↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
首切りは堕ちる  作者: 越想
第1章 『魂を紡ぐ』
12/14

1章 第12話 『真実の正義』

ついに魔法剣学校から次の舞台に……!!












 ヘル達は魔法剣学校からそう遠くない距離に位置しているダンジョン、に向かっていた。ここのダンジョンには名前がないらしい。世界には残り5つのダンジョンが存在するが、その5つは名前がしっかり存在している。


 名前がないのは何故か、思考に浸っていたヘルだが次の言葉で現実に戻される。


「まさか最初にダンジョンに行くのが俺達だとはな」


「そうだな、驚いたよ。まさかトゥルバとだとは思わなかった」


 ヘルとトゥルバは足並みを揃えずダンジョンに向かっている。トゥルバが前を歩き、その少し後ろをヘルが歩く。


 この1年を通してある答えに辿り着く。おそらく一番相性が悪いのはトゥルバだ。


 トゥルバは正義感が強すぎる。特に一番覚えてるのは、学校が休みの日にアール、ジン、トゥルバで街に出かけたことがある。


 その時にトゥルバが指名手配されている手配書を見て、『許されて言い訳がない』と言っているのが聞こえてきた。


 トゥルバの顔は凄い形相をしていて、その場の皆が触れていいものか考える程だった。


 ジンはお店を見ていてトゥルバを気にしてる暇は無さそうだったが。そして、その後トゥルバと2人きりになった《《時の話》》を踏まえて、ヘルの魔法とトゥルバは相性が悪いと結論づけた。


