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とにかくめんこい魔王の隠し子ですが、貧乏将軍家の福の神になりました。  作者: 忍絵 奉公


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第26話 家族の変化


 春の終わり。

 一羽の伝書鳩がツェッペリン家へ舞い降りた。

 ブラウンは手紙を開く。

 その表情が引き締まる。

「王国軍の緊急招集だ。」

 家族全員が息をのんだ。

「戦争……ですか?」

 ルナリーナが不安そうに尋ねる。

 ブラウンは静かに頷いた。

「ああ。」

「北の国境で戦が始まったらしい。」

「将軍である私が行かないわけにはいかん。」

 レッドは唇を噛んだ。

「父さん……。」

 ブラウンは笑顔を作る。

「心配するな。」

「すぐ帰ってくる。」

 そう言って、リリィを抱き上げる。

「リリィ。」

「あぅ。」

 小さな手がブラウンの頬を触る。

 その温もりを胸に刻むように、ブラウンは優しく抱き締めた。

「父さんは頑張るぞ。」

 リッチも近寄り、静かにブラウンを見上げる。

「ニャ。」

「留守を頼む。」

 ブラウンがそう言うと、リッチは理解したように一度だけ頷いた。


 翌朝。

 村人たちが村の入口へ集まっていた。

「ブラウン将軍!」

「必ず勝って帰ってきてください!」

「応援しています!」

 以前は貧乏将軍と陰口を叩く者もいた。

 しかし今では違う。

 村人たちは心からブラウンを慕っていた。

 トムの母親は頭を下げる。

「息子を助けていただいたご恩は忘れません。」

 ブラウンは馬へまたがる。

「皆さん。」

「家族をよろしくお願いします。」

「任せてください!」

 温かい声援が飛ぶ。

 その輪から少し離れた場所で、一人だけ口元をゆがめる女がいた。

 隣人だった。

 (今しかない。)

 (将軍がいない今なら……。)

 その日の夕方。

 隣村の酒場。

 ごろつきたちが酒を飲んでいた。

 隣人は金貨を数枚取り出す。

「仕事よ。」

「貧乏将軍の家を襲ってほしいの。」

 荒くれ者のリーダーが笑う。

「将軍が留守なら楽勝だな。」

「金目の物は全部いただくぜ。」

 隣人はニヤリと笑った。

「赤ん坊がつけている指輪も忘れないで。」

 邪悪な計画が静かに動き始める。


 その頃、ツェッペリン家では――。

 ブルーは今日もリリィを抱いていた。

「あぅ。」

 ぽう……

 指輪が優しく光る。

「……!」

 ブルーは目を見開いた。

「父さんが座ってた椅子。」

「見える……。」

「輪郭がはっきりしてきた。」

 さらに、立ち上がる。

「あれ?」

 軽く踏み込んだだけで、体が前へ大きく進む。

「何だ?」

 庭の薪を持ち上げてみる。

「軽い。」

 今まで両手でも重かった薪を片手で持ち上げてしまった。

「力まで……。」

 ブルーは驚きを隠せなかった。


 一方、庭ではレッドが木剣を振っていた。

「せい!」

「やあ!」

 以前より剣が速い。

 自分でも驚くほど体が軽い。

 試しに走ってみる。

「速い!」

 あっという間に庭を一周して戻ってきた。

「何これ!」

「僕、こんなに速かったっけ?」

 首をかしげる。

「成長期……かな?」

 本人はそれで納得してしまった。


 台所ではルビーが肉を切り分けていた。

「今日は鹿肉が十八キロ。」

「魔狼が三匹で……。」

 包丁を動かしながら、頭の中で計算する。

「一軒あたり七百二十グラムずつ配れば……。」

「端数は燻製にして……。」

 手が止まる。

「あれ?」

 ルナリーナが振り向く。

「どうしたの?」

 ルビーは不思議そうな顔をした。

「私……。」

「こんな計算、できたっけ?」

 以前は家計簿をつけるだけでも苦労していた。

 それなのに今は、複雑な計算が自然と頭に浮かぶ。

「もしかして……。」

「頭も良くなってる?」

 ルナリーナも驚く。

「確かに最近、本を読むのも早くなったわね。」

 ルビーはリリィを見る。

 リリィは何も知らない顔で笑っていた。

「あぅ♪」

 その小さな笑顔を見た瞬間、家族は確信し始める。

 リリィは病気を治すだけではない。

 家族一人ひとりの眠っていた才能や可能性まで引き出しているのではないか、と。

 しかしその幸せを壊そうとする者たちが、すでに村へ向かっていた。

 夜の闇の中。

 隣村の荒くれ者たち十人が武器を手に歩き始める。

 先頭には、薄笑いを浮かべる隣人。

 その視線は、ツェッペリン家だけを見据えていた。



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