第15話 外れない指輪
クレーム老婆は赤子を抱え、小屋へ戻ってきた。
「まったく、余計なことをしてくれる連中だよ。」
ぶつぶつ文句を言いながら、赤子を毛布の上へ寝かせる。
赤子は機嫌よく笑っていた。
「あぅ。」
「笑ってる場合じゃないよ。」
老婆は赤子の小さな手をつかむ。
指には、三つの指輪。
王都の鑑定師が見れば、すぐに魔王家の品だと分かる代物だ。
「これさえ外れりゃ、一生遊んで暮らせるかもしれない。」
ナイフ。
布。
石けん。
何を使っても外れない。
老婆は顔をしかめた。
「こうなりゃ……。」
物置から、大きな斧を持ち出してくる。
「指ごと切ればいいんだ。」
赤子は何も知らず、小さく笑う。
老婆は斧を高く振り上げた。
「えいっ!」
勢いよく振り下ろす。
その瞬間――
バンッ!
目に見えない何かに弾かれた。
「えっ!?」
斧は老婆の手から吹き飛び、
ガンッ!
天井へ激突。
くるくる回転しながら落ちてくる。
ゴツン。
斧の刃ではなく、峰の部分が老婆の頭へ直撃した。
「うぐっ!」
老婆は頭を押さえて、その場にうずくまる。
額には立派なたんこぶ。
「いったぁぁ……。」
赤子は不思議そうに老婆を見つめている。
「あぅ?」
「おかしいねぇ……。」
老婆は頭をさすりながら立ち上がる。
「たまたまだ。」
「今度は失敗しない。」
もう一度、赤子の指を狙う。
深呼吸。
「今度こそ!」
再び斧を振り下ろした。
バンッ!
またしても見えない壁に弾き返される。
「ぎゃっ!」
斧は再び天井へ当たり、
跳ね返って、
ゴスッ!
今度は老婆の肩へ落ちてきた。
「ギャーーーッ!」
老婆は肩を押さえて床を転げ回る。
「痛い!」
「肩がぁ!」
見る見るうちに青あざが浮かんできた。
赤子はその様子を見て、
「あぅ……あー。」
まるで笑っているような声を上げた。
老婆は涙目で肩を押さえる。
「なんなんだい、この指輪!」
「取れない!」
「取れない!」
「どうしよう!」
しばらく部屋の中をぐるぐる歩き回り、突然立ち止まる。
「……そうだ。」
顔にいやらしい笑みが浮かぶ。
「赤子ごと売ればいいんだ。」
「指輪もついてる。」
「まとめて売っちまえばいい。」
老婆は満足そうにうなずいた。
「そうと決まれば、死なれちゃ困る。」
翌朝。
珍しく老婆は村でミルクを買った。
「これを飲みな。」
哺乳瓶を口へ運ぶ。
赤子はごくごくと飲み始める。
「よし。」
「元気だ。」
老婆は赤子を布でくるみ、抱き上げる。
「王都なら、買う奴もいるだろう。」
ちょうど王都行きの乗合馬車が村へやって来る。
老婆は赤子を抱えたまま乗り込んだ。
馬車はゆっくりと走り始める。
その後ろを、一匹の小さな黒猫が静かに追っていった。
金色の瞳だけが、不思議な光を宿して――。