「ここのダンジョンは全部で10階層。それは覚えてるよな? まずは2階層まで降りて、様子をみよう」


「分かった」


 しかし、トゥルバは慎重だ。困った時は頼りたくなるような性格をしている。こう言う時には頼もしい。


 今から向かうダンジョンは全部で10階層。そのうち初めてのダンジョンという事で2階層まで降り、様子を見て次の機会に備えるお試し回と言う事になった。


 ヘル的にはそれはありがたい事だった。何せ魔法がモンスターに使えない以上、斧で戦うしかないのだから。


 しばらく無言が続き歩いていると、目の前に洞窟が見えてくる。


「デカいな……」


 洞窟の入り口は高さ10メートルくらい横幅も10メートルくらいと、バランスの良い入り口だった。


 奥の方は暗く何も見えない。ダンジョン内は光苔と言う特殊な苔で明るく見えると言っていた。


 洞窟の入り口で立ち止まる。目の前には地下へと下る階段がある。それを見てトゥルバとヘルは息を整えて、


「準備はいいか?」


「……行こう」


 トゥルバの顔を見ながら頷き返す。


 そ

  し

   て

    ヘ

     ル

      達

       は

        洞

         窟

          に

           入

            り

             地

              下

               へ

                と

                 降

                  り

                   て

                    い

                     く





 ダンジョンの中はオルドの言っていた通り壁や天井に付いている光を放つ苔でなんとか見えるようになっている。


 光苔は薄い赤色のような明かりでとても目に悪そうだとヘルは感じた。


 湿っぽい空気に冷たい壁。いたモンスターが来てもおかしくないと感じる空気感にヘルは警戒体制に入ると、


「ギシャァァァァ‼︎」


「——っ?」


 開けた部屋から一匹のゴブリンが出て来た。しかし、それはヘル達を見つけて襲いかかってくるモンスターの反応とは違って見えた。まるで何かから逃げている様な。


 すると、いきなりゴブリンの背中から光苔の赤よりも濃い紅色を噴出した。


「——なっ!?」


「落ち着け!」


 ヘルが驚きを隠せないでいるとトゥルバが声を上げる。


「おいおい、何だァ? 2人しかいねェじゃんかよ」


「人数は、はっきりしないって言っただろ?」


「ま、2人でも《《奴隷国》》に売れば良い値が付くだろ。何てったって『魔法使い』なんだからなァ!」


 奥の方から現れた3人組の男。男達の言葉を理解できずにヘルが固まっていると、


「生徒狩りか」


「しってンのかァ? ま、それなりに有名だもんなァ」


 トゥルバと以前見た手配書に書いてあった犯罪者グループの名前を口にする。


「エルが無駄に子供達を逃すからこうして広まるんですよ……全く、安全に誘拐できないでしょう?」


「追いかけられる方が楽しいだろ? お前は相変わらず何も分かっちゃいねェな、モア」


 男2人は愉快そうに話しているが、1人の男はヘル達から目を離さない。それに業を煮やしたのか、トゥルバが耳元で話してくる。


「この暗闇のせいであいつらの属性が分からない。下手には動けないから様子を——」


 そこまで続けてトゥルバが口を開かなくなる。トゥルバの視線の先、《《それ》》を見て土気色の顔は形相を変える。


 それは3人組と思われていた男達の後ろから更に2人、その2人が手にしているのは……


「……人の頭?」


「気づいたかァ? 頭ってのはなァ、高く売れるんだぜェ? あそこの奴らは変態が多いからこんな簡単な物でも金になる」


「あいつらの話はあまり出すなよ? 今から死ぬ奴らには関係ないが、聞かれるとよろしくないんだ」


 人の頭を売る。ヘルはようやく理解する。こいつらが生徒をダンジョンで誘拐して、売り飛ばす。最悪な犯罪者である事を。


「お前ら……人の命を、何だと思ってんだ!」


「金だよ。生きてる奴は高く売れる。死んでる奴もそれなりに売れる。特に生きてると狂気の変態共が喜んで買う。そしてェ、」


 男は口をぐにゃりと実に愉快そうに話し出す。


「そしてェ! 痛い、痛いと助けて、助けてって泣き喚くガキ共を見るのが最ッ高の……幸せだ」


「な……」


 ヘルは男の狂気に満ちた言葉に何も言い返すことができなかった。


「だから、お前ら2人には俺達の金になってもらう」


 5人の男はエルと呼ばれる男の言葉で剣を構える。それにヘルも応える様に構える。


「トゥルバひとまず俺が時間を稼ぐから逃げて、助けを呼んできてくれ」


 斧を前に構えたヘルが後ろで何やらぶつぶつ言っているトゥルバに伝える。先程からずっと下を向いて、動かないトゥルバは戦えないと判断した。


 しかし、


「誰が、逃げるって? こんな救いようのない犯罪者は殺す」


 そう言ってトゥルバはドリルのような螺旋状の剣を抜く。そして、


正義削土アドル・アース


 薄い赤色のの光が黄土色の光に飲み込まれる。ダンジョンが黄土色に包み込まれると、トゥルバは詠唱を始める。


「愚かな正義は朽ち果てる。

 欺瞞は許されない。捨てるは、愚者の正義。

 欲するは、真実の正義。」


 自分に言い聞かせる様に詠唱を紡いでいる。その詠唱の内容にヘルは唾を飲み込む。


 黄土色の光がトゥルバの左手に集約されていく。


「——我が身は堕ちる。」


 詠唱は完成する。左手に集約された光は新たに一本のドリルを生み出した。


 ドリルは金色と言うには暗く、土色と言うには明るい。まさしく黄土色と表現するのが正しい。


 そのドリルがヘルにはどんな物でも貫ける様に見えた。それでいて……


「貴様らの罪は償う事はできない。——死ね」


