第23話 守りたい家族
「あなたの家は魔物を飼っている!」
隣人の怒鳴り声が、ツェッペリン家の門前に響いた。
鍬を持つ者。
木の棒を握る者。
二十人近い村人が、不安そうな表情で集まっている。
ブラウン・ツェッペリン将軍は静かに門を開けた。
「皆さん、落ち着いてください。」
低く落ち着いた声だった。
「まずは事情を聞かせてもらえませんか。」
隣人は一歩前へ出る。
「私、この目で見たの!」
「あなたの家の黒猫が、巨大な黒豹になったわ!」
「イノシシをくわえて歩いていたのよ!」
村人たちがざわつく。
「やっぱり本当だったのか。」
「魔物じゃないか。」
「危険だ。」
ブラウンは慌てることなく答えた。
「確かに、リッチには普通の猫ではない部分があります。」
「ですが。」
「この家に来てから、一度でも人を襲いましたか?」
村人たちは顔を見合わせた。
「……いや。」
「ないな。」
「畑を荒らしたこともない。」
「子どもに飛びかかったこともない。」
ブラウンは続ける。
「リッチは家族です。」
「家族を傷つけるようなことは決してしません。」
隣人は首を振る。
「今はそうでも、いつか本性を現すかもしれない!」
「魔物は魔物よ!」
その時だった。
森の方から、木々が大きく揺れた。
ザザザザッ!
「来た!」
誰かが叫ぶ。
次の瞬間。
巨大な黒豹が森から姿を現した。
「うわぁぁ!」
「本当にいた!」
「魔物だ!」
村人たちは悲鳴を上げ、一斉に後ずさる。
黒豹――リッチは大きなイノシシをくわえていた。
堂々と歩いてくる。
ブラウン達も黒ヒョウがリッチなのか?どうかで驚いた。
隣人は震えながら叫んだ。
「討伐しなさい!」
「早く!」
しかし、リッチは村人たちなど見てもいない。
真っすぐツェッペリン家へ歩いていく。
その時。
家の中から、小さな影が飛び出した。
「リッち!」
リリィだった。
まだ幼い足で、一生懸命走ってくる。
「危ない!」
ルナリーナが叫ぶ。
ブラウンも思わず手を伸ばした。
だが、間に合わない。
リリィは黒豹へ飛びついた。
村人たちは息をのむ。
しかし――。
黒豹はそっと猪を地面へ置き、大きな頭を低く下げた。
リリィはその首へ抱きつく。
「あぅ!」
嬉しそうに笑う。
リッチは優しく喉を鳴らし、リリィの頬へ顔をすり寄せた。
巨大な牙を持つ魔物とは思えないほど穏やかな姿だった。
「グルル……。」
それは威嚇ではない。
安心した時に漏れる優しい声だった。
レッドも駆け寄る。
「おかえり!」
黒豹は尻尾をゆっくり振る。
ブルーも玄関から微笑む。
「リッチ、今日もありがとう。」
ルビーはリリィを見つめながら呟いた。
「この子、本当にリッチが大好きなのね。」
村人たちは言葉を失っていた。
「……襲わない。」
「それどころか……。」
「守ってる?」
「本当にリッチなの?」
家族も驚くが、リリィがリッチと言って飛びついたから、本当なんだろう。
隣人だけは納得できない。
「だ、騙されちゃ駄目よ!」
「魔物なのよ!」
しかし、その声には先ほどまでの勢いがなかった。
目の前で見た光景が、それを否定していたからだ。
ブラウンは静かに村人たちへ向き直る。
「皆さん。」
「私は将軍として、多くの戦場で魔物と戦ってきました。」
「敵意を持つ魔物と、そうでない者の違いくらいは分かります。」
「リッチは、この家族を守ってくれています。」
「もし、リッチが誰かに危害を加えるようなことがあれば、その時は私が責任を持って止めます。」
将軍の言葉には重みがあった。
村人たちは互いの顔を見合わせる。
恐怖はまだ消えていない。
それでも、目の前でリリィを慈しむ黒豹の姿は、とても「人を襲う魔物」には見えなかった。
その頃、リリィはリッチの鼻を両手でぺちぺちと叩いて遊んでいる。
「あぅ、あぅ!」
リッチは嫌がるどころか、気持ちよさそうに目を細めた。
その微笑ましい光景に、村人たちの緊張は少しずつ和らいでいった。




