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とにかくめんこい魔王の隠し子ですが、貧乏将軍家の福の神になりました。  作者: 忍絵 奉公


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第2話 魔王城の奥で泣いていた赤子


「……終わったな。」

 勇者は聖剣を鞘へ納め、大きく息を吐いた。

 六十時間。

 飲まず、食わず、眠らず。

 仲間と命を預け合った死闘が、ようやく幕を閉じた。

「まずは魔王の首……は無いのか。」

 戦士が辺りを見回す。

 魔王は黒い粒子となって消滅してしまい、遺体は残っていなかった。

「魔力反応も完全に消えています。」

 賢者が魔力探知を終え、静かに告げる。

「これで世界は救われましたね……。」

 聖女は胸に手を当て、神へ感謝の祈りを捧げた。

 その時だった。

「おぎゃああああっ!」

 甲高い泣き声が、静まり返った玉座の間に響いた。

 四人は同時に顔を上げる。

「……赤ん坊?」

「まさか。」

「聞き間違いでは?」

 再び。

「おぎゃあああっ!」

 今度ははっきり聞こえた。

 勇者は剣を抜く。

「魔物の罠かもしれん。慎重に行くぞ。」

 泣き声は玉座の後ろから聞こえていた。

 巨大な黒曜石の玉座を押してみる。

 びくともしない。

 戦士が前へ出た。

「俺がやる。」

 筋肉を隆起させ、全力で押す。 

 ゴゴゴゴゴ……

 重々しい音を立て、玉座がゆっくり横へ動いた。

 その下には、地下へ続く細い階段が現れる。

「隠し部屋か。」

 勇者たちは慎重に階段を降りた。

 そこは意外にも暖かかった。

 豪華な絨毯。

 木製の揺りかご。

 本棚。

 暖炉。

 まるで普通の家庭の一室だった。

「……魔王の部屋とは思えんな。」

 戦士が目を丸くする。

「見てください!」

 聖女が駆け寄った。

 揺りかごの中で、小さな赤子が手足をばたつかせ、大声で泣いていた。

 白い肌。

 黒い髪。

 小さな手。

 角もない。

 牙もない。

 翼もない。

 どう見ても人間の赤子だった。

「なぜ……。」

 勇者が言葉を失う。

 聖女はそっと抱き上げる。

 すると赤子は安心したように泣き止み、聖女の指をぎゅっと握った。

「かわいい……。」

 思わず笑みがこぼれる。

「待て。」

 賢者が赤子をじっと見つめる。

「魔力を測ります。」

 魔力探知を発動。

 その瞬間。

「なっ!?」

 賢者が吹き飛ばされそうになり、壁に手をついた。

「どうした!」

「……信じられません。」

 額から冷や汗が流れる。

「この赤子……。」

「何だ?」

「私の探知魔法では……魔力が全くない。」

 部屋に沈黙が流れた。

「全く?」

「あり得ません。虫でも、石でも数値は出ます。」

 賢者は震える声で続けた。

「ですが、この赤子は……全く魔力がない。」

 勇者は赤子を見つめる。

 小さく笑いながら、聖女の指を握っているだけ。

 どこにでもいるような赤ん坊にしか見えない。

「……考えても仕方ない。」

 勇者は首を振った。

「王都へ連れて帰ろう。」

 その時、戦士が奥の扉を開けた。

「お、おい!」

 部屋いっぱいに黄金が積み上げられている。

 金貨。

 宝石。

 王冠。

 魔剣。

 伝説級の鎧。

 山のような財宝だった。

「これ全部か……。」

「魔王の財宝……。」

 賢者は息を呑む。

「王国の国家予算を何十年分も超えるでしょう。」

 戦士は口笛を吹いた。

「運ぶの大変だぞ、これ。」

 勇者は苦笑した。

「全部持ち帰る。これも魔王討伐の証だ。」

 荷車を集め、財宝を次々と積み込んでいく。

 その一番安全な荷台には、赤子を寝かせた揺りかごが置かれた。

「この子は誰なんでしょう。」

 聖女が優しく頭を撫でる。

 勇者は答えられなかった。

 魔王城で見つかった。

 人間の赤子。

 測定不能の魔力。

 そして、魔王が最期に残した一言。

 ――頼む。

 勇者の胸に、小さな違和感だけが残り続けていた。



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