第25話 幸せのおすそ分け
翌朝。
ツェッペリン家の庭には、大きな魔狼が三匹と、鹿が一頭並んでいた。
ルナリーナは腕を組みながら困った顔をする。
「こんなに食べ切れないわね……。」
レッドは目を輝かせる。
「毎日肉だー!」
ブラウンは苦笑した。
「さすがに全部は無理だ。」
「傷む前に配ろう。」
ルナリーナも頷く。
「そうですね。」
「村のみなさんにおすそ分けしましょう。」
しばらくして。
ブラウンとレッドは、大きな肉を切り分けて村を回り始めた。
「昨日はリッチが息子さんを助けましたから。」
「少ないですが、どうぞ。」
トムの母親は驚く。
「えっ?」
「いただいていいんですか?」
「もちろんです。」
「昨日のお礼です。」
母親は目に涙を浮かべた。
「お礼を言うのは私たちの方です。」
「本当にありがとうございました。」
次の家。
「おぉ!」
「鹿肉なんて何年ぶりだ?」
老人は大喜びだった。
そのまた次の家。
「こんなにいただいていいのか?」
「ええ。」
「みんなで食べてください。」
村中に肉が配られていく。
「ブラウン将軍は昔から変わらんな。」
「自分が貧しいのに、人へ分ける。」
「だからみんな慕うんだ。」
「リッチも、本当に優しい魔物だったんだな。」
昨日まで恐れていた村人たちの表情は、すっかり柔らかくなっていた。
ただ一人を除いて。
隣人だけはカーテンの隙間からその様子を見つめていた。
「ふん。」
「人気取りしてるだけよ。」
そう言いながらも、肉をもらえなかったことが少し悔しそうだった。
その日の午後。
ブルーはいつものように縁側へ座っていた。
膝の上にはリリィ。
「あぅ。」
リリィは嬉しそうに笑う。
ブルーは優しく抱きしめた。
「今日もよろしくね。」
すると、指輪が淡く光る。
ふわり。
温かな魔力がブルーを包んだ。
「……。」
ブルーはゆっくり目を開ける。
「あれ?」
昨日よりも明るい。
ぼんやりと黒い影が揺れている。
「父さん?」
ブラウンが近づく。
「どうした?」
ブルーは驚いた表情のまま答えた。
「見える。」
「……え?」
「まだ顔は分からない。」
「でも……。」
「人の形が見える。」
家族全員が立ち上がった。
「本当!?」
ルナリーナは涙ぐむ。
ブルーは目を何度もこする。
「父さんが立ってる。」
「母さんは少し右。」
「ルビー姉さん。」
「レッド。」
「みんな……。」
「ぼんやりだけど分かる。」
レッドは飛び跳ねた。
「すごい!」
「リリィは本当に福の神だ!」
ルビーも嬉しそうに微笑む。
「お兄ちゃん……。」
「良かったね。」
ブラウンは言葉にならなかった。
ただブルーの肩へ手を置き、静かに頷く。
その横では、リッチが目を細めて家族を眺めている。
「ニャ。」
まるで、
『まだまだ治る。焦るな。』
そう励ましているようだった。
夕日が家族を優しく照らす。
貧しかった将軍家には、今、お金以上に大切なものが増え続けていた。
それは――
笑顔だった。




