだった。
ナルルはまだ気付いていない。
自分の犯行を見届けた存在がいることを。




