1章 第5話『この矛盾を——』
ヘルは今どう思っているのか……。
是非読んでみてください!
イヴを殺した。
二人目のお母さんを殺した。
冒険者三人を殺した。
その光景を見ていた他の冒険者達が尻餅ををつき声を上げる。
「おい、な、何でいきなり首が——」
さらに首が飛んだ。もう誰も最後まで話すことができていない。
ヘルに考える暇を与えてはくれない。
——レベルが上がりました——
——レベルが上がりました——
——レベルが上がりました——
その場にいた十数人の首が飛ぶ。そして、頭に文字が浮かび続ける。"レベルが上がった"と。
「はは、は」
もう、何も考えたくないとばかりに掠れた笑い声が漏れる。
「ヘル、お前……。冒険者カードを見せろ」
普段とは違うアダムの言葉遣いに肩を振るわせる。ヘルの目から視線を逸らすことなく見つめている。
ヘルが視線を外しポケットから冒険者カードを取り出して、渡す。
アダムは受け取って、自分の指を噛み血を1滴垂らす。
何をしてるのか分からないヘルは黙ってその動作を見ていると、アダムの顔色がだんだんと変わっていく。
顔を真っ青にしたアダムはヘルの冒険者カードを落として——、
「お、お前、なんてま——」
何かを言おうとしたアダムは、ヘルの前でボトっと首が落ちる。その場に生きてる人はヘル1人だけになった。
血を出し続ける死体と、転がる頭達。その光景に言葉を失っているヘルは自分のカードを拾い視線を落とす。
魔法名 魔首透斬
・恐怖を抱いた人の首を落とす
・人にのみ使用可能、モンスターには不可
・1首あたり寿命を3ヶ月消費する
言葉を失う。人を殺すことに特化した最悪最低の魔法。
「何で、こんな魔法なんだよ……」
もっと他にあるだろと。そう思ってしまう。そして、あの時の……クマ事件の親子の事を思い出す。
忘れていたわけではない。ただあの人達を殺してしまったから、誰かを助けて生きたいと、そう思った。
でも、この世界を少し楽しもうとも考えてもいた。日本では漫画やゲーム、ラノベしか興味を持たなかった俺が初めて、自分から勉強し、親とくだらない話をして、笑い合った。それなのに——、
「これが人を殺したのに、異世界を楽しもうとした罪人に降る罰なのか……?」
閻魔大王を頭に浮かべ、そんな事を溢す。
逃げよう。誰もいない場所に。
これからは1人で暮らそう。迷惑をかけないように。
誰も殺さないために。
「——助けたいなぁ……」
外が騒がしい事に気づいた。
ヘルは冒険者カードをポケットに入れ、アダムとイヴの頭を持って外に出る。
街は崩壊寸前かと思うくらいの酷い有様だった。モンスターが人を襲い、泣き叫ぶ子供達は呆気なく殺される。
空気中が土と血で紅くなっている。
「何でモンスターがいるのよ!?」
「結界張ってた人が死んだってよ!?」
モンスターに追われている2人の男女が声を荒げていた。その2人はゴブリンによって背中を切りつけられ殺される。
初めて見るモンスターに足がすくむが、こんな場所にいたらどれだけ自分の魔法が被害を出すか分からない。自分が殺されるかもしれない。
早く逃げようとしていると、路地裏から声が聞こえてきた。
「お願い! やめて!」
「へ、へへ。どうせ死ぬんなら一回くらい、いいだろ?」
金髪の女の子は中年くらいの太っている男に腕を掴まれていた。
「おい、これ見てみろよ」
ヘルの体が勝手に動いていた。男の肩を叩き、アダムとイヴの頭を見せつける。
「あ? 何だお前? 今いいとこ——な、何だお前! きもち……」
男の首が落ちる。ヘルは魔法をこうやって使うと体が勝手に理解しているのかと考える。
「あ、ありがとう」
歳が同じくらいの金髪赤瞳の女の子は目を合わせたくないのか、下を向いたままお礼を言ってきた。
ヘルは何も言わずにその場を去ろうとしたが、後ろから女の子がついてくる。
「おい、何でついてくるんだ?」
「1人じゃ怖いし、いいじゃん2人の方が怖くないでしょ」
独りになりたいヘルにとって、あまりにも残酷な言葉。
「あのな、俺は独りがいい……危ない!」
「キャっ!」
路地裏から出ようとした直後、ヘル達の目の前にゴブリンが、襲いかかってきた。
くそ、どうする? 戦い方は教わってないぞ?
