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とにかくめんこい魔王の隠し子ですが、貧乏将軍家の福の神になりました。  作者: 忍絵 奉公


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第18話 福の神がやってきた


 夕暮れ。

 古びた屋敷の門が開き、一人の男が帰ってきた。

 鎧はあちこちに傷がつき、外套も何度も繕われている。

 それでも背筋はまっすぐ。

 男の名は――ブラウン・ツェッペリン。

 王国軍の将軍だった。

「ただいま。」

「お帰りなさい。」

 妻のルナリーナが頭を下げる。

 家の中は質素そのもの。

 将軍の屋敷とは思えないほど、家具も食器も古かった。

 ブラウンは苦笑する。

「今月も俸禄は、ほとんど部下へ回してしまった。」

「子どもが生まれた兵士もいたからな。」

 ルナリーナは優しく微笑む。

「あなたらしいですね。」

 ブラウンは自分より、部下の生活を優先する男だった。

 そのため将軍でありながら暮らしは貧しい。

 さらに家計を圧迫している理由があった。

 長女ルビーは幼い頃から病弱。

 薬代が欠かせない。

 長男ブルーは事故で視力を失い、治療費がかかり続けている。

 それでもブラウンは一度も愚痴を言わなかった。

「父さん!」

 次男レッドが勢いよく飛びつく。

「妹ができた!」

「……は?」

 ブラウンは固まった。

「何だって?」

「妹!」

 レッドは満面の笑みで赤子を差し出した。

「森で見つけたんだ!」

「黒猫ちゃんが教えてくれた!」

 ブラウンは妻を見る。

 ルナリーナは苦笑しながら、今日の出来事を最初から説明した。

 説明が終わる頃には、ブラウンは腕を組んで考え込んでいた。

「そういう事情か……。」

 その時だった。

「ニャー。」

 黒猫が玄関から入ってくる。

 口には一羽の大きな野鳥をくわえていた。

「まぁ!」

 ルナリーナは目を丸くする。

「この猫ちゃん……。」

 黒猫は鳥を床へ置いた。

「ニャ。」

「くれるの?」

 ルナリーナが尋ねると、黒猫は満足そうに尻尾を振った。

「今日は肉が食べられるわ!」

 ルナリーナの顔がぱっと明るくなる。

「ありがとう。」

 レッドも嬉しそうに言う。

「この猫ちゃんが赤ちゃんを教えてくれたんだよ!」

「すごい猫なんだ!」

 黒猫は何事もなかったように毛づくろいを始めた。


 奥の部屋では、長女ルビーが赤子を抱いていた。

「かわいい……。」

 痩せた身体。

 青白い顔。

 長く立っていることもできないほど弱っていた。

「あぅ。」

 赤子が小さな手を伸ばす。

 その指には、三つの指輪。

 ふわり。

 指輪が淡く光った。

「……え?」

 ルビーは胸へ手を当てる。

 苦しかった呼吸が楽になる。

 重かった身体が軽い。

「うそ……。」

 ゆっくり立ち上がる。

 いつもなら数歩で息が切れる。

 しかし今日は違う。

「歩ける……。」

 ルナリーナが驚く。

「ルビー!?」

「身体が軽いの!」

 ルビーは赤子を見つめる。

「この子を抱いた瞬間から……。」

 部屋は静まり返る。

 ルビーは嬉しそうに笑った。

「この子……。」

「福の神じゃない!」

 その言葉に、家族全員が赤子を見る。

 ブラウンはゆっくり赤子を抱き上げた。

 小さな寝顔。

 無邪気な笑顔。

「……なるほど。」

 そして力強く言った。

「赤子一人くらい問題ない!」

 家族が振り向く。

「なんとかする。」

「今日から、この子はツェッペリン家の家族だ。」

 レッドが飛び上がる。

「やったー!」

 ブルーも微笑む。

「妹ができたんだね。」

 ブラウンは足元の黒猫を見下ろす。

「それから……。」

「猫、お前も家族だ。」

 黒猫は目を細め、

「ニャ。」

 と短く鳴いた。

 その夜。

 久しぶりに食卓には鳥の肉が並んだ。

 家族全員が笑顔で食卓を囲む。

 そして誰もまだ知らない。

 この小さな女の子が、本当にこの家へ幸運を運ぶ存在になることを。



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