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とにかくめんこい魔王の隠し子ですが、貧乏将軍家の福の神になりました。  作者: 忍絵 奉公


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第24話 黒豹は敵か、味方か


村人たちが帰り始めた、その日の夕方だった。

村外れの森。

「待ってよー!」

七歳ほどの男の子、トムが、一匹の蝶を追いかけていた。

夢中になって走る。

草むらを越え、小川を渡り、気が付けば森の奥まで来ていた。

「ありゃ?」

辺りを見回す。

村が見えない。

「迷った……。」

その時だった。

ガサッ……

茂みが揺れる。

トムは振り返った。

そこには、三匹の魔狼が立っていた。

赤い目。

鋭い牙。

よだれを垂らしながら、ゆっくり近づいてくる。

「ひっ……。」

トムの顔から血の気が引いた。

「お、お母さぁん……。」

魔狼が飛びかかる。

「ガアアアッ!」

「いやぁぁぁ!」

その瞬間だった。

森の奥から、黒い影が稲妻のように飛び出した。

ドンッ!

一匹目の魔狼が吹き飛ぶ。

木へ激突し、そのまま動かなくなった。

「グルルルル……。」

巨大な黒豹。

リッチだった。

「黒豹……。」

トムは震えながら見つめる。

残る二匹の魔狼は、一瞬ひるんだ。

しかし、すぐに左右へ分かれて襲いかかる。

「ガァァッ!」

リッチは低く身を沈める。

一匹目の喉元へ鋭い爪を一閃。

ズバッ!

魔狼は倒れた。

もう一匹が背後から飛びかかる。

リッチは振り返りもせず、長い尾で体勢を崩す。

そのまま振り向きざまに牙で首元をくわえた。

ゴキッ。

静かな音が森へ響く。

三匹とも動かなくなった。

リッチは息一つ乱していない。

トムは腰を抜かしたまま、震えていた。

「た、助けて……。」

リッチはゆっくり近づく。

巨大な牙。

黄金の瞳。

トムは目をぎゅっと閉じた。

(食べられる……。)

しかし。

リッチは少年の服を優しく口でくわえると、

ひょい。

まるで子猫を運ぶように持ち上げた。

「え?」

痛くない。

服だけを器用にくわえている。

そのまま森を歩き始めた。


村では大騒ぎになっていた。

「トムが帰ってこない!」

「森を探せ!」

村人たちが松明を持って集まる。

ブラウンも剣を腰に下げ、捜索へ加わろうとしていた。

その時。

「お、おい!」

見張りの男が森を指差した。

「黒豹だ!」

村人たちは身構える。

しかし次の瞬間、全員が目を疑った。

リッチはトムを傷つけないように服をくわえたまま、ゆっくり村へ戻ってきたのだ。

「トム!」

母親が駆け寄る。

リッチはそっとトムを地面へ降ろした。

「お母さん!」

トムは泣きながら母親へ飛びつく。

「魔物が!」

「魔狼が襲ってきて!」

「でも、この黒豹が助けてくれた!」

村人たちは森の方を見る。

そこには三匹の魔狼の死体が転がっていた。

一瞬、静寂が流れる。

やがて誰かがぽつりと呟いた。

「……助けたのか。」

別の村人も続く。

「命の恩人じゃないか。」

「いや……。」

「恩猫か。」

緊張が解け、あちこちから笑いが漏れた。

トムの父親はリッチの前に進み出る。

深く頭を下げた。

「息子を助けてくださり、ありがとうございました。」

リッチは静かに見つめ返すだけだった。

そこへリリィが駆け寄ってくる。

「あぅー!」

リッチはすぐに表情を緩め、鼻先をリリィへ近づけた。

リリィは嬉しそうに抱きつく。

その光景を見た隣人は、何も言えなかった。

村人たちも、もう誰も武器を構えていない。

ブラウンは静かにリッチの肩へ手を置いた。

「ありがとう。」

黒豹は小さく喉を鳴らした。

夕日に照らされたその姿は、もはや恐ろしい魔物ではなく――

村を守る、誇り高い守護者のように見えた。


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