ゴブリンは剣を一本握っていた。ヘルは武器がないか辺りを見回していると、さっき襲われてた冒険者が落としたのか、剣が落ちている。
それを拾い、前に構える。
「ギギャァァァァァ!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ゴブリンに負けないぐらいの雄叫びを上げる。前から突っ込んでくるゴブリンの横に飛び、腹を切る。
「はぁ、はぁ……た、倒せた」
初めてのモンスター退治はゴブリンで良かったと思っていたら、もの凄い地響きがこちらに近づいてきた。
——何だ!?
ヘル達の目の前で荷台を積んだ、馬車? のようなものが止まる。
「ご無事ですか!? アール様」
「私は大丈夫よ。この人が助けてくれたから」
手綱を握っていた男が、女の子——アールと呼ばれ、笑顔で返事をしていた。
「なるほど。守ってくださり感謝します」
頭を下げてくる男。しかし、ヘルの体から力が抜けていくのを感じた瞬間、
「え!? ちょっと大丈夫!?」
ヘルは倒れてアールの叫び声が聞こえる。
——ちょっと、やばい
ヘルは疲労していたのか気を失ってしまった。
目を覚ますと知らない天井があった。ガタガタと揺れている床。
「ここは……?」
起き上がり、周りを見回す。アダムとイヴの顔は無い。
そして地べたに座る女の子と、デカい袋があった。ヘルは横になって寝ていたが、横に長い椅子を1人で占領していた。
「あ、起きた。もう大丈夫? いきなり倒れてびっくりしたよ」
「大丈夫……だと思う。迷惑かけてごめん」
女の子はほっと、と安心した顔をしている。
「私はアール、君の名前は?」
女の子——アールは立ち上がり、隣に座って聞いてくる。
「俺はヘル、これはどこに向かってるか聞いてもいい?」
「今はモ車で魔法剣学校を目指してるよ。でも、1日じゃつかないから森の手前で野営する予定だよ」
魔法剣学校は、イヴが教えてくれた10歳になったら通わせる気だった学校。剣の、使い方や魔法の使い方を教わり、モンスターと戦う力をつける国が運営している施設。
そして、モ車ってこれの事なのか? 窓から顔を出し前を見る。そこで荷台を引いているのは、馬のような頭に牛のような体、8本の足の生えたモンスター。
「きも! これが言ってたホーモスエイトってやつか?」
この世界は馬車となる足がホーモスエイトとと言うモンスターになっている。
モ車はモンスターが引くからじゃなく、『モー』と鳴くからだそうだ。
空は闇に包まれ始めている。ヘルはどれくらい寝ていたのだろうと考えたが、聞かずにはいられない事を聞き出す。
「なぁ、アールは俺と一緒にいて何も感じないの?」
それは、恐怖を抱かないのか気になっていた事。気を失う前は襲われる寸前だったのに、恐怖を感じていなかったのか、彼女の首は飛ばなかった。
「——? 別に何も感じないけど、どうして?」
「いや、何も感じないならそれでいいんだよ」
口元が緩み、言葉を返す。するとアールは「着いたよ」と言い出し、荷台から降りる。
「それでは、アール様私は森に木の枝を集めてきます。アール様とヘルさんはご飯の準備をお願いできますか?」
「任せて! チャウロンも気をつけてね!」
執事風の男——チャウロンは一例をして、森に姿を消していく。森の近くで野営すると言っていたが、そこまで近くない気がする。
「じゃあ、私達はご飯の支度をしましょうか」
アールは荷台に積んでいたデカい袋を取り出し食料を持ち、チャウロンがつけて行った野営する目印に次々と置き始める。
ヘルは3人分のイスを焚き火を覆う感じて三角の形に配置する。ひと段落つき腰を下ろしているアールに聞いてみる。
「その、チャウロンさん? とはどんな関係なんだ?」
「んー、そうだなー。同じく自由を求める者! みたいな?」
拳を空に掲げ、目を輝かせて行ってくる。返す言葉が思いつかず困っていると、チャウロンが帰ってくる。
「それでは、ご飯の準備をします」
ご飯を食べ終え、チャウロンは外で手綱を握り、いざって時のために見張り役として外で眠る。荷台の中でアールとヘルは眠りについていた。
『どうして、私を殺したの?』
『なんで俺を殺したんだ?』
「——っ! はぁ、はぁ……」
勢いよく起き上がる。頭の中に浮かび始めたイヴとアダムの言葉をかき消すように。
それでも頭に響き続ける。『どうして』、『なんで』、
『『殺したの』』
ヘルの足は勝手に動き出した。それは現実逃避のように。頭ではなく体を動かせば落ち着くだろうと、森へ走り出す。
走って、走って、走って、
あの言葉が頭に響かないために。
あの光景が頭に浮かばないように。
あの二人を殺してしまった事実から目を背けるために。
何も考えずに走り続ける。
「はぁ……はぁ……」
どれくらい走ったのか、もうモ車は見えない。これであの言葉たちは置いてこれたと、安心したら後ろから誰かの声が聞こえてくる。
「ねぇ、待って! 待ってって! 森は危ないんだよ!」
それは、アールの声。必死に走り息を切らせながらも声を上げている。
「はぁ…はぁ……、やっとぉ、追いついた」
「何で……どうして、追ってきた?」
月は雲で隠れているのか、森の中だからなのか、アールの表情がはっきり見えない。けれど、笑っているような気がした。
「もちろん、助けてくれた人を見殺しにはできないよ。この森って危ないんだからね?」
「——いいんだよ。俺のことはもう放っておいてくれ。このままどこかに消えるから、早くモ車に戻れよ」
そう冷たく告げた。これ以上関わらないでくれと。
「ヘルが何に悩んでるのかは分からないけど、全部口に出しちゃえば楽になるかもよ? 私が聞いてるから」
全部口に出す。よくよく考えれば、クマ事件のことも、アダムとイヴを殺したことも、たくさんの冒険者を殺したことも、誰にも話していなかった。
——話せば楽になるのか? 話したら少しは心が軽くなるのか?
