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とにかくめんこい魔王の隠し子ですが、貧乏将軍家の福の神になりました。  作者: 忍絵 奉公


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第11話 褒美が欲しい老婆


 店の奥から現れた老人は、王国公認の宝石鑑定師だった。

 白い手袋をはめると、机の上の指輪を一つ手に取る。

「……間違いない。」

 その一言で店内は静まり返る。

 店主も、野次馬も、固唾をのんで老人を見守った。

 鑑定師は一本一本、丁寧に裏側を確認していく。

「ふむ。」

「やはりか。」

 老婆は腕を組んだ。

「どうだい。高いんだろ?」

 鑑定師は老婆を真っすぐ見つめた。

「これで全部か?」

 老婆の肩がぴくっと動く。

「あ……あぁ。」

「全部だよ。」

「本当だな?」

「本当さ。」

 鑑定師は静かに尋ねる。

「出所は?」

「こ、これは……。」

 老婆は視線を泳がせた。

「先祖代々伝わる物だ……。」

 鑑定師はため息をついた。

「ほう。」

「そんなはずはない。」

 店内がざわつく。

「え?」

「どういうこと?」

 鑑定師は宝石を高く掲げた。

「皆さん、ご覧なさい。」

 裏側を見せる。

 そこには小さく、美しく刻まれた紋章。

 黒い翼を広げた魔王家の紋章だった。

「これは、先日勇者パーティが魔王を討伐した際、魔王城から運び出された財宝の一部です。」

「なっ!?」

「魔王城の宝!?」

「本物か!」

 野次馬たちは一斉にどよめいた。

 老婆は青ざめる。

「は……。」

「はぁ!?」

「そんなわけ……。」

 鑑定師は静かに首を振る。

「間違いありません。」

「すべて同じ紋章が刻まれています。」

 一個。

 二個。

 三個。

 十五個すべて。

 ネックレスにも同じ紋章があった。

「よって、これらは王国へ返還されるべき財産です。」

 老婆は思わず袋へ飛びついた。

「やめろぉ!」

 袋を両腕で抱きしめる。

「これはワシのもんだ!」

「離しなさい。」

「嫌だ!」

 店員が引っ張る。

 老婆は絶対に離さない。

「離せぇぇ!」

「やだぁぁ!」

 店内は大騒ぎになった。

「落ち着きなさい。」

 鑑定師が静かに言う。

「今なら、拾ったと申告した者として扱われるでしょう。」

 老婆の動きが止まる。

「……拾った?」

「そうです。」

「王国から褒美が出るかもしれません。」

 老婆の目が輝く。

「褒美?」

「金か?」

「可能性はあります。」

「ですが。」

 鑑定師の表情が厳しくなる。

「このまま持ち去れば、魔王城の財宝を強奪した罪になります。」

「牢獄行きです。」

「牢獄……。」

 老婆はごくりと唾を飲んだ。

「褒美が出るのか?」

「出るかもしれません。」

「出るなら離す。」

「約束はできません。」

「じゃあ離さん!」

 再び袋を抱き締める老婆。

 野次馬たちは苦笑した。

「頑固だなぁ。」

「金しか頭にねぇ。」

 鑑定師も困ったように額へ手を当てる。

 しばらく考え込んだ末、静かに口を開いた。

「……分かりました。」

 老婆が片目だけ向ける。

「私が王都へ同行し、事情を説明しましょう。」

「あなたが拾い届けた功績として、褒美が出るよう働きかけます。」

「約束しましょう。」

 老婆はじっと鑑定師の目を見つめた。

 嘘をついている目ではない。

「……本当だね?」

「ええ。」

「約束します。」

 数秒の沈黙。

 やがて老婆は、大きくため息をついた。

「しょうがない。」

「約束だからね。」

 ようやく袋から手を離した。

 鑑定師は静かに宝を受け取り、ほっと息をつく。

 しかし、誰も気づいていなかった。

 老婆が家に置いてきた赤子の小さな指には――

 魔王家の指輪が、まだ三つ残っていることを。


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