第10話 悪徳店主 VS クレーム老婆
村から半日。
城下町で一番大きな宝石店。
店内には高価な指輪や首飾りが並び、貴族御用達として知られる店だった。
「すみませんねぇ。」
ギィ……
扉を開けた瞬間、店員が顔をしかめる。
「……また来た。」
「あの婆さんだ。」
店の奥から店主が姿を現す。
丸々と太った男。
この町では有名な悪徳商人だった。
「今日は何の御用で?」
「売りたい物があるんだよ。」
老婆は袋をどさりと机へ置いた。
「見な。」
店主は袋を開き、鼻で笑う。
「どうせガラク……。」
言葉が止まった。
「…………。」
美しい宝石。
一つ手に取る。
重い。
細工は超一流。
宝石は見たことがない品質。
(なんだ、この指輪は……。)
続いてネックレス。
これも王侯貴族しか持てないほどの逸品。
(全部合わせたら、とんでもない値段になるぞ。)
店主は顔色一つ変えず、宝石を机へ戻した。
「ふむ。」
「全部で銀貨五枚だな。」
老婆の眉がぴくりと動く。
「……は?」
「ガラクタだからな。」
「古いし傷もある。」
「銀貨五枚でも高いくらいだ。」
店員たちは笑いをこらえている。
(どうせ田舎の婆さんだ。)
(相場なんて分かるわけがない。)
(大儲けだ。)
ところが。
老婆は机を叩いた。
ドンッ!
「誰がガラクタだってぇ!」
店中に怒声が響く。
「ワシゃ目利きじゃないがね!」
「そのくらい分かるよ!」
「銀貨五枚ぃ!?」
「ふざけるんじゃないよ!」
店主も負けない。
「じゃあ他所へ行けばいい。」
「どこへ持って行っても同じ値段だ。」
「お前みたいな素人は知らんだろうがな。」
老婆は腕を組む。
「へぇ。」
「じゃあ聞くけどね。」
「ガラクタなら、なんであんたの額から汗が流れてんだい?」
「…………。」
店主の額には、一筋の汗。
図星だった。
店内がざわつく。
「確かに。」
「あの店主、汗かいてる。」
「珍しいな。」
「なんか隠してる?」
野次馬が集まり始めた。
「見せてみろ!」
「どれどれ!」
「うわっ!」
「この宝石、本物か?」
「こんなの見たことねぇ!」
町人たちは次々と声を上げる。
店主は慌てる。
「お、お客様!」
「営業の邪魔です!」
老婆は勝ち誇ったように笑う。
「聞いたかい!」
「ガラクタじゃないってさ!」
「銀貨五枚だなんて、犬でも笑うよ!」
野次馬まで参戦した。
「店主、ぼったくる気だったな!」
「ひでぇ商売だ!」
「またやってやがる!」
「だから悪徳商人って呼ばれるんだ!」
店主の顔が真っ赤になる。
「うるさい!」
「静かにしろ!」
しかし騒ぎは収まらない。
老婆はさらに畳みかける。
「鑑定士でも呼んだらどうだい!」
「それとも本物だってバレると困るのかい!」
「ぐっ……。」
完全に追い詰められた。
その時だった。
店の奥から、白い髭を蓄えた老人がゆっくり姿を現す。
町でただ一人。
王国公認の宝石鑑定士だった。
「騒がしいと思ったら……。」
老人は机の上の指輪を一つ手に取り、静かに目を見開く。
「……これは。」
店内の空気が、一変した。