 一瞬ダンジョンは静寂に包まれる。そう言いトゥルバは男達に向かって走り出す。静寂を破るのはトゥルバの剣がキュイインと回転する音。

 ドリルの回転音がダンジョン中に響き渡る。


「ちっ、これだから『魔法使い』は嫌いなんですよ」


「本当に分かっちゃいねェ。戦う方が面白いだろ! 殺るぞォ!!」


 トゥルバとエル、モアの戦いが始まる。それを見ているだけではいられない。すぐに助力するべく動こうとすると、ヘルの前に2人の男が武器を構える。


「——っ! 戦わない方法はないのか?」


「戦わないで済むなら俺達は此処ダンジョンにいない」


「それ以上喋るな。ピコ俺達はエルとモアが終わるのを待とう」


 2人はヘルに攻撃を仕掛けてこようとはしない。もちろんヘルが動けば攻撃はするんだろうが。



——どうする? 早くトゥルバを助けないと……



 ヘルの目にはトゥルバが2人を相手に互角にやり合ってる様に見えた。


 エルと呼ばれた男は炎の『魔気』を纏い、トゥルバに斬りかかるが、黄土色の『魔気』と縦横無尽に動く魔法で作られたドリル。


 そのドリルの自由さに加えてトゥルバの『魔気』とエルとの属性相性がトゥルバを有利にしている。

 が、風の『魔気』を纏うモアとは相性が悪い。トゥルバの顔を見ればきついのが伝わってくる。


「いくら魔法があろうと、属性有利には厳しいでしょう?」


「——ちっ」


 トゥルバの『魔気』はモアの『魔気』によって、剣が肌を掠める。赤い飛沫がトゥルバのドリルに着くの見た。


 何としても早く行きたいヘルはどうするか考えていると、斬られた頭を持っているピコと呼ばれた男の手が震えているのを見た。

 その表情はどこか、不安や恐怖を隠している様な顔だった。


「その頭は……誰が斬ったんだ?」


「……」


 ピコは肩を大きく振るわせた。





 瞬間、ピコの首が飛ぶ。



「——っ! お、お前! 何をし——」


 ピコの横にいた男の首も飛ぶ。ヘルは呼吸が早くなるのを感じた。


 その男の叫び声を聞いて、トゥルバ達がこちらを見てくる。


「おいおい、そんな一瞬で殺れる事があんのかァ?」


「魔力を感じなかったが、一体どうやって?」


「……お前も、こっち側なのか……?」


 エルとモアは動きを止め、こちらを睨んでくる。そしてトゥルバも何かを言っていたが聞き取れない。


 ヘルは目の前の男達の首を見て、あの時の事が頭を過ぎるが、



 今は、それよりもトゥルバを助けなくちゃ



 そう想い、頭を振る。そしてトゥルバに駆け寄る。


「遅くなってごめん!」


「……構わない。風の方を頼む」


「分かった」


 ヘルとトゥルバはそれぞれの敵に斧と、剣を構える。


「透明な『魔気』……?」


「そっちも魔法を使うかもしんねェ。気をつけろよ」


 2人も剣を構える。互いの敵と視線を交わし、正面から突っ込む。



「——くっ!」


「ほう? 何です? その剣は」


 モアの攻撃を正面で受け止める。



 こっちの世界に来た頃なら、反応できなかっただろう……。

 でも、今は違う。反応もできる。戦える。



「答える必要は、ない!!」


 モアの剣を弾き、斧に魔力を注ぐ。無属性の攻撃はどうなるのかずっと考えていた。他の属性には簡単な特徴があった。


 火なら熱い、水なら流す、風なら切れる、土なら硬い、闇なら状態異常になりやすい、光は分からない、無属性と分からない。


 だが、1つの答えに辿り着く。


 それは、


「一撃必殺、これでも喰らえ!!」


 ヘルの辿り着いた答え。魔力の拡散。『魔気』を一瞬だけ破る事ができる。理論は分からない。仮説を挙げるとすれば、無属性は何色にも《《染まれない》》から、触れると相手の『魔気』を拡散させてしまう。


 ヘルの魔力的に1回しか使えないが、この一瞬があれば、


「トゥルバ!」


 ヘルの掛け声ど同時に、トゥルバのドリルがモアの腹を貫く。


「ぐはっ」


「ヤんじゃねーか! クソカギ共がァ!」


 エルが更に声を上げて、トゥルバに襲いかかる。だが、属性相性とトゥルバの魔法があるせいでエルは勝ち切れない。


「犯罪者は殺す。死ね」


「笑わせんなよ。死ぬのはお前らだ」


 エルはトゥルバの剣に足を斬られ、ドリルによって後ろから腹を貫かれた。


「まだ、終わりじゃねェ……俺達の残りがいつか、お前らを……」


「誰が来ても同じだ。犯罪者なら、殺す」


 キュイインと言う音が鳴り止み、ダンジョンにはヘルとトゥルバの呼吸音だけが響いていた。


「……帰るか」








 2人は息を整えて、ダンジョンから脱出した。


 ダンジョンから地上に出るまで2人は無言だったがトゥルバが口を開く。


「お前はあいつらを殺して後悔してるのか?」


「——っ!」


 ヘルは先程からずっと暗い顔を続けていた。それは自分でも分かるくらいに。


「そりゃ、後悔するよ。人殺しなんて……大罪だろ」


「……意味のない殺しはそうかもしれない。だが、犯罪者を殺す事は『真実の正義』だと、俺は思う」


「……殺しが、正義……ね……」


「犯罪者が減れば世界から犯罪が消えていく。そうすればいつか犯罪のない世界が作れる」


「——」


 ヘルはトゥルバの犯罪者は殺すと言う、彼の『真実の正義』を聞いて、正義に堕ちた存在なんだと認識した。


 それから無言のまま学校に戻る。

 

 ヘルはトゥルバの『真実の正義』を間違ってると、言い切れなかった。


 犯罪の無い世界を作るには犯罪者を殺せばいい。それは酷く合理的で心のない答えだと思う。でも……

 

 ……それでも、人を殺していい理由にはならない。

 

読んでいただきありがとうございます。


詠唱は大事にしているので、忘れないでくれると嬉しいです! 


魔法発現の理由とか、詠唱については物語が進むにつれて回収していく予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。