今まで誰も話していなかった自分の過去を思い返していると、だんだん怒りが湧いてきて吐き出す決意をする。
そこからヘルは止まらなかった。
「俺は……俺は! 殺したくて殺したわけじゃない! 助けたかったんだ! 助けようとしたんだ! それなのに、何で殺すことになるんだ?」
「……」
クマから親子を助けたかった。ただそれだけだったのに、何で俺の体は恐怖で自由に動かせないのか。
「何でこんな趣味の悪い最低最悪の魔法なんだよ! もっと夢を見させてくれよ! 誰かを死なせるんじゃない、今度は助けられる力を俺にくれよ!」
「……」
人を殺すことに特化した魔法じゃ、誰も救えないと、恥じることもなく泣きじゃくる。
「俺は、俺はただ、誰かを助けたいと思っただけなのに……」
世界で一番不幸だと、そう思っていたら黙っていたアールが話し出す。
「辛い事があったのは分かった。でも、今からでもどうにかなるんじゃない? その魔法で人を助ける事だって——」
「——できない! 俺の魔法がどんな魔法か知ってるか? 恐怖を抱いた人の首を落とすんだとよ! こんなクソッタレな魔法で誰かを救えるかよ!」
今まで使ったこともない口調と、静寂な森に木霊する自分の声に嫌気がさすが、もう止められない。
「俺にどうしろって言うんだよ!? この力で助けられると本当に思ってるのか!? ふざけんなよ! 助けられるわけねーだろ!」
「なら、ヘルはどうしたいの? 本当に誰かを助けるのを諦めて、今みたいに惨めに声を荒げ続けるだけなの?」
森がアールの言葉で静寂に包まれる。さっきよりも静かだ。それはヘルが黙ったから。
『本当に誰かを助けるのを諦める?』
そうするしかないから諦めるんだろ
『今みたいに惨めに声を荒げ続けるだけなの?』
惨めで悪かったな。惨めだろうと、それしか俺にはできないんだよ
『ヘルはどうしたいの?』
そんなの、誰もいないところに独りで……
「……たすけ……」
「——え?」
……俺は助けたい。例え自分の魔法のせいで近づくだけで誰かの首が飛んで殺してしまうとしても、誰かを——
「——助けたい! 今まで殺してきた人達に償うために俺は誰かを助けたい!」
胸を強く掴み、静寂をかき消す。それはヘルの決意。これからの生き方。
誰かを助けたいのに、近づけば殺してしまうかもしれないと言う矛盾。
あまりにも現実味がない。この矛盾を——
「ただの"越想"だな……」
人を殺したという罪を越えて、誰かを助けたいと想ってしまった。
「越想なんかじゃないよ。私も一緒に誰かを助けてもいいかな?」
月明かりがアールを照らす。森の中は闇に包まれていたが、今目の前の彼女だけはヘルの目に輝いて見えた。それこそ月よりも。
綺麗な金髪が、キラキラと輝き赤い瞳がヘルをじっと見つめている。
「どうして、そこまで……」
「んー、私もヘルを助けたいと思ったから、かな?」
「——っ」
彼女の屈託のない笑みがヘルには酷く、それでいて救われたような気がした。
「一緒に助けてくれるのか……? 困っている人が……」
「——? ヘル?」
困っている人がいたら助けようと、言葉を続けようとしたが途切れる。
闇の奥、ヘルとアールの間にデカすぎる赤色の目が突然現れた。
読んでいただきありがとうございます。
越想とは絵空事の様な物です。1人1人の夢? に近いですかね。
文章でも書きましたが、ヘルは罪を越えて助けたいと想ってしまった。ただ、それだけの普通の男の子です。
これからヘルがどうなっていくのか、見守ってあげてください。




